第五章 黒猫と魔王

黒猫、喰らう


「黒猫、食料の買出しいっしょに行こう」


「うん、いいよ」


 せっかくマルーニャデンで会ったことだし、異存はない。

 だけど、なんで手を繋がれているのかがわからない。

 私、小さいけど、そんなに子どもじゃないんですけど。っていうより、年ごろの女子なんですけど! 解せぬ!


 食費は魔王が預かっていて、みんな多く出して魔王の手数料に充ててって言ってるんだけど、充ててる気配はない。

 鶏買うとか言ってるし。多分、そのお金で買うつもりなんだと思う。


「魚買おうかな。黒猫、サーモン好き?」


「好き! 何にする?」


「鍋とムニエルかなー。一匹丸々買った方が安いみたいだし、身は焼いて骨とかは煮る」


 おいしそうだ! ムニエルなんて久しぶり!


 鮭を買って、焼いたホタテを味見させてもらって、ホタテも買った。ノスホタテだって。ウマー。


 街の調合屋へ行って、魔王は調合の素材も買っていた。

 あれ、でもコショウとかドライバジルとか言ってたような……。それ、料理の材料じゃないのかな?

 まぁなんでもいいや。料理の材料なら食べられるものってことだし、調合液ポーションに入ってても問題ないもんね。


「魔王は魔人国に来る前は何してたの?」


 初めて、魔王のことを聞いた気がする。

 魔王はキレイな薄い青色の目を細めた。


「……遠くの町で料理の勉強してたんだ」


「えっ?! 魔人の町?!」


「ううん、人ばっかりの町」


「魔人が人ばっかの町にいたんだ……?」


 魔王はちょっと困ったような笑ったような顔をした。


 そっか、それじゃ魔人のことはわからないよね。

 召喚魔法について何か手がかりがあればと思ったんだけど。


「そういえば、魔王ももうすぐ誕生日だったっけ……」


 魔王も誕生日がきたら成人になる。そしたら、町から出られなくなる。

 こんな風に自由に買い物にくることもむずかしくなるはずだ。

 私の顔を見て、何が言いたいかわかったらしい魔王は笑った。


「だいじょうぶだよー。俺、魔量多いから。魔人の中で一番魔量が多い者が魔王って言われるって聞いたよね?」


「でもさ、他の種族で魔量が多い人もいるかもしれないよ? エルフとか! 召喚されちゃうかもしれないよ」


「うーん、そしたらさ、すぐ転移して戻るから大丈夫だよ。黒猫国の記憶石だけは首から下げてるし」


 魔王はそう言って、革ひもに通された記憶石を首元から取り出して見せた。


「……うん。じゃ、ルベさんも、転移確実に使えるくらいまで魔法スキルが上がれば、結界を出てもだいじょうぶなのかニャ……」


「そうだね。だいぶ安心だよね。だから黒猫はそんなに何もかも背負おうとしなくていいんだよ」


 また頭をなでられた。なぐさめる風だけど、ふわふわしたいだけじゃないの? まぁいいけど!


 その日の夜ごはんは、鮭のムニエルだった。

 雪の降る夜は、お風呂屋の休憩所がお食事どころ。みんなお風呂上りに舌鼓を打っている。

 だってすごいの! 皮がカリッとして中はしっとりほっくりで、バターの香りがたまらないの! ムニエルってこんな料理だったっけ?! このバターソースをパンに付けるのサイコーなんだけど!


「――やっぱり猫って魚好きなんだねー」


「ほむぐむぐんなことむぐむぐない」


「何言ってるかわかんないけど、かわいい」


 魔王がとなりでにこにこしている。

 食べるの忙しいから、放っておいてほしいよね。






 ある日、ツッチーがとことことやってきて報告をした。

 ふんふん、温泉を流して雪を溶かす道ができた? え、いつの間に! 確かにかけ流しの温泉を西側の川の方へ流すことになってたけど。 どうせ流すなら有効活用しようと思った? うちのゴーレム賢いんだけど!


 町には使役精霊たちが作った焦げ茶色のレンガで、立派な道ができていた。

 北から南へ続く道はデガロン三叉近くから通した道へ繋がり、東から西へ続く道はドワーフ村へ向かう道と繋がっている。

 この道のレンガとレンガの間に温泉が流れて雪を溶かしてくれるらしい。

 それと建物のまわりにも流れるようにしてあるそうだ。


 外の鍛冶場で作業をしていたドワーフのみなさんは、それを聞いて歓声を上げた。


「すごいだっす! 雪かきいらないだすか?! 楽園だすね!!」


「うれしーのだす!! 冬場は半日雪かきに追われたりすのだすよ!! 楽園だすわ!!」


「こんなこと知ったら村中移住してくるだすな! ありがたいだっすー……」 


 そんなこと全然気にせずここを開拓しちゃったけど、そうかー。雪国って大変なんだなぁ。


「移住は大歓迎だっすニャ! ……はっ、うつっちゃった」


 これから町を大きくしていったら仕事も増えると思うし、人が増えるのは大歓迎だよ。


 ツッチーは、もしかしたら気温によっては、排水が町の西端の方に流れるまでに凍っちゃうかもしれないという報告もしていた。


 人が増えても増えなくても、凍っちゃうのは困るな。西側の方に排水を温める装置を作るか、もう一つ温泉を掘るか。


 温泉ね、西側にもちょっとよさそうな感じの場所はあるんだよなー。

 今のお風呂屋の場所にいたのが金の竜だとすれば、銀の竜がうごめいている気配。

 銀の竜だよ。違う泉質のが出るってことじゃない? 気になるよねー。掘るよねー。


 というわけで、ドロシーに頼んでもう一か所掘ってみることにした。

 あとは出るのを待つばかり。





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