第5話 彼女の身内


 牛丼を堪能してヒロと仲良くアパートに戻ってきたら。玄関先に、見知ったお客が待っていた。

 のだけれど。

 彼女はヒロと私を見た瞬間、目を見開き、そして。

「いやーーーーー! ヒロ兄、サイッテーーーーーーー!!」

 平手打ちをかましてくれました。

 ……………ヒロに。

「って、誤解だーーーー! いや、誤解? いやいやいや、ちょっと落ち着こう! 落ち着いてくれ、きょんちゃん!!」

「落ち着けって!? この状況で? 無理でしょっ!? え、何? 浮気? 浮気なのっ!? 彼女が失踪してる時に!? 最低! 人として最低だよ!! 酷い、ヒロ兄がそんな人だったなんて!!」

 わあ、相変わらずの優等生思考、そしていつにましての暴走具合だね、妹よ。

 あー、でも。

「可愛い!」

 思わずがばっと抱き締めちゃうよ。うわ、うわ、本物のきょんだ。

 この小ささ、くせっ毛の髪。わしゃわしゃしたくなるよ!

「え、なっ!? なーーーーー!!」

 パニックを起こしている彼女を撫で倒して、それからにっこり笑った。

「大丈夫。ヒロは浮気なんかしていません。安心してね、恭子ちゃん」

「え? 私の名前? どうして知って?」

 私のその台詞にヒロは何かを察したらしい、思わずというようにツッコミを入れた。

「きょんちゃん、それ頼子だから!」

 しかしヒロのそれを聞いて、目の前の少女はますます混乱したようだ。

「へ? お姉ちゃん? この人が??」

「あー、勝手にバラすなんてひどーい」

「いや、明かせよ! 何さらっと隠そうとしてんだ!!」

「だってー、説明メンドイじゃん」

「だから! そーゆーところだ!! 直せ、その根性を今すぐに直せ!!」

そんなヒロと私のやり取りを見つめて、少女は―いや、頼子の妹であるきょんは―目を丸くし首を傾げた。

「えーと? どーゆーこと?」

 あー、これはまたいちから説明しないとだなぁ。

 それより信じてくれるかな? きょんって、わりとリアリストだしなぁ。オタクでもないし。

「とにかく、説明するから! きょんちゃん、部屋に上がって!」

 ヒロがそう言ってアパートの扉を開ける。

「え、でも、ここってヒロ兄の部屋、だよね?」

「ああ、ごめん。汚いけど。ちゃんと話した方がいいだろうからさ」

「う、うん」

 ちらっと私を見てから、きょんはおずおずと部屋に入る。

 ヒロは私に「お茶ってあったっけ?」とかなんとか言っているけど、気にするところが違う、とツッコミたい!この乙女ゴコロの分からんニブチンめ。

 でも、これはこれで複雑な気持ちになるなぁー。むー。

 しかし、とりあえずはお湯で溶いたミルクティーを三人分用意してテーブルにセット。腰を落ち着けたところで。

「で、この人がお姉ちゃんって、どういうこと?」

 うん、もっとも過ぎるきょんの質問。意味が分からないよね、ごめんね、きょん。

 けど、こうなったら仕方がない。気が引けるけど、事情を説明して妹を巻き込もう!

 不本意だけど、ヒロが納得しないだろうしさー、なんて。

 ぐだぐだ言い訳しながら、それでもやっぱり妹に会えてめちゃめちゃ嬉しいお姉ちゃんなのでした。





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