第27話 彼女の誤算


 勇者のお兄さんを捕縛後、私達は後処理をもうすぐ到着するという異世界対策課の人にお任せして、帰宅することになった。

 アンリさん曰く「シャルちゃん達がここにいられる方が困るから」とのこと。

 ちなみにアンリさんは護衛ということで、アパートのヒロの部屋まで一緒にきてくれたんだけど。

 帰り道も現在も、三人とも沈黙したまま。部屋に上がるでもなく玄関で黙りこくっている。

 というかね! 考えることが多過ぎるんだよ!!

 ああぁ、どうしよう。クソ神様の考えが分からない。いや、これがただ単に遊びたかっただけとかだったら、どうしてくれよう!

 でもクソ神様は頼子の死を「自然の流れ」って断言してた。それを信じるなら、あの事故までは『干渉者』であるクソ神様は動いてなかったってことだ。

 頼子が死んだあの事故の後、あの場所で何が起こったんだろう? でもって異世界対策課のアンリさん達はそれを把握してるのかな?

 いや、ここは、マリアさんやカズタカさんの方が力になってくれたり?

 もやもやと考え続けていたら、ヒロがおもむろに口を開いた。

「なあ? 『干渉者』っていうのは、シャルをこの世界に連れてきたヤツなんだろ? どんなヤツなんだ?」

「…………なんていうか、人をおちょくるような喋り方で、何が嘘なんだか本当なんだか、よく分からないことばっかり言うヤツ。

 本人は『神様』だって名乗ってたけど」

「そう、なのか」

 ヒロはまた何かを考え込み、それから口を開く。

「頼子が見つからないことと、シャルの転生転移、あの自称勇者の転移は関わりがあるってことなのか」

「そうなるのかな。まだ、分からないけど」

「はっきりしないな、お前。まさか、また何か隠し事してるのか?」

「うっ」

 そういうわけじゃないんだけど。言葉に詰まってしまった私をヒロがじと目で探るように見てくる。

 が、そんなヒロの首をアンリさんが正面からわしっとつかんだ。

「ヒ〜ロ〜カ〜ズ〜くぅん? ぶっ殺されたいのかな?」

「ぐっ、すんませ、ちょ、ほんと、ごめ、な、さい!」

 アンリさんがぎりぎりぎりと手に力を入れているのが分かる。ヒロが涙目だ!

「アンリさん、アンリさん! 大丈夫ですから! 私、本当に大丈夫ですからぁ!!」

 慌てて叫ぶとアンリさんはパッとヒロの首から手を放してくれた。

「って脅してもね。正直、混乱するよね。私もしてるし」

「え? アンリさんも?」

「うん。干渉者が絡んでるなんて今日まで知らなかったし。

 てゆーか、意図的に隠してたな、あのジジィめ」

 舌打ちしそうな顔でアンリさんがそう言う。

 うーん、これはアンリさんには知らされてなくて、上司の方は知ってたってことなのかな?

「今後もこういうことって続くんでしょうか?

 あの〜、でも転移とか転生って、本当ならあんまり良いもんじゃないんですよね?」

 異世界転移した穴の歪み、それに淀みを知っちゃってるから、余計にああしたことはやたらにしちゃいけないんじゃなかろーかって思っちゃう。

 やっぱり理から外れる事象は、本来なら起こっちゃいけないことなんじゃないだろうか。

 案の定、アンリさんは眉間にしわを寄せて頷いた。

「そもそも調和を図る為に異世界対策課があるんだしね。次元の歪みは均衡を崩す。端的に言えば、世界滅亡の危機だよね」

「でもぉ、その歪みを力技でバンバン生み出しちゃう存在がいる、ってことですよね?」

 歪みを広げて、この世界を滅亡させることがクソ神様の目的なんだろうか?

 でもアンリさんは腕を組んで唸るように言う。

「確かに力技なんだけど、被害は最小限に抑えてる。たぶんだけど、思惑は私達と同じ、気がする」

「えっ? 異世界対策課と同じ??」

「断言はできないけどね」

 困り顔のアンリさんに私の頭の中は疑問でいっぱいですよ。

 思惑が同じ? ってことはクソ神様は世界の均衡を守ろうとしてるってこと? そのわりに、やってること真逆じゃない?? どーゆーこった!?

 もう、わっけわっからーん!! っていうタイミングで、ピンポーンとチャイムが鳴った。

 えー! こんな時に誰だよー。 宅配の人?

 なんて、扉を開けたら、そこには予想外の人物が!!

「こ、こんばんは、です」

「きょん!? 何でっ?」

 今、夕方だよっ!? 何故に、この時間に訪問!?

 驚く私とヒロと、それから首を傾げるアンリさんの前で、きょんがバッと頭を下げた。

「突然に来ちゃってごめんなさい! でも私、どうしていいか分かんなくて。

 前みたいに、お姉ちゃんの部屋に行かせてほしいんです!」

 って、えええええ! こんな夕方から?

 あ、もしかしてこの前みたいに泊まりたいってことなのかな? でも、何で? というか、きょん、何か悩んでる??

 だけど、顔を上げたきょんが、ものすっごい不審そーにしてる。

 ん? どしたの?

「あのぅ、でも今、おとりこみ中、でしたか? その女の人って、もしかして」

 きょんの疑うような眼差しがヒロにむく。

 あ!? この状況、誤解されてるっ!?

「いや! いやいやいや、きょんちゃん、違うんだ。この人はお隣さんで!」

「そうそう! 誤解だよ! 修羅場ってナイナイ! 大丈夫ー!!」

 まさかの疑惑をむけられてヒロも私も大慌てだ。

「あ、イエ、いいんです。状況把握しました。あとヒロ兄の言い訳はいりません」

 おおう、冷静だね、きょん。そして何故に辛辣!!

 そんなうろたえる私達と困り顔のきょんを見ながら、アンリさんが「ふむ」と頷いた。

「よっしゃ! ここは一つ、年長の私が一肌脱ぐか!」

 はい? アンリさん、何を言い出すんですか?? もう目まぐるしくって思考がついていけてませんよっ!?

「とりあえずご飯よ! 簡単和風ツナパスタでいいね? はーい、頼子ちゃんの妹さんはスリッパどうぞ〜。

 ほらほら、歳上組、ぼさっとしない! ちゃんと手ぇ洗って、うがいして、お茶でも淹れる!!」

 ビシバシ仕切るアンリさんに逆らえる人間はもちろんいないわけで。

 私達は言われるままに、慌てて部屋の奥に引っ込んだのだった。







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