黒猫、圧倒的な対決


 見えない魔法に捕らえられ、おじさん集団が足だけバタバタ動かしている。


「――――ぐぁぁぁああ!!」


「たす、たすけてくれ…………」


 動けなくなるだけの魔法なのに、おおげさだよねー。

 前に回り込みわざわざ真ん前に立つ。


「獣人の魔法も破れないとは、口ほどにもないニャ? ニセ魔王。魔力量が少ない獣人の使う魔法に捕らえられている気分は?」


「ぐぞーーーっ!! 放せ!! 獣人の小娘のくせに生意気だ!!」


「生意気な口はどれかニャ」


[風縛]をきゅきゅっと締め上げる。


「ぐぉぉぉぉお――――……」


「なんで魔人たちを召喚して集めてるの?」


「お前に言う必要は――――……」


 きゅきゅっ。


「うぐぅぉぉおぉ――――……い、言う! 魔人は魔人同士集まって暮らした方がいいからだ!」


「え、ニャんで?」


「なんでもクソもない! 同種族の方がいいんだ! 子孫も残しやすい!」 


 きゅきゅーっ。


「ぐぅぅおおぉぉお!! わ、わかった!! 召喚できるのが魔人だけだからだ! あの暴風で町が壊され働く者が必要だったんだ!!」


「自分たちでやればいいことだよニャ?」


「足りなかったんだ!」


「足りなくても自分たちでやるしかないよニャ? だって他の町だって同じことなんだから」


 ニセ魔王は悔しそうににらみつけてくるけど、周りのおじさんたちはうつむいて目を反らした。

 なんだかんだ言って、自分たちがラクしたかっただけなんだ。


「浅ましい者どもだニャ。――――さて、魔人の中で魔力量が一番多いのが、魔王という存在だニャ? そして魔力量が上回っていれば、かけられた魔法に抵抗できる。獣人の魔法も破れない程度の魔人は、はたして魔王と呼べるかニャ?」


 ざわりと疑惑の目がニセ魔王に向けられる。


「本物の魔王は、この魔法の上から魔法をかけられるよ?」


 本物の魔王。

 その言葉に、縛られた集団にもそのうしろで座り込んでいた集団にも動揺が走った。

 今こそ力を見せる時――――――――。

 空気と化していた魔王に、私はポケットから出した記憶石を渡した。


「ニセ魔王を魔獣が徘徊する廃墟にお連れして」


「わかった」


 近づく影に上ずった声が漏れる。


「――――そ、その若造が魔王だとでも言うのか……? 魔人でもないくせに何を言っている……」


 魔王はばさりとローブを脱ぎ去った。

 森を背に堂々と広げられるのは黒い羽根。疑いようがない魔人の証。


「――――――――金髪の魔王――――――――」


 無駄に整った顔がにっこりと笑った。


「じゃ、黒猫。行ってくるけどすぐ戻るから。危ないことしちゃダメだからね?」


 うんと言わない限り動きそうもない魔王に、しぶしぶうなずく。ちょっと過保護だと思うんだよ。

 魔王はニセ魔王の腕をつかんだ。

 私は口の端だけ上げて言った。


「召喚される気持ちを、むりやり知らないところに連れ去られる気持ちを味わうといいよ」


「何するんだ……。は、離せ……。やめろ!!」


「[同様動ダスチェフォロー][転移アリターン]」


「やめろやめ――――……」


 ニセ魔王の抵抗する声を残しながら、二人は消えた。

 ちょっと買い物。くらいの軽さで、魔王は軽々と[風縛]の中から連れ去ってしまった。


 誰も動けず何も言えないようだった。ゴードンが土山を破壊する重い音だけが響く。


「――――これでわかったニャ? ここで大きな顔していたのはニセモノ。本物の魔王は無理やり召喚なんてしない。仲間を倒れるまで働かせたりしない」


 最初に口を開いたのは魔法陣の周りにいた人だった。


「――――ま、魔王様……。あれが本当の魔王様なのか……」


「魔王様……金の魔王様!!」


「黒猫様! 金の魔王様はすぐに戻って来られるのですか?!」


 すぐ戻るって言ってたから、本当にすぐ戻って来ると思うよ。

 ニセ魔王は無人の魔人国に置いてくるから、もう自由にしていい。好きなところに住めるしどこにでも行ける。そう言うと、みんなの顔に暗い影が下りた。


「――――私たちには隷属の魔法陣が埋められているから、飛べないしこの町から出られないの……」


 さっき回復薬を飲ませたお姉さんが悲し気に顔をゆがめた。

 隷属の魔法陣?

 悪かっこいい……じゃなくて、それいけないヤツ! 隷属とか奴隷とかダメ!

 それにしても、また聞いたことがない魔法陣が出てきたよ。やっぱり魔人の魔法は魔法書とかの魔法とは全然違うんだな。


「解除の方法は?」


「多分……書いた者が消す魔法をかけるか、死ぬか」


「書いたのはニセ魔王?」


 しんと静まった中、縛られていた中から声がした。


「――――書いたのは私だ」


「……神官様……」


「何人かは私が書いた。あとのは魔王……グラド様が。だが私に、消去の魔法は使えない」


 どうしてかという答えはわかってしまった。

 この神官のおじさんも書かれているからだ。

 書きたくて書いたわけじゃないんだろうね。自由を奪われ脅されて書いた。だからみんなかばうように名前を上げなかったんだ。


「――――私が亡くなれば、その者たちは自由になる。黒猫様、申し訳ないがこのまま殺してほしい」


「神官様! ダメです!」


「早まらないでください!!」


 いやいや、勝手に人殺しをさせる方向に持ってかないでほしいよね。

 いつの間にか破壊し終わったゴードンが、私に寄り添っていた。

 ――――ふんふん、なるほど。

 ゴードンにうなづいて、神官のおじさんの方を向く。


「――――いい覚悟だニャ。それじゃ、実験台になるといい。――――ゴードン、この者の魔法陣も破壊せよ!」


 ゴードンはこくりとうなずき、おじさんに近づいていく。

 やめてください!! と悲痛な叫び声が町外れに響いた。

 ゆっくり上げられた腕が振り下ろされる。

 ――――と。土でできた指先がピタリと額に当てられた。

 全員が目を見開いて息をのんだ中、パリンと微かにガラスが割れたような音が聞こえた。


「……………………魔法陣が……消えた…………」


 信じられないという顔の神官のおじさん。


「――――ゴードン、素早いニャ。さすが精霊だニャー」


 私は[風縛]の魔法を解いた。


「これで解除できる?」


「……はい。私が書いたものは消せます。あ……ありがとうございます……」


「泣くのも感謝も後でニャ! ニセ魔王に書かれた人はゴードンが消すからこっちに来て」


 私とゴードンの前に列ができる。ルベさんを気にしていた倒れかけていたお姉さんもいた。


「黒猫様…………。さきほどは失礼しました。きっと黒猫様の言う通り、ルベウーサは幸せにしているのでしょうね…………こんなところに来ても幸せにはなれなかった……わたしはルベウーサのためと言いながら、自分の辛さを同じように感じさせたいだけだった……」


「ルベさんが本当に幸せかどうかは、私にはわからないけどニャ。でも、昔から知っている人たちとまたいっしょに暮せたら、もっと楽しく幸せになるかもって思うよ。お姉さんも、ちゃんと幸せだって言えるようになるといいよニャ」


「――――ルベウーサを、連れてきてくれるんですか?」


「それでもいいけど、みんなで私たちの町に来ればいいよ。移り住んでくれてもいいし」


 土地はいっぱいあるしね。

 魔人の大好きサウナもあるよ! と言おうとした時、ふわりと風が舞った。周りのみんなの声や音が止まる。

 私とお姉さんがそちらへ振り向くと、[転移]で戻ってきた魔王がにっこりと笑ってうなずいた。

 その両手には驚いた顔のルベさんとヴェルペちゃんの手が繋がれていた。








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次回、完結!





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