第37話 彼女の対決



 驚きを通り越して、もはや恐怖!!

 遥斗さんが腕をただ振った、それだけで魔力が相殺されて消えちゃったよっ!?

「何故だ!?  何故、止めることができるっ!?」

 驚愕した顔で叫ぶ彼女に遥斗さんはしれっと言った。

「弱体化し、勇者の聖剣で切られた魔王など、押さえ込むのは容易だ。何せ、私の元はお前と同じなのでな」

 ふわりと遥斗さんの周囲に風が吹き、彼の髪を巻き上げ、青白い炎が揺らめく瞳を見せつける。

 私でも分かる。今の遥斗さんの魔力は桁違いだ。いや、これが遥斗さんの本当の力?

 彼女が目を見開いた。

「まさ、か、お前は」

「元、魔王を舐めるな」

 …………………ええええええええーーーーーーー!!

 今、何て言った!? 魔王? 魔王って言った!? えーーーーー! 遥斗さん、元魔王ですか!?

 え? じゃあ、マリアさんは魔王の娘!? で、アンリさんは魔王の孫ーーーーー!!!!

 なんてこったぁぁぁぁぁっ!! 東雲家、そりゃー普通じゃないわ!! むしろ、この町よく今まで無事だったねっ!?

 でもってね? 頼子の身体を乗っ取ろうとしている魔王は魂だけ転移してきたっぽいけど、遥斗さんはもしや身体ごと!?

 どんだけ魔力持ってんのーーー!!

「元魔王だと!? 魔王が何故、人を守る!?」

「お前に教えてやる義理はない」

「あっ! ぐ、あ! ああぁぁぁぁぁっ!!」

 遥斗さんの魔法が彼女を絡め取り、身動きをとれなくする。

 だけど遥斗さんは眉間にシワをよせた。

「クソッ、やはり分離はできないか」

 え? つまり魔王の魂を頼子の身体から引き離せないってこと?

 てゆーか! 今さらだけど、頼子の身体ってどーなってんの??

「おい、小娘、よく聞け。あの飯田頼子の身体は、事故にあう寸前まで巻き戻されたものだ。

 おそらく、そこの車の持ち主の―つまり事故を起こした者だが―その願望につけこんで事故をなかったことにし、その上で飯田頼子の身体をここに持ち込んだ」

 成る程! だから事故の痕跡もないし、頼子の身体にも外傷がないのかー。

「それでだ。今から貴様の魂を飯田頼子の身体に入れる」

「はいっ!? 何のためにっ!?」

「魔王の魂が融合しかけている。このままでは、魔王を倒すには身体を粉々にするしかないが。それは嫌だろう?」

 ス、スプラッター。うぅ、確かにそれは嫌かもぉ。

「飯田頼子の身体との親和性は貴様の魂の方が上だ。中から魔王の魂を叩き出せ」

「ええええっ!?」

 飯田頼子の身体に入るって! それって完全に蘇るってこと!?

 動揺する私を遥斗さんがじぃっと見つめた。

「いいか、小娘。望みを思い出せ。私は――――貴様を信じる」

 青い炎が揺らめく今の遥斗さんの目は、マリアさんやアンリさんの蒼い目と似てる。

 その目の厳しい鋭さは前と変わらない。でも分かる。遥斗さんは、きっと二人と同じだ。

 どうして元魔王の遥斗さんが世界を守る側になったのか、それは分からない。けど、遥斗さんは異世界対策課の仕事をしてて、この世界の均衡を保つことを望んでいるのは分かる。

 そんな遥斗さんが、私を信じるって言ってくれてる。

「分かり、ました」

 私は覚悟を決めて頷く。

 遥斗さんは、くるりと視線を巡らせる。

「アンリ」

「………………分かった。シャルちゃん、こっちにきて座って」

 言われるままにしゃがんだアンリさんの前に座ると、アンリさんはそっと私を抱き締めた。

「絶対に大丈夫だからね」

 囁くアンリさんに私はこくりと頷く。

「目を瞑れ」

 遥斗さんの指示通りに目を瞑ると、不思議な感覚になった。あの、悪夢を見た時に、似ているような。

 夢なんだけど、夢じゃないような感覚。

 ―――行け。

 声じゃない、直接に伝わる振動みたいな遥斗さんの言葉。

 直後、バシッと何かに押されたみたいな衝撃がきた。それも、頼子を目がけて、一直線に!

 ぶつかるっ! って、魂だけなのに身構えた、その瞬間。するっと頼子のなかに入ったって分かった。

 同時に、視界がはっきりした。あ、夢みたいな感覚が抜けてるや。

 それと、遥斗さんやアンリさん、抱き抱えられてる私と棒立ちのヒロが見える。

 うん、これは頼子の視界だ。

 ―――これ、は、我のモノ…………ぞ。

 頭に直接に響く言葉に言い返す。

「アンタのもんじゃないっ!!」

 あ、声も出た。うん、これは頼子の声だ

 ―――魂を、取り……………込んで、やる。

 そーはさせるかぁ!!

「出てけ、出てけ、出てけ、出てけーーーーーー!!」

 欠片も残さず、その違和感を頭から叩き出す。

 バシバシ強く念じるほどに、それが押し出されていくのが分かる。

 ―――バカ、な、こんな……………はず、では。

 しかし、それはあまりに弱々しい。あと、もう少し!

「じょうっ、だん、じゃ! ない!!

 人の身体を乗っ取るとか! ふざけんなぁーーーーー!!」

 い、息切れするっ!

 あー、でもすっきりした。ん? すっきり? あ、追い出せた?

「………………完全に、小娘になったな」

 見れば遥斗さんが腕を下ろしていた。

「アンリ、魂を封じろ」

「了解」

 アンリさんがシャリエールの身体を抱えながらも、何かの術を使った。あれで魔王の魂を封じてるのかな?

「できたよ」

 アンリさんがお札のようなモノを遥斗さんに渡す。それを遥斗さんは胸のうちポケットにしまって私を見た。

「小娘、ご苦労。では、その身体から出てこい」

 そのきっぱり具合に思わず笑っちゃう。

「ですよねー」

 遥斗さんにそう言われるのは、なんとなくだけど、分かってた。

 けど。

「え?」

 唖然としたのはヒロだ。そりゃそうだよね。

 ずっと探してた頼子がこうして見つかって。しかも、動いて喋ってるんだもん。納得なんか、できるはずないよね。

 これが試練。この選択が。

 あぁ、クソ神様、やっぱり貴方ってドちくしょうですね。悪趣味すぎでしょ、こんなの。

 それでも、選ばなくちゃいけないんだ。

 世界と私、そしてヒロの―――――これからを。







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