第6話 彼女の死因


 さて、ひと通り説明し終わった私を、妹はたいそう不審そうな目で見ております。

「ええと、悪役転生っていうのがまずよく分からないんだけど。

 ようするに、貴方はお姉ちゃんの生まれ変わりってこと? で、異世界からこの世界に戻ってきたって?」

「そーゆーこと!」

 頷く私に、きょんは納得できないって顔で質問を重ねた。

「でもお姉ちゃんの生まれ変わりっていうなら、お姉ちゃんは死んでいるってことですか? 貴方、どう見ても私より年上ですよね? 姉がいなくなって、まだ一ヶ月もたっていませんけど?」

「私もまさかこんなことになってるなんて思わなかったよー。てっきりお葬式くらい済んでいるもんだと」

「って! だから!! お姉ちゃんが死んでいるのが前提なのが信じられないって言っているんです!

 何故、貴方が姉の生まれ変わりなんです? 貴方は姉が、自分が死んだってことを覚えてるってことなんですか?」

 さっすが、きょんだよ。混乱していてもちゃんと確認しなくちゃいけないところは聞いてくるね!

「うん。覚えてるよ、頼子の死因」

 そこで黙って聞いていたヒロが叫んだ。

「聞いてないぞっ!?」

 うん、言ってないからね。

「あー、ホラ、聞かれなかったから。でも良い機会だから語っちゃうよ!」

 唖然としているヒロはとりあえず無視して、私は頼子が死んだ日のことを話しはじめた。

 頼子の死因は事故死。つまり車にひかれたのね。というよりはねられたのかな? ガツーン、ってね。

 でもってそこからの記憶はない。即死だったんだろうなって思う。

 問題はたぶん、事故が起きた場所が住んでいたここから離れ過ぎていたってことだろう。

 というのも私が事故にあったあの日、地方でのゲームイベントがあって、そりゃもー浮かれまくって参加してたんだ。でも地方だったから、そこは考えて一泊する為に宿をとってあったのね。

 そんなわけで、あの日はイベントを楽しみまくってルンルン気分で宿へと向かってたってことで。

 まぁ、ちょぉぉっと注意散漫になってたわけだ。あと、観光したりしていたから夕方になってたしね。

 で、ひかれた、と。

 そこまで語った時、きょんが堪らずというように叫んだ。

「ねぇっ、馬鹿なの? お姉ちゃんって馬鹿なのっ!?」

「落ち着け、きょんちゃん! 頼子は馬鹿だ!!」

「にしても馬鹿過ぎるーーーーーーー!!」

むー、二人ともひどーい。

たとえ真実でも人を傷つけることは言っちゃダメなんだぞー。

「馬鹿なのは認めるけども! 本人の目の前で馬鹿馬鹿言うのは止めてくれないかなぁ!?」

そう言った私を見て、二人してため息を吐くのも止めてよぉ。

いや、自分でも馬鹿馬鹿しいとは思うよ? 思うけどね? 死んじゃったんだから、もうちょっと気遣ってよー。

「とりあえず、俺はもう受け入れた」

「それはそれで辛いっ。馬鹿を肯定されたら!」

「馬鹿なのは、もうしょうがないだろ。

 じゃなくて、だ。受け入れたのは、お前が話す、頼子の死因の方」

 そのヒロの言葉にきょんが目を丸くした。

「え? ヒロ兄、本当に信じるの? この人が言うこと」

 驚愕するきょんは、きっとまだ私の存在も信じれないんだろうな。

 そりゃそうだよねー。こんな事情、受け止めきれないって。

 だから隠そうとしたんだけど。

「俺は信じる。だって、コイツが目の前にいるんだからな」

「……………そう、なんだ」

 その戸惑ったきょんの声に、今さらだけど気づいちゃった。ヒロはヒロでいっぱいいっぱいなんだなぁって。

 きょんに気を遣うことができないくらいにヒロは追い詰められてるんだ。まあ、そーなっちゃうよね。ごめん、ヒロ。

 うん、だから。

「しかし、話はここまでッ! 以下、次号ッ!!」

 私はきっぱりと叫んだ。

 途端に、目の前の二人がぽかんと口を開ける。

「ハ?」

「えっ?」

 目を丸くした二人に私はにっこりと笑った。

「だってさー、きょんはもう帰らなきゃでしょ? 続きはまた今度ってことで〜」

 実際に実家からここまで、けっこうな時間がかかっちゃうんだもん。

 なんて思っていたら。

「…………今日は帰らない、です。明日、休みだし」

 なんてことをきょんが言いだした。

「へ? いや、でもどこに泊まるの? ここ?」

「ここには泊まりません!」

「んじゃ、どこに? お金ある?」

「う〜、あ! お姉ちゃんの部屋! は、駄目、ですか?」

 言いながら、ちらりとヒロの顔を伺うきょん。

 あ、それは可能かもね。私もヒロの顔を見れば、ヒロは軽く頷いてくれた。

「それなら大丈夫だろ。俺の合鍵を使えば部屋には入れるし、妹のきょんちゃんならあの部屋に行っても怪しくはないからな」

 だよね! だったら私もー、と手を上げてみる。

「ついでに私も泊めさせてください!」

「えっ?」

「あ、きょんが嫌なら止めておくけど」

 こんな信用ならん、変な女と一緒は嫌かな。

 それならしょうがないかなー、と思っていたら。きょんはじぃぃぃっと私を見つめた後、こくんと頷いた。

「いいでしょう。一緒に泊まりましょう」

 おお! 本当に良いの!?

 実は取りにいきたい物がいっぱいあったんだよね! でも私が頼子の部屋に単独で行ったら怪しさ満載だしさー。

 ヒロは複雑そうな顔をしていたけど、けっきょく合鍵をきょんに貸してくれた。

 だから、私ときょんは連れだって頼子の部屋に来たんだけど。

 部屋に入った瞬間、きょんが言い放った。

「あのですね! 私、まだ貴方のこと、信じたわけじゃないですから!!」

 あ、うん、それは分かってるよ。それに、信じたくないっていうきょんの気持ちも。

「でも、お姉ちゃんを探す手がかりになるなら、少しでも情報は欲しいんです。今日だって、その為にヒロ兄のところに行ったんですから」

「そっかぁ。やっぱり、お姉ちゃんのことを調べにきてたんだね」

 ヒロの部屋の前で待ち伏せしていたから、そうなんじゃないかなぁって思ってた。

 やっぱり、きょんは独自で頼子を探してるんだ。

「だって、警察に失踪届けを出しても、状況は何も変わらなくて。何か、しなきゃって。お姉ちゃん、探さなきゃって。

 って、何で貴方が泣くんですか!?」

 だってー、きょんってば泣きそうな顔で話すんだもん。こっちが泣いちゃうよぅ。

「嬉し泣き。優しい。きょん、大好き」

「いや、だから、私はまだ貴方のこと」

「うん。信じなくていーよ。でも、嬉しいんだ」

 こんなに頼子のことを心配してくれてる。この子は天使だよー。

「もし、もしも貴方が本当にお姉ちゃんだったら…………」

 私はきょんのそれをあえて遮った。

「信じなくていいの! きょんはね、きょんの信じたいことを信じればいいんだよ」

 きょんが辛い思いをするくらいなら、私の存在を否定された方がマシだもん。

 そう言った私に、きょんはおずおずと聞いてきた。

「あの、名前、何ですか?」

「え?」

「だから、貴方の名前!」

 わお、私も相当に余裕なくしてるね!

「あ、シャリエール・フラメルとイイマス」

 そういえば今の名前をまだきょんに名乗っていなかったって気付いた。ごめんよー。

 きょんはそんな私を真っ直ぐ見てくれた。

「シャリエールさん、私はまだ貴方の言っていたことを信じたわけじゃないです。でも………………貴方が悪い人じゃなさそうってことは分かります。

 だから、協力してくれませんか? お姉ちゃんのこと。私も、貴方に協力しますから」

 えっ!? 何、この子、マジ天使!? うわ、嬉しい。本気で嬉しい!

「ありがとう、きょん〜〜〜。これから、よろしくね!」

「はい。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げたきょんが可愛くて愛おしくて、再度彼女に抱きついて悲鳴を上げさせました。

 撫で倒したのはいうまでもありません!









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