第40話 彼女のお葬式
雲一つない晴天。その、あまりに晴れやかすぎる空に思わず笑ってしまう。
なんだか頼子らしいなーって。
今日は飯田頼子の告別式だ。
他人のシャリエールが式に参列できるはずがないけど、一応ね。こうして式場近くで見守ってる。
にしても、私がこの世界に転移してきて、もう半年かぁ。長かったよーな、そうでもないような。
いや、長かった。頼子失踪に関わっていた人達にしてみれば、本当に大変な半年だったよね。私も含めて!
うん、でも、事件は解決したんだ。
まぁ……………頼子の死体発見っていう、最悪な結果で、だけど。
それも、事件を解決したのは、表向きは頼子の恋人のヒロと妹のきょんってことになってる。
っていうのも、私がシャリエールとして目覚めた時、驚いたことにきょんがいたんだ。ものすごーく心配そうなマリアさんに付き添われてね。
予定ではお寺で連絡を受けるだけのはずだったんだけど、どうしても自分で確認するって聞かなかったんだって。
青白い顔で頼子を確認して、カズタカさんが通報した警察にも対応して。きょんは人任せにしなかった。
そんなきょんをマリアさんとカズタカさんは気遣ってくれて、たくさんたくさん助けてくれた。
あと遥斗さんが、頼子が死ぬ原因になった、あの交通事故を起こした人にしかるべき処罰を受けさせるって約束してくれた。
それぞれが頼子の死に精一杯できることをしてくれて、今日がある。
――――って、実は私は何もしてないんだけどね!
ひたすら姿を隠して成り行きを見守るしかない、っていう体たらくでした。
遥斗さんやアンリさんはもちろん、きょんやヒロ、あの本多さんですら! 事後処理に追われていたというのにっ!! 情けないわぁー。
あー、でも、それも今日で落ち着くかな。
丘のベンチに座って、式場を見下ろす。ここからだと、ちょうど見えるんだ。
いやー、しかし生まれ変わる前の自分のお葬式を見るってなかなかにシュール。
何だか胸がいっぱいっていうか………………悲しいっていうか、申し訳ないっていうか。泣いてくれる人が、いっぱいいるから。
とくに、お父さんとお母さんが泣いているのを見るのは辛いなぁ。親不孝してごめんなさい。
二人には夢って形になっちゃったけど、頼子の姿でお別れした。
それぞれの胸で大泣きして、いっぱいお礼を言ってきた。夢だけど、お父さんとお母さんを慰めれたかな。だったらいいなぁ。
でも、きょんには拒否られちゃったんだよね。来なくていいって。
うー、寂しいぃぃぃ。きょん、一人で泣いたりしてないかな。
でもって、そんなきょんのフォローを、何故かアンリさんがしてるんだよね。
きょんったら、異世界対策課のバイトは続けるんだって。うわーん、疎外感ーーー!
でもきょんから「まだバイトするので、シャルさんとは無関係になりませんっ!」って言われちゃったから〜。許します!
式場を眺めながらきょんのことを思い出していたら。
「こんなとこにいたのか」
聞き慣れた声が聞こえた。
見れば、後ろにヒロがいた。あは、ヒロのスーツ姿なんて初めて見た。
「抜け出してきちゃダメでしょー」
「今、待機中だから」
そう言ってヒロは私の隣に腰を下ろす。
「……………おじさんとおばさん、本当にあれでいいのか?」
「うん。いいんだよ。夢でいっぱい話したし。それに混乱させちゃっても、悪いしさ」
私はもう飯田家とは接触しないってことになった。
厳密に言ったら、私の存在を気付かれちゃいけないってだけで、覗きにいったりはしていいらしいんだけど。
あと遥斗さんが夢で会えるようにしてくれてたりするんだけど。
それでも、今の私は東雲家の二女ですから。
あ、きょんは別枠。異世界対策課のバイトさんだし、私の友達だもん!
「そうか」
複雑そうな顔で頷いたヒロは、少し迷ったみたいにして、でも口を開く。
「シャル、その、な」
「うん?」
「…………………帰ってくるのか? 俺の部屋に」
あー、その件ね。そうだよねー、頼子の身体を発見してから私はマリアさんの所にいっぱなしだもん。
でも私の物はヒロのところに置きっぱなしだし、聞かれて当然。いい加減、はっきりさせとかなきゃね。
「もともと自立できるまでって約束だったし。それに頼子も見つかったし。
うん、だから―――――出ていくね」
「そうか。………………マリアさん達の所で暮らすのか?」
「しばらくは、そうするつもり」
バイトを辞めることになっちゃったのは痛いんだけど! 店長、ごめんなさーい。
「荷物はどうする? 取りにくるのか?」
「うん。ちゃんと引き取ります。
今までお世話になりました。ありがとうございますー」
「いや、礼なんかいいから。それに―――別に最後の別れってわけでもなし」
ヒロのその言葉がちくりと胸を刺す。
でも、もう決めたことだから。
「ね、ヒロは、頼子のことが好きだったよね?」
覗き込むようにして聞けば、ヒロはちょっとだけ顔をそらして、でもはっきりと答えてくれた。
「ああ。好きだった」
「――――うん。なら、いい」
ヒロは頼子が好きだった。
だったら、いいや。十分だよ。
「シャル?」
怪訝そうにこちらを見るヒロに笑う。ちゃんと笑えてるといいな。
「どうした? 何か―――――ぁ?」
あーあ、ヒロに魔法を使わないっていう約束、破っちゃった。でも、これが最後だから。
眠りに落ちたヒロをベンチに仰向けにする。
私の大好きな人。
最後まで、シャリエールとして伝えられなかった、この気持ちも。
これでお終い。
額に内緒の口づけをして。
「ヒロ―――――ばいばい」
意地っ張りな私は、聞こえもしない別れの言葉をヒロに告げた。
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