第二章 三叉の漆黒堂

馬車の旅

黒猫、闇を往く


 領都の近くでは見えていた明かりも、だんだんと少なくなっていった。

 幌付きの荷台の後ろから、遠くなっていくそれを眺めていた。

 それにしても、こんな暗い中でも道が見えるとか。すごいなミネルバさん。


 二頭立ての馬車は思ってたよりもゆっくりだった。流れる景色からすると自転車くらいの速さ。

 それに、思っていたより揺れないし、音も静かだった。


 これ、荷車の部分に魔法陣書いてあるんじゃないかな。風の気を使えば振動は抑えられるような気がするし、空間魔法で音の遮断もできるような気がする。いや、こっちも風でもいいのか。


 幌の下にはランタンのような魔道具が吊り下げられ、ほんのりと車内を照らしている。

 もう一人の乗客のおじいちゃん、トムじいとも自己紹介をして「最近、めっきり寒くなってきた」なんて世間話などをしていた。トムじいは月に二回、領都に仕入れに行ってるんだって。


「――で、嬢ちゃんはどこまで行くんだ?」


 どこと言われると特にどこって決めたわけじゃないんだけど、王都へ行く途中の北側に火山があったのを思い出してつい乗ってしまっただけだ。

 あいまいな顔でにへらっと笑った。


「わしはバサリトニャの家まで帰るところなんだがな、いつもは領馬車に乗ってるんだよ」


「領馬車?」


「そう、領が管理して走らせている馬車だ。そっちの方が椅子がちゃんとしていて乗り心地はいいんだ。あ、ミネルバにはないしょだぞ」


 トムじいが人差し指を立てるから、つられて私もしーっとした。


「ただ領馬車は、馬車代が高くてな。砦までは四千レトかかる。だから、荷馬車の空いたところへ乗りたい人がいれば安く乗せる私馬車、この馬車みたいなのがあるんだよ。まぁ、野良馬車とも言われてるがな。御者によっては悪いのもいる。嬢ちゃん、気をつけるんだぞ」


 変な馬車だと悪い商人に売り飛ばされて働かされるんですよね! わかります!

 コクコクとうなずいた。悪い商人コワイ!


 話をしたり聞いたりしているうちに、だんだんウトウトとしてくる。そういえば、ちゃんと寝てないんだよ……。

 眠りに落ちる最後、体に何かがかけられたような気がしたけど、起きれずにそのまま深い眠りに入ってしまった。




「――――嬢ちゃん、嬢ちゃん。ミュナ、お昼だぞ。メシ食わなくていいのか?」


「――――ずいぶんぐっすりと寝たもんだねぇ。昨日寝てないのかねぇ」


「そう言えば、ひどい顔色で駅へ来たな。寝ながら泣いていたし…………ミュナ、起きたか?」


 なんとか目を開けると、馬車の外から覗き込んでいるトムじいとミネルバさんがいた。


「……おあようごらいまふニャ……」


「「……かわいい……」」


 かけられていた毛布から這い出ると、もう外はすっかりと明るくなっている。


「毛布ありがとう……。ここはどこですニャ?」


「ここはライシーラという集落だ。もう昼だぞ。駅に無人販売庫があるし、近くには食堂もあるが、どうする?」


 降り立ってみれば確かに周辺には建物が見えている。

 馬を休ませている間、ミネルバさんとトムじいと駅のベンチでお昼ごはんを食べた。


 街道に面して木々に覆われた駅から、荷馬車や人が乗る馬車や、歩きの人が通り過ぎていくのが見える。

 結構いろんなのが通るんだな。

 

 この道を行くと、もっと大きな街道に出るらしい。

 最南端の町から砦を経由して王都へと続く『南街道』。

 その南街道は砦で北方面へと続く『東街道』と合流すると。

 まぁようするに、王都からの道が、南街道と東街道に分岐する三叉が、デガロン三叉路ってことだね。


 また馬車へ乗って、ちょっと休憩してまた馬車に乗って。

 夕方にバサリトニャの町へ到着した。

 ここでトムじいとはお別れ――――と思いきや、トムじいはこんなことを言った。


「ミネルバ、よかったらうちに泊まっていくか? わし一人だから時々さびしくてなぁ。たいしたものは出せないが、部屋は余ってるし、馬小屋もあるぞ。ミュナもどうだ?」


「いいのかい? あとは時間の問題があるね。ミュナは砦から王都行きの馬車に乗るつもりかい?」


「いえ、乗らないです」


「そうか、乗るなら早く出るかこの先のテブラレルニャに泊らないとならなかったけど、その心配がないならトムじいのとこに邪魔させてもらうか」


 駅に泊るよりは安全で快適だしな。というミネルバさんの言葉にうなずいた。

 もうコワイのはこりごりだよ!

 馬車は大きな街道から枝道へと入って行った。

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