漆黒堂

黒猫、住処にて


 所有者が書いてあるポストには他にも情報が書いてあった。


 土地:ザクロディア領(国領) 西街道三叉さんさ北0

 税:0

 土地結界:正規

 建物名称:ミユナ・アマリの家[非公開]


 土地は住所ってことだよね。税0ってことは税金がかからないってことかなぁ? よくわかんないけど、お金かからないのは助かるけど。

 とりあえず、記念に[位置記憶]。

 初めての自分の家の記憶石には、西街道三叉北と記録されていた。

 フフフ。うれしいなー! 狭いし土台だけだけど、自分の場所だよ!


 ニマニマしていたいところだけど、マルーニャデンに[転移]して管理局近くの道具屋へ入った。


「テントありますニャ?」


「おや、かわいいねぇ。テントあるよ。魔テントでいいかい?」


 道具屋のおじさんはそう言いながらごそごそと棚を探し出した。


「魔テント、ですニャ?」


「おや、知らないかい? 昔ながらの遊牧民が使うようなテントはでかいし立てるの大変だからね。今は魔粒で立つタイプが主流なんだよ。大きさもいろいろある。中に柱もないから広々だよ」


 ――あれ? 魔粒で立つってことは、魔法陣が書かれているってことか。

 魔法陣を書いて作るものを買うのは、魔書師としてどうなの。自分。


「この小さいやつはなかなか売れないから、安くするよ。お嬢ちゃん」


「買います!」


 お得大好き!

 四千五百レトで魔テントを買い、勧められた厚いマットも買った。これがあると寝袋の背中も柔らかだって。おじさんなかなか商売上手。やるな!

 近くのパン屋さんでパンを買って、また家へと転移して戻った。


 もう少し北の方へ行った道の反対側にミネルバさんの家がある。

 パンのお土産もあるし、遊びに行ってみた。


「ミネルバさんー!」


「おう、ミュナ! よく来たね」


 馬のお世話をしていたらしいミネルバさんが、手を振っている。


「そろそろお茶にしようかと思ってたんだ。ちょうどよかった」


 建物の玄関のところにポストが立っていて、ちらりと見ると『運び屋・晴狐』と書いてあった。


「ミネルバさん、これ住所とか書いてないんですニャ?」


「ああ、書いてあるよ。自分以外には仕事用の名前だけ見えるようにしてあるんだ」


「なるほど!」


「ミュナも店を出すのに、いろいろと勉強してるんだな。まぁとりあえず中に入りなよ」


 お土産のパンは温められハチミツをかけられて出てきた。ウマウマ。


「このあたりは、三つの領が隣り合っているんだよ。ここはガナッシュウェル領。ガナッシュウェル伯爵の領だ。道挟んでそっち側はザクロディア領。元々侯爵領なんだが、魔素大暴風の時に侯爵家が途絶えてしまってね。今は国領になっている。そのうち新しい領主が来ると思うよ」


 なるほどなるほど。それで税率が0なのか。


「あとは砦より南側がシトローニ侯爵領だね」


「侯爵領が多いです?」


「海沿いは辺境伯領以外ほとんど侯爵領なんだよ」


「そういうもんですニャ?」


「外国からの侵略に抵抗できるように、爵位の高い領とされているらしいね」


「勉強になります!」


 ハハハ。とミネルバさんは笑った。

 他にポストの使い方も教えてもらった。お店を出したら店名を記憶させて店名のみ公開にするといいんだって。


 その後も話をいろいろと聞き、結局、夜ごはんの熊鍋をごちそうになってしまった。

 熊鍋ウマー! 肉の臭みとかどうかなと心配だったけど、全然そんなことない! 甘いし野菜もスープも旨味で美味しくなってイイ!

 これは砦の兵士さんたちが獲ってきた火熊の肉らしい。血抜きも早くて上手で、上等な肉が食べられるんだって。砦の売店で売られているらしいんだけど、競争率高いみたい。この美味しさなら当然だ。

 まぁ、料理スキル10の私が買うことはないだろうけどね……。






 砦の朝二日目。起きてすぐ海を見下ろせるのはなんともゼイタクな気分。海沿いの店も捨てがたいなぁ。

 今朝も紺のローブを頭から被りほこほこしながらロビーまで降りた。一度着るとやめられないね。あったかで!

 今日は受付のお兄さんたちとは別にかっこいいおじさんも立っている。外国の俳優さんみたい! イケオジ!


「おはようございます。魔書師のお嬢さん」


「え、なんで知ってるんですニャ?!」


「ハハハ、かわいいですね。その紺のローブは魔書師のローブでしょう? だから魔書師のお嬢さんと呼んだのですよ」


 そういうことか。だから師匠とおそろいだったんだ。


「えと、じゃあ赤色のは?」


「赤は調合師、緑は魔粒師ですね」


 そうなんだ……。それじゃ、誤解を避けるためにも、他の色はパジャマにしよう……。


「猫のお嬢さんは、正規のローブを着ていらっしゃる。ということは、魔法ギルドに所属している魔書師でよろしいですか?」


「はい! 魔法ギルド会員です!」


「ハハハ、元気ですね。そうですか、それではひとつ相談なんですが、魔法札が不足していて困っているんですよ。ちょっとだけお仕事しませんか?」


 そう言ってイケオジさんは、食堂の朝ごはんに誘ってくれた。砦の朝ごはん、もちろん断らないよ!


 イケオジさんはハリス中隊長さんと言った。朝ごはんを前に軽くお互いに自己紹介。


「中隊長……偉い人ってことですニャ!」


「そんなに偉くはないのですよ。さぁ、どうぞお食べください。ミュナ嬢。仕事を断っても返せなんて言いませんから安心して」


 ミュナ嬢だって。フフフ。そんなお嬢さん扱い初めてですよ!


「はい。いただきまーす!」


 砦の二階にある食堂は、料理をしている人たちもごっついお兄さんたちばっかりだ。

 木の実入りの黒パンとソーセージが入ったスープ。あったかウマー。砦で食べてると思うせいか、なんとなく野営メシっぽい気がする。

 ハリス中隊長さんはお肉追加してた。鹿肉だって。今度食べてみよ。


「ミュナ嬢はどの札まで書けますか? [転移]はどうです?」


「書けます」


「あと[治癒]が書けると助かるんですが、どうでしょう?」


「書いたことないですけど……」


「わかりました。では[転移]を何枚か売ってください。少なくても構いませんので。ちゃんと魔法ギルドに依頼を通してお代を払いますからね」


 砦の三棟のうち中くらいの大きさの建物が管理棟で、そこの受付に持ってきてくれたら買い取りますという話だった。


 ごはんの後、食堂から一旦部屋に戻って、[転移]の魔法陣を書いた。これはもうちゃんと書ける。

[治癒]の方も試しに書いてみたら、書けた!! 魔法のスキル値、足りてたみたい。

 空間魔法で止めることをしつつ、悪いものは殺して治癒力や体力を高めるという複雑な魔法陣だった。中級・上級の魔法陣をいくつも組み合わせた最上位魔法陣という感じだ。


 でも書けちゃったもんねー!!

 ククク……。これでこの世界の魔法陣は手中に収めたも同然!


 あんまり作り過ぎると悪い商人に捕まるからね。[治癒]を一枚と[転移]二枚くらい持っていけばいいかな。


 宿泊棟の二階まで下り外の回廊に出て、半階上った橋を北側へと渡っていく。

 途中、その橋の下を馬車が通り過ぎていった。

 迫力! 楽しい! 大きい馬車は結構ギリギリまでくるねー!


 手すりにつかまって眺めていると、そのうち一台の客馬車の御者さんが私に気付いて手を振ってくれたから、私も手を振った。

 逆側の手すりの方から見えなくなるまで見送って、満足して管理棟へと進んだ。





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