第31話 彼女の詮索
けっきょく、きょんはアンリさんの職場、つまり異世界対策課にバイトで雇われることになったんだそう。
特例中の特例なんだって。いいなー。
んでもって、アンリさんは勇者のお兄さんのことがあるからか、急激に忙しくなっちゃって、なかなか会えなくなっちゃった。寂しいよー。
ヒロはヒロで難しい顔ばっかりしてるし。
こーなったら独自で行動しちゃうもんね! と、いうかね、前々から試してみようと思ってたことなんだけどね。
あー、アンリさんに知られたら怒られそう。だけど、試すなら今だよね。
そんなわけで、やってきました、街中の一区画。
すぐ近くにある交番で知った顔のおまわりさんがいたから、心のなかで「あの時はごめんなさい」と謝りました。
うん、つまりここは私、シャリエールが初めてこの世界に降り立った場所。転移した所です!
前は空間が歪んで淀んで、えらいこっちゃー! に、なってたんだけど。さすが異世界対策課! 今はちゃあんと清められてて、マリアさんのトコの楠木と同じ状態になってる!!
だからきっと、アレが顕現できるはずなんだよ。
「えぇとー、神様ー? 聞こえますかー?」
マリアさんのところの、楠木みたいに呼びかけてみる。ん? 無反応??
えーと、神様を呼び出すのって、どうやればいいんだろ。
「開け〜、ゴマッ! は、明らかに違うか。
ベントラ〜、ベントラ〜?いや、違う。コレ違う。
はんにゃ〜は〜ら〜み〜た〜、ってコレはお祓いっ」
「あはは〜、相変わらず愉快だねぇ、君は」
「って、きた?ー!?」
いつの間に現れたのか、クソ神様が顕現してた。
よし! 第一関門クリア!!
「それでー? 呼んだからには理由があるよね? ないって言ったらはったおすよ?」
あれー? いつになく不機嫌そう? 何でだろ。いや、神様のことだし、分かるはずないか。
もうさっさと聞くこと聞いてトンズラしよう!
「聞きたいことがあります!」
「ハイ、却下」
「じゃあ、頼みがあります!」
「それも却下」
「じゃ、じゃあ! 言うこと聞いて!!」
「あのさ、普通、要求って下げていくものじゃないかな? 何で上げてく?」
「えっと、神様、だから?」
言うだけ言ってみようかなー、と。ってカンジだったんだけど。
「ホント、神頼みって嫌だね! やってらんないよね!!」
おぉう、クソ神様にそんなこと言われるとは。
でも、まー、分からないでもないけど。
でもね? 私だってこんなことに巻き込まれてなきゃ、普通に神様頼みなんて気休めで終わってたってもんですよ? それにねー?
「でも貴方って『干渉者』なんですよね? 神様じゃないって聞きましたよ?」
ここ、大事。この存在がこの発言にどんな反応をするのか。と、観察してたのに。
「そう呼ばれたりもしてるねー。あ、でも君には『神様』って呼ばれたいなー」
あっさり認めるの! でもって『神様』って呼ばれたいとか!! あ、待てよ?
「分かりました。これからも『神様』って呼びますから、質問に答えてください」
「………………むう。君のくせに、頭を使ったな」
待って! 貴方のなかで私はどんだけバカなのっ!? 反論できないけどっ!!
「んー、あー、でも、まぁいっかぁ。一つだけ質問に答えてあげよう」
おお! よっしゃー!
あー、でも一つだけかぁ。うあー、何を聞いたらいいんだろ。
ここはクソ神様の思惑を聞くべき? それとも頼子のこと?
「はーやく、しーないと、消えちゃうぞー」
「わー、待って待って待って! ええと、それじゃあ、ええーっと!!」
足りない頭で考えて、けっきょく出てきたのは。
「頼子はどこにいますかっ?」
やっぱり知りたいことを直球に聞くしかないよね。うん、馬鹿ですから!!
「事故のあった町。だけど物理的には行けない場所。あ、もちろん私は行けるけど。
でも私がそれやると力の使い過ぎで均衡が保てないし、意味ないからしないし、あと君をそこに転移させる気もない」
「え」
「さぁて、質問には答えたよ。もう、いいよね? 消えるよ?」
「ええっ! いや、待って!」
「えー、もういいじゃん。面倒じゃん。こっちにメリットないじゃん」
「あ、あのー、でもお礼くらいは。
いや、感情的にはけっこう不本意ではあるんですけど! でも、私が現代にいられるのって、神様のおかげなんで。
改めて、ありがとうございました、神様」
遊ばれてる感はあるし、得体がしれない恐怖もあるんだけど。
それでもこの存在は私にとって『神様』なんだろう。
「………………あーあ、やっぱヤだなぁー。
なんで君、ザマァしなかったのさ。そしたらもっと長い時間、君を見ていられたのに」
ふいにクソ神様と目があった。金色の、その瞳。
いつもその姿はぼんやりしていて、不自然なくらい記憶からすぐなくなってしまうのだけど、この時はその瞳がはっきりと分かった。
「じき君に試練が訪れる。その時、どの道を選ぶのかは君しだい。
でもね――――君には幸せになってほしいな」
人を超越し、世界の理に干渉しうる力を持っている存在の目は、どうしてか悲しそうに見えた。
「あともう少しだ。頑張ってね、神の愛し子」
そして、その存在は掻き消える。
あともう少し? そして頼子は、マリアさん達の住む町にいる? でも、物理的には行けない?
頼子が事故にあった―――だけど、何の痕跡もなくなっていた、あの場所。
ずきり、と頭に痛みが走った。と同時に。
――――お前……………か?
声が聞こえた気がした。
幻聴? うぅん、本当はどこかで分かっていた。
聞こえたそれが――――頼子の発見に繋がることを。
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