黒猫、漆黒堂と命名する


 宿に戻り、結界の魔法札を改良する。

 幅と高さを二フィルドにしとこ。左右に五メートルずつなら、まだ怖くないはず。


 あと[転移][位置記憶][治癒]の魔法札を書いた。

 砦に納める分と自分のお店に置く分……あっ、そういえば店の名前決めてなかった。名前、名前……、どうしようかな。

 考えながら管理棟一階の受付へ行くと、ハリス中隊長さんは私がよく知っている人と話をしていた。


「師匠!!」


 思わず呼ぶと振り返った顔がニッと笑った。


「やっぱり、ミュナかい。話を聞いてあんたじゃないかと思っていたよ。――――ハリス中隊長、この子はマルーニャデン魔法ギルドうちの子だから、身元と腕は保証するよ」


「ええ、トレッサ様の弟子と聞いて納得しました。若いのに大した腕ですね。この年で[治癒]の魔法札を書けるなんて、将来が楽しみです」


[治癒]と聞いて、師匠はぎょろりと私を見たけどふんふんと何も言わなかった。


「……[治癒]と[転移]持ってきたんですけど」


 師匠の様子をうかがいながら[治癒]一枚と[転移]二枚を出すと、変な顔をされなかったのでほっとする。このくらいの数なら大丈夫らしい。

 買い取りしてもらってから、師匠と食堂へ行った。


「――ここの砦にはね、マルーニャデン魔法ギルドうちが魔法札を納めていたんだけど、十分な枚数が納められなくてね。ミュナが納めてくれるなら助かるよ」


「はい、がんばります……」


 ギルドで襲われそうになったことを言おうかどうしようか迷ったけど、言わなかった。どう言ったらいいのかわかんない……。


「……師匠、お店出したんですけど、名前が決まってないんです。なんかいい名前ないですニャ?」


「おや、もう店出したのかい? ……ああ、自分で書いたね?」


 師匠にはなんでもお見通しです!


「ギクッ。てへへ……」


「……まぁちゃんと書けたならいいさね。店の名前ねぇ……色を付けることが多いね」


「色ですニャ?」


「ああ、実が色づき大きくなるように店も大きくなりますようにってね。縁起担ぎだね」


 そういえばトムじいのとこも『銀胡桃ぎんくるみ』だ。


「そうさねぇ……ミュナなら『漆黒堂』なんてどうだい?」


「『漆黒堂』……それ、いいです! それにします!」


 イイ! 師匠わかってる!

 そうかいそうかいと笑顔になる師匠といっしょに笑った。

 別れ際にたまにはギルドに顔を見せにおいでと師匠に言われて、なんとなくうなづいたけど。

 用事があればもちろん行くんだけどさ、〈存在質量〉使わずに堂々と行く日はいつになるかな。


 自分の土地へ行き、ポストにある建物名称のところを触り、[漆黒堂]と唱えると建物名称が変わった。


『所有者:ミユナ・アマリ』[非公開]

 土地:ザクロディア領(国領) 西街道三叉さんさ北0

 税:0

 土地結界:正規

 建物名称:漆黒堂[公開]


 名前が付くとお店になったって感じがする。

 販売庫に入れておいた魔法札は全部なくなっていたので、補充しておく。[転移]と[位置記憶]。売れ行きは好調ですよ! でもできればもう少し多く入れておきたいところだな。






 次の日も昨日の場所へ[転移]してスタート。

 あたりを見回してみたけどガーゴイルのドロドロはなく、キラキラの塊だけが残っていた。

 ゲームには魔石とかそんなのがあったけど、そういうものなのかも?

 触って大丈夫なのか拾うか拾わないかかなり迷ったんだけど、キラキラに勝てなかった。

 タオルで掴んで魔法鞄にイン!! セーフ!!

 どういうものなのか、今度師匠にでも聞いてみようと思う。


 今日の魔法札は昨日までのとは一味違うよ。二フィルドあるから。


「[無土アリムーブ特殊ユニーク]」


 足元に魔法陣が展開され、昨日より左右に広く前方に長く広がり消えていった。それと同時に、周囲の木々や草や動物生きとし生けるもの全てがその魔法陣上から消える。

 ククク……。我の前に道はできる!! でき……火の玉キターーー!!


「ニギャーーー!!!!」


 火の玉がかすめていった。そうだ、魔法の対策忘れてた!! また、ローブに焦げ跡がっ!

 くっそ、どこだガーゴイル! 道幅が広がったおかげで見つけづらくなったけど、探す手間もかけずに、飛んできた方に向けて大きく魔法を打った。


「[風刃マウィンドカッター]!!」


 ガーゴイルというか、木もなにもかもが切り取られたけど……うん、右半分の視界がすごくよくなったよねー……。


 見本帳を取り出し、魔法防御的な魔法を探すと[対魔盾]というちょうどよさそうなのがあったので、それを唱えて進むことにした。

 それにしてもガーゴイルって〈存在質量〉のスキルが通じない。 悪魔だから? ちゃんとした肉体があるものじゃないと効かないのかな?

 熊とかには効くからスキルは使うけどさ。

〈存在質量〉[対魔盾]とがっちりと固めて私はさらに北を目指し進んだ。




 切り拓いて進み切り拓いて進みすること五日。どのくらい来たのか、とうとうここぞという土地に着きましたよ!

 っていっても、なんの変哲もない森の中なんだけど、私の中の何かがここだと言っている。

 ここに温泉がきっと湧く! はず! 私の中の竜がそう知らせている!


 まずは安心して掘れるように、結界を敷くのです!

 道を切り開くのに使った魔法陣を範囲を変えて、高さもしっかり取ろう。遠くに見えたんだけど、飛ぶナニかもいるんだよ! 上からとか気付きづらそうでコワイ!

 百メートルくらいあれば、タゲられないみたいだからそのくらいは取ろう。フィルドに直すと二十フィルドくらいか。

 空札に書き込み、魔力を入れる。


 ――――あれ……なんかものすごく魔力が入ったような気がする……。


「[無土アリムーブ特殊ユニーク]」


 足元に展開される魔法陣。光を放ち木々を消し去りながらどこまでもどこまでもどこまでも…………。


 あっ!! 高さしか範囲指定してなかった!!!!


 やっと光が消えたその時には遠く彼方まで森が後退し、魔物も動物も植物もいない死の大地と化していたのだった…………。





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