魔法ギルド
黒猫、五芒星の許に
ステータスも楽しんだことだし、まず薬を買いに行こう。
フォリリアさんに教えてもらった通りに少し歩くと、こっちもやっぱり立派な赤レンガの建物が建っていた。
『魔法ギルド』という看板に
門の横の『魔書師募集中!』という看板を横目に見ながら建物へと入っていくと、中は妙にがらんとしていて人が少ない。
カウンターの中を見て、私、唖然ですよ! みんなあの魔法使いローブ着てない!!
職員らしき人たちは、白シャツに焦げ茶色の上着というかっちりとした制服。
お客さんたちは普通に私みたいな服だ。
がっくり。ちょっと楽しみにしてたのに……。
「……あの、これを……むぐ」
引換券を受付の眼鏡をかけたお姉さんに渡した。
あれ、お姉さんケモ耳ない。普通の人? それともケモ耳じゃない獣人さん?
「あ、はい。移住してきたんですねぇ。ようこそマルーニャデン魔法ギルドへ。――――これが魔法書「初級」と魔粒になりますよ」
下を向くと、お姉さんの緑の髪が耳からさらさらと落ちた。やっぱり普通の人に見える。町ではケモ耳さんばっかりだったのに、少ないけど普通の人もいるってことか。
緑の髪って地毛なのかな。きれいな緑の髪、夏の芝生の色だ。かわいいお姉さんの雰囲気と合ってる。
「ありがとう……むぐ。あと薬売ってます……ニャ?」
うう、やっぱり『か』はダメだ! ニャになっちゃうよ! これは無理な気がする。
「……かわいいっ……薬はあちらですよぉ!」
出入り口近くのガラスケースが並んでいるところへ案内してもらった。
ずらりと並んでいるのは――――全面ガラスの自動販売機?
「調合液はここで売っていますよぅ。無人販売庫は使ったことがありますか?」
お姉さんはビンが並んだ無人販売庫とかいうのの前に立った。
「ないです……む」
「では説明しますねぇ。どんな調合液がいいですかね? ケガですか? 病気ですか?」
「ケガ……打ち身なんですけど……む」
「では、これがいいかもしれません」
指さされたガラスの中には、コルクふたの小さいビンが入っていた。
説明書きのポップには『キズや打ち身などの軽いケガ用。お子さんにもちょうどいい量です。一つ八百レト』と書かれている。
「あの、八百レトっていくらですニャ……? 銀貨で払えますニャ?」
「はい、大丈夫です。銀貨一枚で千レトですよ。ちゃんとおつりも出ますからね」
「じゃ、これ買います……ぐ」
「身分証明具を商品の前の水晶にかざして…………その後にこちらのお支払いの方の情報晶で、お金か魔粒を入れるか、身分証明具で銀行からお支払いしてくださいねぇ」
『お支払いを選ぶ:硬貨』を指で押し、魔法鞄から出した銀貨を一枚投入口に入れた。下の受け皿に銅貨が二枚落ちてきた。
同時にすぐ前にあったお皿の上に、選んだ調合液が出現。ガラスケースの中からビンが瞬間移動したよ!
次からは「出でよ! 魔力を
「飲み終わったビンはカウンターに持ってきてくれたら、二十レトお返ししますよ」
「ありがとう……。飲んだら寄りま、す」
よしよし、変なイントネーションになってるけど、だいぶ普通になってきた。
お姉さんがカウンターに戻っていくのを見送って、コルクのふたを開ける。
初調合液……! いざ!
一口飲むと、ミントのような香りが鼻に抜け、ほんのりした甘さが口に広がる。
そして、パセリセロリホウレンソウをギュギュっと凝縮したような草ニガイ味が襲い掛かった。ふぐわぁっ!! これ、味わっちゃいけないヤツ……!
目をつぶってぐぐっと全部飲んだ。うう……お水ほしぃ……。
なかなかのお味に口をぱくぱくしているうちに、腕の違和感がなくなった。そでをめくってみるとすっかりキレイになってる。足も痛くない。
ええー?! 味はヒドイけど効き目はすごいよ!!
まわりを見ると、調合液の他にカードやビーズのような粒が入っているガラスケースもあった。
カードには魔法札と書かれている。スキルガイドに書いてあったよね。魔法陣を書いて作るヤツ。
[位置記憶]っていうのが作れると稼げるって書いてあったっけ。――――あ、あった。四千レト。ということは銀貨四枚。
これ、どういうものなんだろう。
売られているカードはつるりとコーティングされ光を反射し、表面には[位置記憶]とのみ書かれている。
魔法陣は裏面に書かれているのかな? どんな模様なのかぜひ見てみたいですよ!
カウンターでさっきのお姉さんに空きビンを渡し、二十レトを受け取った。
「あの、魔書師募集中って書いてあったんですけど、書写のスキルがあるんですけ……――――ウニャ!」
お姉さんはカウンターから乗り出して、私の腕を両手で掴んだ。
「魔書師のたまごゲットですぅぅ!! やってくれたら助かります! この町は魔書師が少ないんですよ! 魔法札、ちょっとお高く買い取れますから!」
どうぞどうぞこちらへー! と案内されたのは、二階の魔法札書写室と書かれた部屋だ。壁側の棚には古っぽい本やペンが並んでいてカッコイイ。
「座って待っててくださいね。今、教える者を呼んできますからね」
そう言ってお姉さんは出て行った。
一番前の机のイスに座っていると、遠くからわちゃわちゃと賑やかな声が聞こえてくる。なんかどんどん近づいてるんだけど……。
ダン!! と、扉が勢いよく開けられた。
ヒェッ!!
耳としっぽがヒュッとなった!
この耳よく聞こえ過ぎるから! 人の耳とチガウんだから!
「もう! みなさん、もっと静かに入ってあげてくださいっ!!」
お姉さんの怒り声といっしょに入ってきたのは、サーモンピンクの髪のおばあちゃん。
ああーーーー?!
おばあちゃん、ローブ着てるよ!! ザ・魔術師って感じの! 紺の生地に金で縁取りされてかっこいいーーーー!!
「あんたかい? 書写やる子ってのは!」
おばあちゃんがぐーっと顔を近づけた。明るい緑色の目がらんらんとしている。
「ミユナです、よろしくお願いしますニャ……むぐ!」
「「「……かわいい」」」
だから、突然はダメなんだよ! ニャが出ちゃうの!
「歓迎歓迎! あたしゃトレッサ。魔法ギルドマルーニャデン支部の魔書師部門主任だよ」
おばあちゃんはにーっと笑った。
私もつられて笑う。トレッサさん、なんかおもしろい。
その横に立つ頭のさみしいおじさん……あ、ハゲとかいうんじゃなくてね、薄い金色の髪が少なくなっててそう見えちゃうみたい。ハゲじゃないよ!……が、口を開いた。
「私は副主任のジョージだ。この町には魔書師が少なくてね、やってもらえると助かるよ。よかったらギルドの加入も考えておいてくれるかね」
ジョージさんはギルドの普通の制服だ。もしかしてトレッサさんみたいな選ばれし者だけが着れるものなのかも。
「ギルドの、加入?」
「ああ、魔法ギルドの会員になると、年会費はかかるが優先的な仕事のあっせんや資材が安く買える特典があるからね。魔書師は足りなくて困ってるから、おまけもいろいろ付けるよ」
パチンとウィンクされる。おちゃめさんか。
「えっと……魔書師部門ヒラ職員のコニーです。よろしくお願いします」
ヒヨコ色の頭がぴょこりと揺れた。
このお兄さんも、ギルドの制服を着ている。私よりちょっと年上くらいかな。ほっぺのニキビがかゆそう。
扉のところで、受付のお姉さんが申し訳なさそうな顔をしていた。
「……ごめんなさい、いきなりこんな大勢連れてきてしまって…………もう、魔書師部門の人たちには常識を覚えてほしいです。あ、わたしは受付のロザリンドです。この人たちに困ったらすぐ言ってくださいね」
私がコクコクとうなずくと、ロザリンドさんは部屋を出ていき、残りの三人は誰が教えるかで揉めだしたところなう。
ふふーん、人気者はツライね~!
……って、何お調子者みたいなことを思った、私! ダメ! もう一度!
――――私のこの隠しきれないオーラが人々を惑わしてしまう……。なんと罪な存在……。フッ……。
結局、師匠権は物理的にトレッサさんが勝ち取ったもよう。おばあちゃん最強。
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