黒猫、高みから見下ろす


 雪がふわふわと舞い降りる。

 大森林の中に堂々と広がる我が町も、真っ白く覆われている――――なんちって。黒猫国とか我が町とかほぼハッタリってやつですよ! 面白半分に言ってるだけだし、そろそろ町の名前も決めたいところ。


 私はゴードンに作ってもらった物見台の上に座り込み、町を眺めていた。高いところはいいよねぇ。見渡せて。

 見下ろすと右手側には[無魔法結界]が敷かれた町がある。

 生活魔法のみが使える土地には、ドワーフとルベさんやヴェルペちゃんが住んでいて、職人の町という感じ。


 そして左側は[無魔法結界]が届かなかった[無土・特殊]だけの土地。こっちは普通に魔法が使えるので、魔人のみなさんが住めるように準備しているところなんだよね。

 レンガ小屋を建てたから、そこでうちの使役精霊さんたちがせっせとレンガを作っているわけだ。


 ツッチーが地面を掘り、土を出す。

 スライミーが上に乗り覆いかぶさって、するりと離れると四角い形になる。

 フレスは翼を使い、風の力で乾燥させていく。

 そしてペルリンがフシャーっと火を吐き、焼いて完成。

 運んで積み上げるのはゴードンがやってくれている。

 すばらしい流れ作業ですよ!


 春までにレンガの数がそろうといいな。私も土台用の[魔物除け建物結界]と建物用の[建築・一般家屋特殊]の大きさ違いを書き溜めておかないと。

 ドロシーは新たな温泉を掘っているし、新たな町作りは着々と進んでる。






 あのニセ魔王追放事件の後。

 こっちの町へ移住したい人がいるか聞いてみると、召喚され働かされていた人の半分くらいが希望したんだよね。

 人数も増えることだし、町の代表を決めておこうかってことになったんだけど、黒猫でしょ、ミュナ様でしょうってみんなが押し付けてきた。ひどい。

 私は建物を建てる開発長がいいって言ったんだけど、町長とか長になれば上の許可なしで開拓建築し放題だよって。それはいい……ってダメ! それはドクサイシャへの一歩! 抵抗したんだけど、悪いことしたらトレッサ師匠にしかってもらうからだいじょうぶって丸め込まれた。それってしかられるのは私ってことだよね?! 解せぬ!


 ちなみに、あのルベさんを気にしていた魔人のお姉さん、マジョーディリアさんは、すでに町にきていてルベさんといっしょに暮している。

 魔法が使えないのは不便じゃないのか聞いてみたけど、案外不便じゃないらしい。「疲れが取れるような気がするわ」って逆に癒されてるみたいなことを言ってた。

 魔法を使うのに疲れてるってことかな。魔人の体質ってどうなってるのかちょっと気になる。






「黒猫ー!」


 温泉の源泉のあたりで魔王が手を振っている。


「卵スープ味見するー?!」


「するー!」


 そう答えると魔王は赤いローブを脱いだ。黒い羽根を広げてすいーっと飛んでくる。

 物見台のはしごを上らなくていいとか、ずるいよね。飛ぶとかかっこいいし。


「黒猫はここによくいるよね」


「うん。高いとこ好き」


 魔王はとなりに降り立つと、背負っていた魔法鞄からカップを出してスプーンといっしょに手渡してくれた。

 あったかい。


「ありがとう! いただきます!」


「どうぞ」


 一口食べればかきたま卵がぷるりと入ってくる。しょっぱいのがちょうどいい。細切りきのことなんかの葉も入っていて、ピリッと辛いのが温まる。


「おいしい! 辛いのいいニャ」


「うん、ショウガだよ。体が温まるんだよ。温泉水をちょっと使ってみたんだけどどうかな?」


「え、温泉入ってるの?! 全然わからないニャ。すごいおいしいよ」


 このしょっぱいのが温泉かなぁ。

 ウマウマと食べているとなりで、魔王がじーっと見ている。

 そんなに見られると食べづらいんだけど。食べるけど。


「――――ふん? むぐむぐ……ニャに?」


「――――黒猫は、食べる時にいただきますって言うよね」


「うん、言うニャ。――――前に住んでたとこでのあいさつだニャ」


「そうなんだ。俺が住んでたとこもね、それ言ってた」


 ふーん、魔王がいた町でも言ってたのか。

 小さいころからクセになってる言葉だからあんまり考えたことなかったけど、食べ物やそれを作ったり採ったりする人たちへの感謝の言葉だよね。

 そしたら、そういう言葉を使う人たちっていうのは、どの世界のどの種族にもいてもおかしくないと思う。


「ここに住むようになってからね、種族の違いってそんなに気にすることないのかもって思うようになったんだ。仲良くなりたいって思えば、種族の違いなんて気にならないって」


 そう言って魔王はにっこりと笑った。

 種族で違いがあるのは当たり前だよね。みんな得意不得意があるもんね。それを差別しなければいいんだと思う。


 獣人のくせにってあの時のコニーは言ったけど、少しは気持ちが変わったかな。

 や、変わっただろう。だって、獣人と魔人とドワーフの町に普通に住んでるもん。

 そういう人が増えるといいよね。この町に来てくれていろんな種族の交流とかできたらいい。


「……そうだニャー。魔王のごはんをみんなに食べてほしいのは変わらないんだけどニャ、いろんな人が来てくれて楽しいって思ってくれる町になるといいと思ってるだよニャー」


 魔王は私の頭をなでて、ふんわりと笑った。


「そうだね。きっとそうなると思うよ。黒猫がいれば。――――あっ! そうだ。そろそろ温泉に向かわないと。そろそろみんな来るよ」


 たしかに暗くなってきてるような気もする。

 雪が降っていると、時間がわかりづらいんだよ。


「そんな時間?」


「ほら、ドワーフの人たちが向かってる」


「ああ、ホントだニャ。じゃ、行こうか」


 ルベさんたちも向かっているのが見えた。ヴェルペちゃんは温泉宿の外で出迎えてくれているみたい。

 さぁみんなでお風呂に入って、ごはんを食べよう。今日の魔王特製卵スープもおいしかったよ!

 私は[身体強化]の魔法をかけぴょんと物見台から飛び降りた。魔王はすいーっと飛んで降りる。

 そして二人でいっしょに、みんなが集まってくる温泉宿へと急ぐのだった。








 * 完 *




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最後までお読みいただきありがとうございました!







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黒猫女子高生、魔法陣無双で町づくりニャ! ~ドワーフやら魔王やらが押しかけてきます⁉~ くすだま琴 @kusudama

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