召喚魔法陣の町

黒猫、魔宴降臨


 転移した先は森に囲まれた町のはずれだった。

 円形の舞台のような高台の上で、向こうの方まで見渡せる。足元にはやはり魔法陣が描かれていた。

 それを確認したと同時に、ヒッ! と息をのんだ。肩に置かれた魔王の手に力が入る。


 私たちが立っていた高台の周りを、うなだれひざまずいた人たちがぐるりと囲っているんだけど!!

 なになになに?! すんごいコワイんですけど!! なんかの儀式?! 魔宴サバト?!


 その人たちの丸まった背中には黒い羽根がついている。

 ――――やっぱり魔人が召喚していたんだ! っていうか、そうか。この人たち魔力を込めてるんだ。一人じゃなく何人もの魔力が込められていたから、みんな召喚されちゃったんだ……。


 文句を言ってやろうかと思っていたのに、うなだれた人たちからは精気が感じられない。


「――――あの……? だいじょうぶですニャ……?」


 声をかけると、のろのろと何人かが顔を上げた。そして一人はそのままふらりと倒れてしまった。


「わぁぁあ!!」


 慌てて近寄るけど、他の人たちはぼんやりと見ているだけで身動きしない。


「黒猫、これ回復薬」


 倒れて込んでしまった女の人を仰向けにして、回復薬を少しずつ口に流し込んでいく。

 多分、魔力切れだよね。

 魔王は座り込んでぼんやり見ている人に、回復薬を手渡して回っている。

 飲ませていたビンが空になったところで、その女の人は目を開けた。

 ルベさんにも似た赤い髪にはっきりとした顔立ちだった。


「――――あなたは獣人……? 魔人ではない……?」


「私は魔人じゃないよ。もう体はだいじょうぶ?」


「ええ……。ありがとう。でもどうして獣人のあなたが召喚されてしまったのか……ルベウーサは……」


「ルベさんなら私たちといっしょに暮してるよ」


 そう言うと、その女の人は目に力が戻った。


「どういうこと? あなたも魔人国に住んでいると?」


「ううん。召喚されない安全な場所で、違うところで暮らしてるけど」


「召喚されない場所――――? 何を言っているの? なんで獣人なんかと……。魔人は魔人の町で暮らすのが幸せに決まってる。早くルベウーサを召喚しないと」


 ルベさんをここへ召喚してどうするの? 同じように倒れそうになるまで魔力をしぼり取るために召喚するの? と、責めることはできなかった。

 まだ顔は青く目の下のくまがくっきりとしているのに、目だけがギラギラしている姿はとてもまともな状態には見えない。


「……魔人のお姉さん、あなたは今幸せですニャ?」


「っ…………」


 答えられないのが答えだ。


「ルベさんは元気だよ。毎日サウナ入ってお酒飲んで、魔王の作るおいしいごはん食べてふくふくしてきた。太って太ってもう少しで飛べなくなるかもしれないニャ」


 ウソだけど!

 笑ってくれたらいいなって盛りました!

 でもなぜか周りの他の魔人たちがざわつきだした。


「――――魔王……? 魔王様が魔人国に復活されたのか……?」


「めったなことを言うものではない!」


「魔王様はこちらにすでにいらっしゃるのに、どういうことだ……」


 魔王がこの町にもいる――――?

 私と魔王は目を合わせた。

 ローブ着て羽根を隠しているから、魔王は魔人には見えないと思う。髪の色も目の色も、周りにいる魔人たちとはぜんぜん違うし。

 もうしばらくこっちの魔王のことは言わない方がいいかな。


 遠くからもざわめきが近づいてきている。何人もの足音、それに興奮したような声。


「――――なんだ?! 獣人の娘だぞ?」


「結界が反応したというから見にきてみれば、どうなってるんだ」


「もう一人の男も見たことがないな」


 町の方からやってきた魔人たちが、距離を置いた場所で立ち止まった。

 魔法陣の周りにいるのも魔人、やってきたのも魔人。だけどその姿には差があった。

 かたや跪いてみすぼらしい姿。かたや立派な服に宝石ジャラジャラ。


 魔力切れを起こしかけている仲間の姿を見ても、なんの反応もないとか――――。


 もうそれだけでろくでもない町だと思った。

 私はポケットから、空の記憶石を取り出して[位置記憶]をかけた。


 町からやってきた集団の奥の方から、ひときわ高そうな宝石をジャラジャラと首からかけたおじさんが前に出てくる。


「――――マシャールド! お前が言っていた娘はあれか?!」


 私を指さして派手おじさんがなんか言っている。

 そのうしろに従っていた神官っぽいローブ姿のおじさんが、首を振った。


「いいえ、魔王様。ルベウーサは魔人でございます。あのような耳は付いておりません」


 魔王? これがさっき話に出てた魔王?

 魔人で一番魔力量がある者が魔王って聞いた。

 ちょっと離れた場所に立つ金髪碧眼の魔王は、申し子で規格外の私より魔量があるんだよ。どう考えてもうちの魔王が魔王だ。


 っていうか、そういえば[転移]を止められなかった。魔王に引き止められていたら、ここには来れなかったね。

 魔王、いっしょに来てくれるつもりだったんだ。

 なんかニヤーっと笑っちゃって、ローブの下でしっぽがゆらゆらした。


「そこのニセ魔王!」


 びしっと決めたかったのに、笑っちゃってイカンな。誠にイカンである。

 でも、向こうはそうは思わなかったみたいで、遠目にも額に青筋立ててるのがわかる。


「そこの娘ぇ! 今、ニセって言ったか?!」


「言った! ニセにニセって言って何が悪い! いい年して魔王でもないクセに自分を魔王だとか言うなんて、恥ずかしくないのニャ?」


 指差してびしっと言ってやったよ!

 ニセ魔王は言葉も出ずに、グギーッ、グギーッとうなっている。


「魔人たちを召喚してどうしようっていうんニャ? この人さらいめ! ここの人たちみたく無理やり働かせてるニャんて、魔王じゃなくて人さらいの奴隷商人だ! 悪人め!」


 おつきの人たちはわなわなと震え、跪いている人たちはぶるぶると震えた


「こんなところにルベさんを送らせたりしない! この魔法陣も闇に葬る! ――――出でよ! [泥人形召喚マサモンゴレム]!」


 そう言って魔法陣が書かれた土の高台を指さした。

 ドゴン!!!!

 派手に土舞台ははじけ飛び、大木のようなゴーレムが土煙をまといながら現れた。

 盛られていた土のせいか、私の気合が入り過ぎたのか、ツッチーたちよりもドデカイゴーレム爆誕!


「命名『ゴードン』! 魔法陣はすべて壊せ!」


 ゴードンはコクリとうなずいて、壊れた魔法陣へさらに拳を振り下ろした。


「ひぃぃぃ!!!!」


 逃げようとする集団に向かって、まとめて魔法を放つ。


「[風縛マエアバイン]!」


 魔法抵抗は魔力量勝負。申し子の私に勝てるかね?


 さぁ、逃げられるものなら逃げてみるがいい――――。


 見えないロープで縛られた宝石ジャラジャラの人たちに、私はクククと笑いかけた。





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