領都の光と影

黒猫、天上界を知る


 トレッサ師匠に教わって〈存在質量〉のスキルは使えるようになった。

 まず身分証明具でステータスを呼び出し、〈存在質量〉のところ触るとスライドバーが表示される。軽くにスライドすると気を吸う感じになって、存在感が薄くなる。逆に、重いにすると気を吐きだす感じで、威圧になる。

 慣れれば、スキルを呼び出さなくても自在に使えるようになるって。


 練習を兼ねて使いながら魔法陣を書いて、移動して、ごはんを食べた。もちろん存在を軽くの方で使っているから、全然話しかけられない。すごい。


 私はふぅと息を吐きだし、気持ちを緩めてスキルを終了させた。

 さぁお風呂お風呂!


 町のお風呂は木造平屋の大きな建物だった。懐かしい感じの建物に『火トカゲ浴場』と看板がかかっている。

 入る前に、記憶石に[位置記憶]させておこう。

 さっき買ったばかりの記憶石を出して、広い庭のすみっこに立つ。


位置記憶リコーディネイラマーク


 呪文を口にすると、持っていた茶色の記憶石はこげ茶色に変わった。

 これで、[転移]の魔法を使えば、すぐお風呂に来ることができるよ。

 帰りも湯冷めしないようにギルドの記憶石を作ったから、すぐ帰れるんだ。魔法も黒猫の支配下にあるのだ……。フフフ……。


 中に入るとすぐに受付があったので、回数券を出した。


「はい、お一人ですね! 今、かめ風呂が空いてるので、そちらも選べますよ」


 フォリリアさんに似た耳のお姉さんがニコニコしている。狐のお姉さんかな。


「かめ風呂、ですニャ?」


「一人用の小さいお風呂場なんですけど、の浴槽にすっぽりと入れるのが人気です」


 すっぽりと……魅力的! そういえばスーパー銭湯にかめ湯ってあった!


「それでお願いします!」


「はい、かしこまりましたぁ! かめ風呂二番の鍵です。帰りに返してくださいね。かめ風呂は右手の方にありますよー」


 言われた方へ行くと、扉が並んだ廊下に出た。二番と書かれた扉の鍵を開けて中に入って、ガチャリと錠を回した。


 脱衣所は広くはなかったけど、洗面所と植物で編まれた椅子も置いてあって、いい感じ。お風呂場にはちゃんとシャワーと体を洗うところもあった。

 まずは体と頭をしっかりと洗う。

 そうだ耳あるから、気を付けて洗わないと。

 小さい鏡の前で石鹸を泡立てて髪を洗う。耳とその近くの毛は髪の毛よりもふわふわしている。

 あっ! 悲報! リンスはないもよう。ごわっとするかもしれない。


 しっぽもおそるおそる洗った。

 キミね、昔から付いてましたみたいな顔でニョロニョロしてるけど、まだ相容れてないからね。ナゾの物体だから。


 髪の毛はタオルの中にしっかりと入れて、頭に巻き付ける。

 そろーっとの中に入ると、ちょうどいいお湯だった。竹みたいな筒からお湯が流れ込んでいて、かけ流しってやつだ。

 縁に頭を乗せて、ふうとため息をついた。このすっぽり具合がたまらないー。ゼイタクからのゴクラクー。余は満足じゃ。


 たっぷり満喫してから出て、[乾燥]をかけた。

 一瞬で、全身が乾燥終了。魔法って素晴らしいよ!

 ただ、お風呂上りのフルーツ牛乳がないのが残念だったな……。




「[転移アリターン]」


 一瞬で魔法ギルドの庭へと戻って来る。[転移]ってちょっとおかしいくらい便利。


 魔法札書写室に戻って、寝袋にくるまりながら魔法書「初級」を眺める。

 これに載っているのは全部生活魔法だ。


 初級魔法は生活魔法と呼ばれるもので、[清浄][乾燥]の他に[創灯]や[創水][湯煮][網焼]などなど掃除や料理に便利な魔法がてんこもり。

[時読]で時間を知ることもできる。


 魔法スキルが30あれば生活魔法は全部使えるようになるので、そこまで上げる人が多いんだそうだ。スキル値が低いと上がりやすいから、お金がなくてもそんなに苦もなく上げられる数値なんだって。


 いわゆる攻撃魔法とか、[転移]などの空間魔法は、中級・上級魔法になる。


 中級魔法は、[筋力上昇][認識阻害]といった補助系の魔法と、[創風紐][飛火球]などの簡単な攻撃魔法。

 上級魔法は、[位置記憶][転移][防御結界]などの空間魔法を使うもの、[火炎壁][瀑氷壁]と殺傷能力の高い攻撃魔法、[治癒]の魔法などだ。


 上級魔法を使うなら魔法書「上級」が必要なのかと思ったけど、なくても大丈夫だった。呪文を覚えてるなら必要ないみたい。

[転移]も魔法陣の見本帳を見て覚えたんだよね。他の必要そうな魔法も写させてもらおうっと。


 だって、魔法書「上級」って三十万レトもする。いくら稼げる黒猫でもなかなかキビシー金額なのだ……。





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