黒猫、五芒星に属する


 ミネルバさんのおうちを後にして、砦まで戻った。

 やっぱり大きいなぁ! すごいなぁ。

 黒っぽい石造りの砦は、テレビで見た外国のお城みたいだった。

 三叉路のそれぞれの角に建てられた棟を、橋が繋いで三角形を作っている。とりあえず、新しい記憶石に[位置記憶]の魔法をかけた。


 一番小さい棟は旅人用の宿とか食堂とかお風呂があるみたいだった。

 それはせっかくだし、ぜひ泊ってみたいよね。

 周りに普通の宿とかも建ってるみたいだけど、砦の宿っていうのがいいよ。かっこいい。絶対泊る。


 中に入ると古っぽいけどきれいなロビーが。

 受付に行くとザ・軍人さん! って感じのムキムキお兄さんたちが、紺の詰襟つめえり姿でビシッと立っている。


「す、すみません、泊りたいんですけどニャ……むぐ」


 はっ、緊張のあまりニャが……。

 金髪を短く刈り込んだお兄さんは、ピシッとしたままこっちを見てふにゃっと笑った。


「か、かわいい…………失礼しました。何泊しますか?」


「あ、おいくらですニャ?」


「一泊二千レトです。三泊で五千レトになります」


 かっこいいのも好きだし、お得も大好きな黒猫としては、選択肢は一つ!


「三泊でお願いします!」


 くすんだ金色の鍵を受け取って、説明を聞いた。お風呂は別で五百レト、食堂は二十四時間やってるそうだ。

 私は説明された通り、階段を上って四階の部屋へと向かった。

 ベッドと小さな机があるだけの部屋だったけど、窓から海が見えていた。




 このあたりならお店出すのもよさそうだ。住んでる人も多いし、旅人もいるし。

 お店を出すには、魔物除けの結界がいるんだよね。それが確か三十万レト。


 ――これ、書いちゃえばタダじゃ――?


 昨日の[修復]でわかった。絶対の術組立て文なんてのはないんだよ。結果に繋がるように書けば、どんな書き方でもいいんだ。

 とはいえ、魔物除けの結界とかどっからとっかかればいいのか、むずかしいな。


 私はちょっと考えて、マルーニャデン魔法ギルドへと[転移]した。

〈存在質量〉のスキルでほぼ透明人間になって、移動すれば多分ヤツもわかるまい。

 魔法札書写室へ入り、見本帳をめくる。

 見本帳にはいろいろな魔法陣がある。魔法札のものだけじゃなく、魔証書用の魔法陣も載っていた。


 コレコレ! 魔物除け建物結界の魔法陣!

 さすがになかなかの大作で、空札には書ききれる量じゃない。空巻物が証書用って言われてるのはかっこいいからじゃなくて、こういうことだったんだ。


 魔物除けの術組立て文自体は、そんなむずかしくはないな。範囲指定して種族で弾けばいいだけ。

 残りの部分がよくわかんないなぁ。こんなにたくさんの石と土をなんで使うんだろう。

 まぁいいや。とりあえず、書けた!


 魔力を込めると、光が巻物をくるりと包み、金色帯びた巻物に変わる。


 クククク……。異世界の魔法陣、恐るるに足らず! 黒き支配者にひれ伏すがいい!


「――おや、ミュナいたのかい?」


 入口からトレッサ師匠が顔を出した。


「いました! 師匠、[転移]買い取りお願いします!」


 十枚ぺらっと出せば、トレッサ師匠は「またこんなに書いたのかい」とお説教モード。


「ち、ちがうんです。昨日と今日で十枚です。決して今日だけで書いたわけじゃ……」


 実はおとといの夜書いたものだったりするけど!


「じゃぁなんで目を反らすんだい?」


 う。

 私は必殺ごまかし笑いすると、師匠はあきらめたようにため息をついた。


「そうだ、ミュナ。中古の無人販売庫があるんだけど使うかい?」


「中古ですニャ?」


「そうだよ。古い型でね、品質保持が今のものより劣るから調合液ポーションの販売には向かないのさ。小さいしなかなか買う人がいないみたいでね。魔法ギルドの会員なら一万レトになるって話だよ」


「一万レト! 買います! ギルド入ります! 今日の買い取り金額から引いてください!」


「ああ、わかったよ。じゃ、下で手続きしておいで。販売庫用意しておくから」


 念には念を入れ〈存在質量〉のスキルを使い受付まで行く。

 ギルドの会員登録は、受付のロザリンドさんが笑顔増量でしてくれた。会員さんが増えるの久しぶりですぅ! って。


 規約にあると言われて、銀行の登録もした。これでギルドからの売り上げが自分の口座に入るようになるみたい。

 腕に付けている身分証明具が、キャッシュカードみたく使えると教えてもらった。販売庫での買い物も、この身分証明具でできるって。本人以外の人は使えないから、セキュリティーもばっちり。すごい!


 おまけもたくさん付けてもらったよ。

 かっこいいペンとインクとか、魔ランタンとか、魔短杖とか、ローブとか!! ローブ!! 師匠とおそろいのやつ!!

 紺色のローブを掴んで歓喜の舞を踊っていると、色違いの深緑色のと深赤色のもくれるって!


 こんなにもらって登録料三千レト、年会費一万二千レトは絶対安いよね!

 ちなみに魔法陣の見本帳ももらったんだけど……。せっせと写してないで早くギルドに入ればヨカッタな……。





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