第16話 彼女の母校


 私のもう一つの野望! それは!!

「学園祭に行きたいです!」

 ってか、行かせてください、マヂで。

「あ、もうそんな時期か」

「時期なんです! ………行っちゃダメ?」

 おねだりしちゃうぞー。お金、ないからね!

 …………そーなの、給料、間に合わなかったの。ヒロ、ごめん! 絶対、絶対、返すからぁー。

 なんて私の心を見透かしたように、ヒロは笑って頷いてくれた。

「いーぞ。ってか、そういう約束だった、だろ?」

「……………………うん」

 その約束をしたのは頼子だけどね。

 ヒロと私―依子の母校である故郷の高校の学園祭。

 そんなイベントなんか私もすっかり忘れてたんだけど、頼子の部屋にきょんと一緒に泊まった時、カレンダーに書かれていた赤丸で思い出したんだ。

 もー、急いでメモったよ。あのお守りの手帳に!

 ヒロは忘れてそーだったし。でも、絶対に行きたいイベントだったからねっ。ハズすわけにはいかないのだよっ!

「行かないなんて、できるわけないだろ。最後なんだもんな」

「なのですよ!」

 グッと拳を握ってコクコク頷く。今年の学園祭は特別なんだ!

 それに、気掛かりなこともあるし。できれば自然な形で会っておきたいだ。彼女に、ね。




 さぁて、そんなわけで! やってまいりましたよ! 学園祭!!

「きょ〜〜ん〜〜〜ちゃんっ!」

 お目当てのクラスを見つけ、そして私はお目当ての人物に抱きついた。

「ふわっ!? えっ? シャリエールさんっ?? 何で? って、ヒ、ヒロ兄までッ!?」

 慌てたような声を出すきょんをぐりぐり撫で倒す。

 ちゅーか、ミニスカメイド服!! 可愛いよ!! 学園祭、王道の喫茶店て! もう最高ッ!!

 これですよ、コレッ。ああ、愛しのマイスィーツ!!

 暴れるきょんを撫でながら私は感極まってため息を吐く。

「うあー、可愛い。いーやーさーれーるぅー」

「何ですかっ? 何なんですかっ!?」

 顔を真っ赤にして叫ぶきょん。それもまたご馳走よっ!

「変態か。きょんちゃん、ごめん。今、やめさせる」

「あ、ちょ、ヒロぉ、せっかくのチャンスがぁ」

 べりっとヒロが私をきょんから引き剥がす。

 をのれー、姉妹の仲を裂くとはー。

「きょんちゃんが明らかに嫌がってるだろ」

「だからイイんでしょうが」

「変態だ。やめとけ。嫌われるぞ」

「うっ、そんなことない! きょんちゃんは優しいもん!!」

 まだ不思議なものを見るような顔をしているきょんに、うるうるとした目を向ける。

「ねっ? キライになんてならないよねっ?」

「は、はぁ。いや、とゆーか、何で二人ともここに?」

「そりゃ、もちろん! きょんちゃんに会いに、だよー」

「えっ!?」

 驚くきょんに、にっこりと笑う。

「高校生活、最後の学園祭でしょ?」

 きょんは三年生だから、こうしたイベントは今年で最後になる。

 なのに、それどころじゃなくなっちゃったんじゃないかって。少し心配してたんだ。

 きょんは複雑そうに私を見て言った。

「休むわけにもいかないですから」

「うん。エライよ〜」

「そんな、褒められることでもありませんよ」

「いや、偉いよ。大学の推薦、もらえそうなんだろ?」

 何気ないように言ったヒロのそれに驚く。

「えっ!? そうなの? ってか、何でヒロが知ってるの??」

「おばさんに聞いた」

 だから、母よ!!

「ヒ、ヒロ兄、その、あんまり言わないで」

 困ったような恥ずかしそうな顔をするきょん。あ〜、可愛いっ。

 でも、そっか。進学についても一安心なんだ。よかったぁ。

 もともときょんは頭が良いからね、大丈夫だとは思ってたんだけど。

 というかね? お姉ちゃんと同じ高校に行ってみたかったとか! 姉冥利に尽きるよね!!

「にしても、メイド喫茶か」

「そんな見ないで〜、ヒロ兄〜」

「何で? 可愛いよ」

「えっ」

 って、ソコッ! 学園ラブコメまっしぐらな会話してるんじゃないよ!!

 いや、可愛いのは事実だけども!!

 いや、でもメイド服って攻撃力高いよね! そして流石のJK!! 勝てる気がまったくしないぜ!!

「おい? どうした?」

「エ、何でもないデスヨ?」

 おろおろっと視線を泳がせると、ヒロは不思議そうに首を傾げる。

「挙動不審だぞ?」

「そんなことナイデスヨッ!」

 きょんはそんな私達のやりとりを見つめ、それから「あ!」と可愛い声を上げた。

「二人ともお客さんだった! どうぞ、こちらへー」

 そして学校机を組み合わせたテーブルに案内される。

「オススメはワッフルセットです」

「じゃ、それ二つで!」

「ご注文うけたまわりましたー」

 オーダーをとって奥に引っ込むきょんの姿にニヤニヤが止まらない。

 あぁ〜、イイねぇ〜。うっとり見ていたら、むかいにいるヒロがぼそっと呟いた。

「怪しいぞ。しかも、めちゃくちゃ目立ってるし」

「ん! そこは無視で!!」

 そりゃ、この見た目だしね。見られちゃうのはいつものことだし。

 それに今はきょんを見守りたいのっ! ってゆーか、魔法とかの異変がないかチェックしとかないと。うん、大丈夫そうで安心。

 むしろ私が不用意に関わる方が危ないかも。これ以上、巻き込まないようにしなきゃ。

「なあ、お前、」

 ヒロが何かを言いかけたけど。

「お待ちどぉさまです〜」

 ワッフルを手にきょんがもどってきた。

 おおっ、なかなかに美味しそう! 紅茶とセットなのが良いね〜。

「いただきます」

 フォークで切り分けてパクリと一口。あ、ザラメ入りだぁ。

「美味しーい!」

 素直に感嘆すると、きょんが嬉しそうに笑ってくれた。

「お粗末さまです」

 やっぱり、きょんは笑っていてくれないと、だね。

 ヒロはきょんに頼子が事故にあった可能性をまだ伝えてない。ヒロ自身が事故を疑ってるからね。

 今はそれで良いと思ってる。決定的な証拠が見つかるまできょんは知らなくて良いって。

 私が絶対に頼子を見つけるからね。それまでは。

 微笑みながらきょんを見つめていたら、ヒロの視線を感じた。

「ん? 何?」

「いや、うん」

 何だか歯切れの悪いヒロの口調。このところ、ずっとこんな感じ。まあ仕方がないとは思うけどね。

 ………………寂しいけど、こればっかりはねー。

 ワッフルをパクつきながら、私は何でもないよーな顔でヒロに言う。

「美味しいよ? ヒロも楽しんだら? せっかくのJKメイド喫茶なんだし!」

「そう言われると楽しめないんだが」

「にゃにぃっ!? きょんちゃんのメイド服が萌えない、だとッ?」

「だから、そう言われるとな」

「可愛いのに! 超絶、可愛いのにっ!!」

「…………可愛いのは認めるが」

「でしょ、でしょーーー」

 ある意味で盛り上がっている私達にきょんが顔を赤くして叫ぶ。

「だ、か、ら!! そういうのを止めてくださいってばぁ〜〜〜」

 う〜ん、癒されるぅー。

 恥ずかしがるきょんを愛で倒し、私達は学園祭を満喫したのでした。







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