黒猫女子高生、魔法陣無双で町づくりニャ! ~ドワーフやら魔王やらが押しかけてきます⁉~
くすだま琴
第一章 流離いの魔書師 ※迷子ではない
初領都
黒猫、降臨
気が付くと異世界にいた。
その辺の山にありそうなただの林に見えるけど、異世界。
枝の向こうに見慣れた感じの青い空が見えているけど、異世界。
異世界っていったら異世界。
なぜならば、神様がさっきそう言ったから。
◇
つるつる頭が目に入った。拍手でもしたいぐらいの見事な光り具合だ。
そうそう、あれに似てるよね、ご来光。
手を合わせだした私に、目を覆う白い眉毛と長い白ヒゲを生やしたおじいちゃんは、ふぉっふぉっふぉと笑った。
「気が付いたかの?」
「……は、い……? え、あれ? ここ、どこです……?」
見たこともない不思議な場所だった。周りは全部白くてふわふわで綿あめみたいだ。
眉毛が動いて、おじいちゃんは困った風になった。
「どこかと聞かれると困るんじゃがな、
事故――――……。
そうだ。強い衝撃の後、ポーンと飛ばされて(あ、飛んでる)って思ったんだっけ。
学校に行く途中だった。
朝はいつもぼーっとしていて、ぼーっと青信号の交差点を渡っている時に「危ない!!」って声がした。
えっ? と思ったら、曲がってきたトラックがこっちに向かっていて、ドガーンってなって――――――――その後の記憶はない。
し、死んだ? 私、死んだ?
あー…………。やっぱり青信号でもちゃんと見て渡らないとダメだった。右左右。
うちのおじいちゃんが言ってた後悔先に立たずって、ホントだったよ。死後の世界に来てから気付いても遅すぎるんだけど。
「結論から言うとじゃな、おぬしはまだ死んでおらん」
「えええっ?! そっちの方がびっくりだよ!」
「寸ででわしが助けてここに連れて来たのじゃ。せっかくの健やかな魂がもったいないからの。向こうで倒れておるのは、おぬしそっくりに作った人形じゃよ。あの世界では命運尽きてしもうたからのぅ、戻せないんじゃが、他の世界で生きるのはどうかの?」
「異世界ですね! 行きます、おっけーでっす!」
全力で親指を反らせてサムズアップ決める。
「…………即決じゃの。最近の若いモンは全く悩まんのぅ。たまには説得とかしてみたいもんじゃがのぅ……」
おじいちゃんはなにやらブツブツ言ってるけど、それどころじゃないよ!
「チートはありますか?! っていうかあれ? そいえばなんで私の名前? もしかして神様ですか?」
「そうじゃの、わしをそう呼ぶ者もおるかの。
ワシTUEEEとか、神様が異世界文化に毒されてる件。
おじいちゃん、どーなってますの。
そんな毒され神様が言うには、これから私が行く国は、魔素大暴風っていう大災害があって人が減ってしまった国なんだそうだ。
魔素を大量に含んだ暴風が国を縦断して、暴風とそれにより錯乱した魔物の被害が大きかったんだって。
魔物。魔物ときましたか。フッ……私TUEEEの前にひれ伏すがいいよ。
世界に望まれ神様が遣わす子のことを『申し子』と呼ぶらしい。その申し子として私は行くと。
聖女召喚とか、勇者降臨っぽい。
私、そんな世界で一人
「最後に何か願いはあるかの?」
「あっ、それならクロに! 最後にうちの猫に会いたいです。ひと撫ででいいんですけど」
「……すまんの、それはちいと無理じゃのぅ……」
神様は眉毛を下げ、申し訳なさそうな雰囲気になった。
そうだよね……。こんな死後の世界みたいな場所で、クロに会えるわけないよね……。
「じゃが、おぬしの猫を
「……はい。うれしいです! ありがとうございます、神様」
「うむ。ではそろそろ行くぞ。実結菜。達者でな」
そう言いながら、神様は少しずつ薄くなっていった。
「……ああ、そうじゃ! おぬしを助ける時に予定外に力を使ってしまってのぅ、怪我を全部治せなかったんじゃ。そっちの国はいい薬があるから、それで……治……し…………」
うえええ?! 神様?! そゆ大事なことをそのタイミングで言う?!
神様が消えて、白いふわふわの部屋も薄れていき――――。
◇
…………腕と足痛い…………。
きっと青アザ案件だよ……。
ふと横を見ると、すぐ近くに通学用リュックが置いてあった。
あーよかったと思って持ち上げて二度見した。 え?! めちゃくちゃ軽いんだけど?!
教科書とかノートとかワークとか二宮金次郎ばりのリュックはどこ行った?!
よく見てみると、使っていたいつものリュックとは違うものだった。色は同じ紺色で似た大きさなのに、材質がナイロンから革になっている。
上に被せてあるふた部分を開けて中を覗くと、夜空が広がっていた。そっ閉じした。
あれ、多分、見ちゃいけないヤツ。
着ている服も、制服じゃなくなっていた。
動きやすそうな白シャツと、茶色の厚地の上着、カーキのワイドパンツ。神様がこっちの世界仕様に変えてくれたんだと思う。地味ですごく落ち着きます!
まぁ、ここで座っていてもしょうがない。
立ち上がってあたりを見回すと、向こう側の木が途切れている場所には道が通っているようだった。さらに先には建物も見えている。
もっと向こうにはなんかすごい大きな壁のようなものが見えている。なんの壁だろう。
私は異様に軽いリュックを
それにしても、頭がヒコヒコして変な感じ。なんだろう。
手をやると、ふわっと柔らかい感触がある。
って、ひぇっ、くすぐったい! 耳、くすぐったい!!
――――耳――――?
なんで耳がそんなところにあるんだ……?
そういえば、聞こえ方もなんか違う。妙に音が鮮明だ。
恐る恐るまた触ってみると、とんがってる形で毛がふさっとしている。
…………まるで猫の耳のような…………?
実はさっきからもう一つ妙な感覚があるんだよね。
おしりというか腰のあたりがもにょもにょするのは…………。
そーっと触ってみるとやっぱりふさっしていて長くて――――体の前まで持ってくると、黒い長いしっぽ――――……。
ひぇ!!!!
しっぽもぞわっとけば立った! クロのしっぽみたい!
…………ん?
まさかクロを偲べるものって、これ?!
チガウ! 神様! そういうことじゃないよ!! 普通に黒猫のぬいぐるみとかでよかった!!
慌ててワイドパンツのおしりを触ってみると、しっぽ用の穴があり、ちゃんと見返し(?)が被せてあって下着は見えない模様。これは安心。
ふーむ…………。
このことから考えられるのは、こういう服を着る獣人さんがいるってことじゃないだろうか。
いや、それどころか、獣人さんしかいない国かもしれない。
郷に入っては郷に従えって言うし、虎穴に入るなら虎になれって言うし。
それなら黒猫もやぶさかではない。っていうか、むしろ、イイ!
孤独な黒猫、異世界から降臨――――――――。
フッ……決まった……。
こうして、申し子とかいうものになった私の異世界無双(予定)生活が始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。