黒猫、前人未到の地へ
管理棟一階の受付へ行くと、ハリス中隊長さんが中の方にいるのを見つけた。
「ハリス中隊長さーん!」
「ああ、ミュナ嬢。どうされました?」
「札持ってきました!」
「早いですね。もう書けたのですか?」
「はいっ! 少しですけど[転移]と[治癒]です」
ハリス中隊長さん、すごい驚いてる。これ欲しいって言ってたよね。
「[治癒]書けたんですか?!」
「書けましたニャ」
「はー……ミュナ嬢は若いのにすごいですね。凄腕魔書師なのですね。うちの後方支援魔書師部隊に入りませんか?」
「……軍とか無理ですニャ……」
ハリスさんはハハハと笑って、手続きをしてくれた。
ギルド経由で銀行に振り込みされるらしい。
この二種類はいつでも買い取ってくれるということで、書けばお金には困らないという保証ができた。
受付の横に売店があったけど、今日は熊肉は見当たらない。
まぁあったところで、料理スキルが死にかけてる私にできることはないんだけど!
そのまま外へ出ると、すぐとなりがうち! すごい便利!
売店に買いに来るのも、魔法札を売るのも便利このうえなし!!
敷地内に入り、今日はテントを立ててみた。
外気をちゃんと遮断してくれるみたいで、中はそんなに寒くない。
魔法陣書くのに机もほしいところだな。
まず、敷地の道側に無人販売庫を置いてみた。
商品を入れるガラスの庫内が八個あり、裏側から売るものを入れる作りになっている。売らずに残っていた[位置記憶]の札と、空の記憶石をそれぞれ販売庫の小さい庫内に収めた。
どっちもマルーニャデンのギルドの値段よりちょっとだけ高い値段にしてみた。
あとは売れ行き次第で変えよう。
お昼ごはんを昨日買ったパンと果実水で済ませて、テントをたたみ荷物を全部リュックに入れて、私はまた旅に出る。
そう、最終目的地は、あの! 温泉……じゃなくて、火山!
私の中の竜の
常時〈存在質量〉のスキルを使いつつ、家の裏の林を道に沿って北へ向かって歩いていく。
この北をずーっと行くと、火山のある山脈なのだ。もう絶対にその辺に住みたい。温泉、温泉!
進んでいくと家も徐々にまばらになり、家がまるでなくなり、そのうち道もなくなった。
木も密集して、日が差し込まなくなって、歩きづらい。
足元も悪いし、先が見づらいよー。暗いのは[暗視]の魔法を使うとしても、木が多くて視界が悪いのはどうにもならない。
うーん、まだまだ北に行きたいのに、これじゃなかなか進まないな。
私は[位置記憶]の魔法をかけ、転移で砦に戻った。
宿の部屋に戻って、空札に魔物除けの結界を書き込む。土台はいらないからその分の術組立て文を省けば、巻物じゃなくて札でも書ききれると思うんだ。
魔物といっしょに植物や他の生き物全部取り除くようにして、範囲を細長く指定すれば歩きやすい道ができるはず。
生きとし生けるもの全て私の前から消え去るがいい……。ククク……。
魔力を入れできあがった札には[無土・特殊]と書かれていた。
ほう。無土って、土もない荒れ果てたディストピアみたいでちょっとかっこいいな。フフフ……。
次の日。
どうしようかと思ったんだけど、砦の宿を三泊延長することにした。
自分の土地はあるけど、歩いて歩いて疲れた後にあの狭い自分の土地にテント張ったり寝る準備するのはちょっと大変だ。狭いし目の前は道だし落ち着かないし。
朝ごはんを食堂で食べて、今日も北へ向かう。
[転移]で昨日[位置記憶]した場所まで戻って、魔法札を使った。
「[
足元で展開した魔法陣ははるか先まで伸びていき、一瞬で木々が消え視界が開けた。
――――私の前に道はできる!!
仁王立ちして高笑いしたいくらいだ。
横と高さを一フィルドという単位にしてみたら、道幅は五メートルくらいになった。ってことは、縦を千フィルドにしたから五千メートル、五キロくらい道ができたってことかな。
思った通り快適快適……って、いや! 切り拓いた道の両側に、倒れた木と動物と魔物が溜まってますけど!!
魔物・動物・植物を取り除き入らなくなる魔法陣って、その脇に除けただけなんだ?! コワイっ! コワイです!!
ツノの生えたでっかいウサギにタゲられてるよ……。
せっかく結界を敷いたのに、さらにその中で〈存在質量〉のスキルを使うことになったよ……。解せぬ……。
魔物と動物に両側でお出迎えされながら進んでいくと、魔物はどんどんヤバい感じになっていった。
最初は一角ウサギだとか猪だとかだったのが、あきらかにおかしな大きさの赤い熊や変な緑色の人型のナニかが立っているよ!
結界の中には入って来れないし気配消してるから何もされないけど、すんごいコワイぃぃぃ!!!!
ゲームの記憶では、あの人型のアレはオークとかいうヤツじゃなかろうか。ゴブリンかもしれない。どっちにしてもコワイ! どっちにしてもコワイ!! 大事なことなので二回言いました!!
びくびくしながらさらに進んでいくと、人型のナニかよりももっと大型でもっと変な灰赤マーブル模様のコウモリ羽根をパタパタさせたナニかがこっちをじっと見てるんだけど!!
アレ、多分、ガーゴイルとかいうヤツ。
見てるような気がするだけで、きっと存在はバレてないはず……はず?!
火の玉が飛んできた。
「ウギニャーーー!!!!」
小さい火の玉は足の横をかすめていき、紺のローブが少し焦げた。
ええええ?! マジマジマジ?!
魔法は通るんだ?!?!?!
「[
とっさに口から呪文が出た。
手加減なしの風の刃がガーゴイルに向かって放たれ、胴を上下真っ二つにした。
ボトリと落ちた上半身とその後に倒れた下半身は、黒いドロドロのナニかに変わって土の上に広がった。
ガーゴイルって悪魔だったっけ……? 肉体ではないらしく、血とかドバっと出たりしなかった。
でもなぁ……。ドロドロの中にキラリと光る何かが見えているけど、拾えと誘いかけてくるけど、あの中に手を突っ込んで拾い上げる勇気はないよねー……。
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