黒猫、魔法堂の夢をみる
「……ミュナは変わった子だねぇ。古代精霊語が残っている集落があるってことかねぇ。興味深いことだよ。じゃ空札に書いてみようかね」
手渡された紙には最初から二重円がかかれていた。
円と円の間には精霊様へのご挨拶を書いて、内側にはさっきと同じ術組立て文を書き込んでいく。二度目ともなれば早いよ。
よし、書けた。
これに魔法を入れるって言ってたっけ。
魔力、入れー、入れー、入れー、なんてねー。
突然、机の上の紙が輝きを放った。
――――光った?!
光がくるりと紙をめぐり、ピンとコーティングされたカードへ変化する。
「――――?! ちょ、ちょっとミュナ! あんた、魔粒は持ってるのかい?!」
魔粒?
「術組立て文の最初の方に書いてあっただろう? シルフィードのささやき180量、ノームのあしあと160量って。風魔粒が百八十個と、土魔粒が百六十個を、魔力を入れる時にいっしょに入れないとなんないんだよ」
「よくわかんないですニャ」
きっぱりそう言うと、トレッサさんは困ったような顔で笑った。
「そ、そうかい。まぁ、わかんないものはしょうがないね……。あんた、どういう子なんだろうねぇ……。ミュナ、悪いのに悪用されないように教えておくよ。魔法札というのは、魔法の代わりだ。だから魔法で使うだけの魔粒が必要になるんだよ。さっき魔法書と魔粒の巾着袋もらっただろう? 出してごらん」
開いたページにあったのは、清浄の魔法。お昼ごはんの時にフォリリアさんがかけてくれた魔法だ。
必要スキル値:魔法15
|【清浄】 呪文:アクリーン
|対象を清浄にする。生物可・無生物可。
|(対象例:両手の場合)
|魔量:10 魔粒:火1、水2、風3
「ほら、一番下を見てごらん。魔粒:火1、水2、風3と書いてあるだろう。これが魔法を唱える時に必要な魔粒で、魔法札を作る時も同じだけ使うんだよ、本当ならね」
巾着の中には赤・青・黄・茶色の小さい巾着が四つ入っていて、それぞれ同じ色の粒が入っていた。
「ミュナの場合は使わなくてもいいようだから、使ったフリをするのを忘れないようにね」
「使ったフリ?」
「そうだよ、魔粒がいらないってことは、その分のお金がかからないってことだろ? そうと知れたら悪い商人とかに捕まって、無理やり魔法札や調合液を作らされるかもしれない。ダンジョンに無理やり連れていかれて魔法を使わされるかもしれないよ?」
「こ、コワイですニャ……」
「うんうん、だから誰にも知られないように気を付けるんだよ?」
コワイコワイコワイ! カクカクカクとすごい勢いでうなずく。
とりあえず魔粒を買っておいでとお金を渡される。風魔粒と土魔粒千個ずつ受付で買って、そのままトレッサさんに渡した。
魔素と風の気が結びついた結晶が風魔粒というように、魔素と四大精霊の気でできているのが魔粒だそうだ。
水魔粒は水辺、火魔粒は鍛冶場や火山、風魔粒と土魔粒はその辺に、ポツポツ落ちてるらしい。
売り買いは等価交換で、風・土魔粒は一つ六レト、水魔粒は八レト、火魔粒は十レトと決まっているとか。
自然にできるものだけど、人工的に作り出す魔粒師という職業もあって、魔粒の供給に困ることはないんだって。
「これでしばらくはごまかせるかね。魔法札を売る時は必ずあたしに売るんだよ」
「はい、師匠!」
「それにしても領都で商売するには目立ちそうな特性だねぇ……。魔書師は大量に魔粒を消費するからね。その魔粒の流れが見えない魔書師は怪しすぎる。あんたはどこかの町や集落で自分の店持って、無人販売庫で売るのが一番な気がするねぇ」
お店かぁ。街道沿いにログハウスなかわいいお店があった。ああいうのイイよねぇ。魔法グッズ専門店とか憧れるー!
『黒猫魔法堂』……オシャレくさいな。『迷い人の集いし館』……うーん、異世界の母が出てきそうな……。
とりあえず、師匠に言われるがままにあと四枚[位置記憶]魔法札を書いた。
「よし、合格だよ。この部屋はいつも開いているから、いつでも来て書いてもいいよ。見本もペンもインクもそこの棚にあるからお使い」
書いた魔法札を買い取ってもらうと、一枚三千五百レト、五枚で一万七千五百レトになった。
普通の人だと魔粒代に千百四十レト、空札が三百レトかかるらしいんだけど、私は丸々のもうけ。
お店を始めるのに必要なのは、魔物除けの結界が極小で三十万レト、無人販売庫が十万レトって教えてもらったから――――うん、空札代を引いたとしても、一日十枚書けば二週間でお店開ける。え、すごくない?!
流離いの黒猫、異世界で起業する…………あれぇ? あんまりかっこよくないんだけど!
まぁ、いっか?
とにかく書くぞ。ごはん食べに行ってから、また書く。
書いて書いて書いて、ゆくゆくはこの世界を私の魔法陣一色で染め上げるのだ!
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