第4話 彼女の魔法力
さて、現代に蘇ってしまいました悪役令嬢です。
どーしたものやら、です、ハイ。
元カレの部屋でシャリエールこと頼子は考えましたよ。自分がこれからどう生きていきたいのか。
何か哲学的なカンジですが、よーするに身の振り方ってやつですね。悪役転生して、この現代に転移した私が、どこを目指すかっちゅー話です。
って考えて、そもそも自分がこの世界でどんなことが出来るのか、ちゃんと把握していないことに気付きました。うん、遅過ぎ!
あー、ヒロが甘やかすからだー。
衣食住与えて、のんべんだらりとさせるから危機感が薄れまくりなんだよね。で、これじゃあいかん! と思ったわけ。
そんなわけで、ちょっくら自分の魔法がこの現代でどのくらい通用するのか調べてみることにしました。
睡眠の魔法はガッツリ使えることは判明しているし、忘却の魔法―記憶操作ってことかな、何げに怖いよね、この魔法―も有効らしい。
というのも、ヒロ相手に実験してみたり、近所のコンビニ店員さんに使ってみたりと、ちょこちょこ実験していたんだなー。
あ、もちろんヒロには相談していません。だって、バレたら怖いじゃない。ヒロに睡眠の魔法をかけてたなんてさー。
ってゆーか、ヒロが私のことで眠れてなさそうだったから、ついやっちゃったんだけど。
あと、一緒に暮らしているとさ、あるじゃん? 生活音で起こしちゃうとかさ。
なんて言い訳は、さすがに通じないって分かってるわけだけども! だからこその秘密なんだけどね!!
ってなわけで、ヒロが大学に行っている時間を利用しての極秘実験なのです。
「コンニチハー。ちょっとイイですカー」
街中をぶらついて、丁度良さげな男性に声をかけます。
もちろん普段着である乙女ゲームのイラストTシャツは着てないよ! ちゃんとTPOをわきまえないとねー。
つまり、金髪碧眼外国人美女が日本観光してます風、なのだ!
「え? あ、日本語話せるんだ? へぇー、すごいね。どこからきたの?」
「あぁ、ハイ。えぇーと、ヨーロッパ辺り、かな?」
細かい設定は決めてなかったけど、まぁ、いいやー。どうせ忘却の魔法を使うしね!
すごい悪役思考だけど、ノープロブレムよ! 危害を加えるわけじゃないしね!!
「えーと、ここら辺でお茶のできるところ、知りませんか?」
で、ここで魅了の魔法を使ってみる、と。
「「「「知ってます!!」」」」
って、えええええっ!? 尋ねてもない人達がいっぱい返事してくるんですけど!?
「あっちのパスタ専門店がお勧めだよ!」
「や、それよりカフェの方がよくない? 俺、奢るよ?」
「は? 何でお前と行くんだよ? 俺の方が良い店知ってるよ!」
えーーーー! 何コレ? 逆ハーレム?? いやいやいや、魔法効き過ぎでしょ!? 喧嘩勃発しそうだし!
「あの〜〜、分かりましたから移動とか、しません? ここじゃー、邪魔になっちゃいますし」
目立つのはヤバイ。そんなに沢山の人に忘却魔法を使えるとも思えないし。
そう思って人目のない裏路地に来たんだけど、これが失敗! ぬかった、逃げ出せん!!
「俺が声かけられたんだけど。ねぇ、他の連中なんかほうっておいて行こうよ」
「何、勝手に決めてんの? 最初に声をかけられたとか、関係ないじゃん」
「だよなー。彼女、まだ誰も選んでないし」
口々に言い合う男性に囲まれて動けません。
というかね? 君達、初対面、見ず知らずの女の子めぐって喧嘩とかおかしいし、気付け!
ええ、魅了の魔法が効果絶大なのは分かりました。だから解きますよ、魔法。今すぐ! 身の危険を感じるしね!!
とか思っていたら、時すでに遅し、だったらしい。
「もうさ、面倒じゃん。皆で一緒に行こうぜ。それでいいだろ」
一人にさっと手を掴まれた。何すんだ、こら。
あ、でも君の所為じゃーないもんね。今、君達を解放します。だから放してぇ。
けど魔法を解いても、引くに引けない、みたいな空気になっちゃったみたいだ。
うーん、どうしよう。もう全員、眠らせちゃうか? 集団幻覚状況、作っちゃうかっ!?
半分パニックになりかけていたところに、割って入ったのは聞き覚えのある声。
「その手、放せよ」
おおぅ、まるでヒーローの台詞みたい! 思わずトキメいちゃうじゃないか!!
「ヒロ!」
叫んだら、人の群れがささっと割れた。
ほんと、少女漫画か乙女ゲームみたいな展開だね!? とか思っていたら。
「悪いけど、これ、俺の彼女だから」
うっわ! 言ったよ! すっごい台詞言ったよ!?
それは周りも引くよ。というか、超気まずい顔してるよ。そりゃそーだ!
本人達にしてみても、何でこんな状況になってんだ? ってなもんよね。
そんな中をヒロはずんずん進んで、私の手をもぎ取ると。
「じゃ、そーゆーことで!」
と叫ぶなり、掴んだ手をそのままに走り出した! もちろん、手を引かれている私も走り出す。
あぁ、皆様、もう会うことも、そして覚えていることもないでしょーけど。
「お騒がせしてごめんなさーい!」
せめて謝罪だけはと叫んでおく。
この件に関しては全面的に私が悪ぅございますので!
そうやって危機を脱したのだけれど。うん、ヤバイ予感がするね!
ぜはぜはと息切れしながらも走るのを止める頃合いを見計らって口を開く。
「えぇとねー、そのね」
「…………………さっきのヤツなんだが」
「うん? あれね、魅了の魔法なんだ。すごいよね、あんなに効くなんてね! あ、あそこにいた人達には忘却の魔法をかけてあるから、すぐに忘れちゃうよ。安心だね」
「違う。俺が言ったほう」
「あ! 俺の彼女宣言ね。うんうん、格好良かったよ、ゲームのセリフみたいだったよ!」
本当にね。あんなキャラじゃないのにね! だから恐いんだけど!!
内心冷や汗をかいていたら、ヒロがこちらを向いた。
「正確には、俺の『元』彼女、だ。要領悪くて、面倒ばっかり起こして、人のことを振り回しまくる、そんな彼女、だった」
語気を強めて言うヒロのその顔は。
ああああああ、予想はついてた! ついてたけど、それ以上に怒ってる!!
「………………ごめんなさい」
「謝るくらいならやるな」
ヒロの目が絶対零度の冷たさで睨んでます。
マジだ。本気度百パーで激怒していらっしゃる!!
「もうしません」
「何を?」
「ヒロに黙って勝手なこと、を?」
「疑問符を付けんな。………………勘弁してくれ」
はーーーー、とヒロが息を吐き出し、張り詰めていたものが緩んだ。
あぁ、すごく心配したんだろうなぁって分かる。
囲まれてる私を見た時、ヒロはどんな気分だっただろう。
うぐ、ごめん、ごめんよぉ。
「ごめん、ヒロ。もう、しない。しないから」
ぐすぐすと鼻声になってしまった私をヒロは軽く睨んだけれど、それはいつも通りの呆れを含んだ、しかし心配するような目だった。
「分かったなら、いい」
こーゆーヒロの寛大さ? というか、精神の安定性はいつも尊敬する。本当に心が広いよね。
とか思っていたら。
「何かやらかすんじゃないかと思ってたら、やっぱり助けにいかなきゃならんことになるし。その考えなしなの、本当になんとかしろよ。
つーか、隠しても結局バレるっていい加減に学習しろってーの」
「………………は?」
ええと? ヒロ? ってことはもしかして?
「授業があるっていうのは嘘。ここのところのお前、怪し過ぎ」
「じゃー、つまり今日は」
「はじめから尾行してた」
「えーーーーーー!?」
何とっ! 道理であのナイスなタイミング!! って、だったらこんなに怒らなくても。
「お、ま、え、の! 馬鹿さ加減に怒っているんだからな?」
「あ、ハイ、ごめんなさい。これから、ちゃんと相談します」
「あと、むやみに魔法を使うな。俺にも」
「はいー。って、それも気付いてたっ!?」
「だから! お前、ダダ漏れなんだよ、考えが!!
迷惑かけてるかも、とか、心配かけさせたくない、だとか! 本当に腹が立つ!! 俺を頼れよ!!」
そう叫ぶヒロに、ああ、この人は本当に私のこと好きでいてくれてるんだなぁって実感する。
本当はずっとずっと助けてほしかった。でも、誰にも言えなかった。
こんな風に「頼れ」だなんて、あの世界でシャリエールに言ってくれる人なんかいなかった。
どうしよう、泣きそう。
「うん………………分かった。ヒロのこと、ちゃんと頼りにする」
「お、おう」
涙目になってしまった私にヒロは戸惑ったみたいだったけど、それでもおずおずと頷いてくれた。
「とりあえず、帰るか」
「うん」
ぎこちなく繋いだ手。
ヒロはまだシャリエールに慣れていないもんね。それでもこうしてくれるんだね。
「ね、授業が嘘なら、これから時間があるってことだよねー?」
泣きそうな顔を見られたくなくて私は歩きだした。
もちろん、手を繋いでいるヒロも一緒に歩きだす。
「まあ、そうだけど」
「じゃあ、ご飯食べて帰ろうよ!」
「あんま、金ないぞ?」
「大丈夫、大丈夫。牛丼だから」
「あ、それ魅力」
「でしょ」
温かなヒロの手は記憶のままで。それが嬉しくて、少し苦しい。
私はその気持ちに気付かないフリをして歩いた。これ以上、泣かないように。
ヒロを泣かさないように。
とりあえず魔法を使うことは控えよう、と私は決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます