第7話 彼の迷走
きょんちゃんと頼子―いやシャリエール? ―、とにかく二人がいなくなって、久しぶりに一人きりになった部屋で俺は用心深く地図を広げた。
それは俺が今まで掴んできた頼子の足取りを記記したものだった。
彼女は彼女で俺に隠し事があるように、俺も彼女に言えていない幾つかのことがあった。この地図はその一つだ。
これは頼子が宿を予約した町のもので、俺は頼子を探す為に、すでにもうこの町を訪れていたんだ。
頼子と連絡がとれなくなったのは、イベントの終了後から。夕食のご当地グルメを写メで送ってきて、それについて二三やり取りを交わした後、彼女との連絡は途絶えた。
そして彼女は予約していた宿にチェックインすることなく、宿から彼女の実家へと連絡が入り、そこでどうも変だということが発覚したわけだ。
分かっているのは、夕方にはこの町にいたらしい、ということだけ。
俺はすぐに宿に行ってキャンセル料金を支払った後、頼子らしき人物を見なかったか宿の周辺で聞き込みをした。しかし、情報はまったくなかった。
この地図はその時に手に入れたものだった。
あの時はまだ、頼子があの町に着いたのかさえあやふやで、歯がゆい思いで引き返してきたことを思い出す。
だけど、やっぱり頼子はあの町に行っていたんだ。
俺は広げた地図を指でなぞる。駅から宿までの道筋を。
先ほどシャリエールが語っていた情報と照らし合わせ、事故現場とおぼしき場所のめぼしをつける。
あぁ、たぶん、ここだ。見通しの悪そうな三叉路。ここで頼子は――――。
そこまで考えて、俺はふいに怖くなった。
死んだ、のか、頼子は。
受け入れるとシャリエールに言っておきながら、それを信じたくない自分がいる。
でも、だからこそ、確かめなくちゃいけないんじゃないのか?
俺は前のめりになっていた身体を起こして、ふーっと息を吐いた。
「冷静になれ」
頼子がいなくなってから、呪文のように繰り返してきた言葉だ。
俺が彼女を見つけるんだ。
警察はあてにはできない。どんなに不自然だと訴えたところで、数ある失踪の一つに過ぎず、さらに成人していて自らの足で出掛けていったことが明らかな頼子は、完全に家出人扱いだった。
駅にあったカメラの映像を確かめさせてくれれば、頼子が訪れている姿が映っていたかもしれない。しかし、それすらもしてくれなかった。
だから、自分で見つけるしかない。
―――もう一度、あの町に行ってみるか? だったら彼女、シャリエールはどうする? ここに残す? いや、目を離したくない。でも、もし彼女が語ったことが本当なら、自分が死んだ現場を見せることになるんだぞ? って、受け入れるって決めたんだろうが、本当ならってなんだよ!―――
考えのまとまらない頭に、ふいに思い出されたのは柔らかな声だ。
「困ったことになったら、何時でもいらっしゃい。きっと力になれるから」
つい、と、地図に目をやる。
なぞった道筋から少し外れた場所にあるお寺。
その前で俺にそう言ってくれたのは不思議な容姿をした年配の女性だった。
あの人は何故、そんなことを言ったのか。俺は「人を探している」としか言わなかったのに。
それに「困ったこと」って? 「力になる」とは、どういう意味だろう?
いったいこの迷捜がどこに行き着くのか。俺自身にもまったく見当がつかなかった。
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