黒猫、結界に挑む
せっかくマルーニャデンまで来たので管理局に寄ると、フォリリアさん発見。
「ミュナ! 夕食食べに来たの? いっしょに食べない?」
「食べます!」
いっしょに食べるごはんはおいしい。
しかも限定十五食の一角ウサギの蒸し焼きにありつけた!
フォリリアさんはいつもは夕ご飯は家で食べるのに、一角ウサギが出るって聞いて食堂で食べることにしたんだって。
一口食べるとハーブみたいな香りがふわっとした。柔らかいお肉は、ささみに似ている。
なんだろうこれ、体が軽くなる感じがする。
「すごいおいしい……」
「おいしいわよねぇ。今日は運がよかったわよ。近くの町で群が出て、退治したものを料理長が買い付けてきたんだって」
これが魔物肉かぁ。おいしー。はまりそう。
「王都やここみたいな辺境伯領都は城壁があるからいいけど、他の領都や町じゃ魔物と隣り合わせだものね。あたしも実家が北の方の町なんだけど、魔畑ネズミや一角ウサギの被害はしょっちゅうだったわ」
「魔物除けの魔法陣は使わないですニャ?」
「ああ、土地建物用結界ね。あれは人系種族とそれに従属する生き物以外は、そこから排除する結界なのよ。だから畑に使うのはむずかしいわ。土によいミミズまで取り除いちゃうから。畑の周りに敷いている人もいるけど、柵代わりにしてはお高いわよねぇ」
あー、そっか。そういうことか。
でも上手く書けば畑用もできそうな気がするけどな。
「結界ってどこでも使えるんですニャ?」
ついでに気になっていたことも聞いてみた。だって勝手に土地に使っていいものかわかんないし。
「もともと結界があるとこには、重ねては使えないわ。ここみたいな町全部が結界の中に入っているところとか、他の家があるところとか。あとは木が生えているところにも使えないわね」
「木?」
「そう、聞いた話だけど、木を家と誤認するらしいわよ。切り株なら大丈夫だから、切り倒してから証書を使用するのよね。あとは空いていればどこにでも建てていいはずよ」
なるほど、いい情報ゲットです。
せっかく魔法陣書いたことだし、やっぱり使ってみたい。
今日はもう遅いから、明日空き地探しながら砦の周りを歩いてみようっと。
砦で迎える朝。遠くから海鳥の声が聞こえている。
いつもの服の上から紺色のローブを着ると、まぁなんてあったかいんでしょう! 足首まですっぽりで大変イイ!
…………はっ! だから師匠だけ着てるんだ?! まさかの防寒!
魔法鞄の中に残っていたパンと果実水で朝ごはんにして、私は砦の外へと出かけた。
しっぽもあったかでいいんだけどな、服があたるのがなんか気になる……。
だからみんなしっぽは外に出してるのか。
でもなぁ、ローブに穴開けるのはちょっと抵抗あるなぁ……。
王都へ向かう街道を歩くと、建物と建物の間から海が見えた。
あー、海だ……。
この辺りは崖になっていて、高台から海が見下ろせる。
きっと眺めがいいおうちなんだろうな。
しばらく歩いて、今度は森側の方を通って戻ってくる。
土地が開いてないか探していると、砦のすぐ横に小さく開いている場所を見つけた。
まさかこんないい場所に空き地なんてないよなぁと思いながらも、[魔物除け建物結界]の巻物を取り出した。
魔法札と違って、巻物は解封用の呪文がある。
「[
シュンと弾くような音がした。
スクロールを握っている手のあたりに、文字が浮かんでいる。
『不可 他の結界・建物』
そうですか……。
そりゃそうか、こんないい場所が空いているわけないよね。
街道沿いや少し森の中に入って歩き回ったけど、どこも『不可』の文字ばっかりだった。
そして、諦めきれずに砦の横の空き地に戻ってきて、〈存在質量〉のスキルで存在を消しながらブツブツと考え込んでいるところなう。
よーく考えてみよう。本当に建物があって建てられないのはしょうがないよ。
けど、だいたいダメだったのは木があるからだったと思う。
木をなんとかすれば、建てられるってことかな。
っていうか、まずこの証書の結界はどんな大きさなんだろう。話はそれからだ。
最低の大きさって見本帳に書いてあったから、そんなに大きくはないはずなんだけど。
単位がわかんないんだよなぁ。フィルドって単位で書いたけど、メートルにするとどのくらいなんだろう……っていうか。
メートルで書いたらダメなもの?
私が日本語で書いた文字はなぜか古代精霊語になる。ってことは、メートルでもよくない?
多分この空き地だと三メートルあるかないかくらいな感じがする。
巻物の封を消してから開き、単位をメートルに書き換えて試してみた。
――――ダメだった。
巻物に魔法が入っていかない。魔法陣自体がダメってことだよね。
そう簡単にはいかないよなぁ。
じゃぁ、こっちの世界にあるものを単位にするのは?
例えば、馬一頭分みたいな感じで。
こっちの馬は大きいから、この広さなら馬二頭分くらいかな。書いてみよう。
書き直して魔力を込めると、成功! 金色の巻物になったよ!
さぁ、どうだ!!
「[
巻物は光となって地面に消え、足元で魔法陣へと変わった。浮かび上がった魔法陣は、馬二頭分の広さを描いて消えた。
そして魔法陣の代わりにあったのは、石と粘土の立派な土台。
おおおおおおおお?!
できた! できちゃったよぉ?! マジで?!
建物の端にポストのようなものがある。それには『所有者:ミユナ・アマリ』と書いてあった。
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