第23話 彼女の珍客
心機一転! バイトを頑張るぞー、なんて張り切ってお仕事に精を出してたんだけど。
このところ奇妙~な視線を感じるんだよねー。
いや、もう、あからさまに私を観察してますね? って人がいるの。
コンビニって常連さんがいるものだし、私の容姿は目立つから最初は気にしてなかったんだけど、あんまりにもじぃっと見てくるからこっちもその人のことを覚えちゃった。
見た目は普通の二十代後半くらいのお兄さんで、時間帯はちょうど仕事帰りってくらい。それも夕御飯を買って行くから一人暮らしの独身っぽい。
そんな人が、ただじっとこちらを見てくる。
私って悪役令嬢だったわけで、顔はまー綺麗なわけだ。………うん、まさかのラブロマンス、始まっちゃった? コンビニの女の人に恋しちゃう、あれですか?
いやいやいや、自意識過剰はよくないぞー。恥ずかしいし!
なーんて思ってたら。
「お疲れさまでーす」
「はーい、お疲れー」
って、コンビニを出たトコで。
「あのさ、君」
声をかけられたッ!? おぉう、待ち伏せなの、お兄さん?!
まさかの告白? いや、でもなんか雰囲気が違うよーな。
平静な顔をしながら内心じゃあパニックな私に、お兄さんは思い切ったような顔で話を続ける。
「君って………………魔法が使えるだろ? 違う?」
―――――――は? 何、言ってるの、このお兄さん。頭がおかしい人? 中二病??
フツーじゃないよ、うん。通常ならそうなんだけど………………残念ながら私も普通じゃないんだよね!
心当たりがありすぎる、というか、何でバレたっ!?
私があまりに変な顔をしていたんだろう、お兄さんが慌てたようにブンブンと手を振って言い訳をはじめた。
「俺は別に怪しいヤツじゃない! いきなりこんなことを聞くなんて変だってことも分かってる!!
けど君は本当に魔法が使える、異世界の人なんだろっ!? 違うのか?」
「…………変なことを言っているって自覚はあるんですよね? 何でそんなこと確かめようとするんです?」
思わず不用意なこと聞いちゃったけど、このお兄さん私が異世界人だって確信してる口ぶりだったんだもん。
バレてヤバくなりそうだったら気のせいって押し通すか、いざとなったら忘却の魔法で何とかしちゃおう! って考えてたんだけど、お兄さんは予想もしていなかったことを口にした。
「やっぱり君は異世界転移してきた人なんだな! だったら転移魔法とか使える?
俺は異世界で勇者やってたんだけど、あの世界にもどりたいんだ! なんとかならないか!!」
ふえっ!? 勇者?? で、異世界転移???? そして転移魔法って、え? これマジ?
思わずお兄さんをガン見しちゃう。でもお兄さんの顔は真剣そのものだ。
「本当に勇者なんだ! いきなりこっちの世界に連れ戻されたけど!!魔法も使えるし魔力を感じることもできる。
だから君のことも分かったんだ!」
成る程ー。でもお兄さん、異世界人には見えない。ごっつ日本人顔だよね。
「あ、もしかして、異世界転移勇者ってことですか?
もともとはこの世界の人で、でもって異世界に行って勇者になって、で、戻ってきたって話?」
「そう! それ!!」
ほうほう、だんだん話が分かってきたぞ。
でーもーねー? 勇者って! いや、勇者プリーズとも思ったよ? 思っちゃったけどさー。
今かよっ! って思っちゃうよね?
身勝手だとは分かっちゃーいるけども、だ!!
登場遅過ぎだよ! 今更だよ!! 何なの、もー。一段落ついたと思ったら、今度は勇者かよー。
なーんて感情がだだ漏れだったのか、お兄さんの顔が必死になる。
「いきなりこんなことを言われたって困るのは分かってる! でも俺はあの世界に帰りたいんだ!
いや、帰らなくちゃいけない!! だからお願いだ! 協力してくれ!!」
「いや、そんなこと言われても」
異世界転移の魔法なんて知らないし。
あてはなくもないけど―アンリさんに相談すればなんとかなるかもしれないけど―このお兄さんを信用していいのかも分からないし。
迷っている私にお兄さんはなおも言い募る。
「頼む! 君はヒロイン? どうやってこの世界に来たんだ? 事故??」
うーん、ぐいぐいくるお兄さんだなぁ。どうしよう、逃げた方がいいのかなぁ。
でも自称とはいえ勇者。しかもよーくよく気配を探ってみたら確かにこの人、魔力を持ってる。それに魔法とは違う強い力を感じるなー。
魔法で切り抜けるのは危ないかも。ここはシンプルにダッシュで逃げる! が一番かな?
ちゅーことで、いざ! お兄さんに突撃ー。
「って、えぇっ!?」
驚くお兄さんの脇をすり抜けて猛離脱だー!
よしっ!! このまま振り切るぞーっと思っていたら。
「ちょっ、待ってくれよ!」
追ってきますか、勇者様!! 逃げてるんですけどっ!?
逃げる女の子を追いかける勇者…………いるねっ! 普通に王道にいるねっ!
でもここは諦めてくれませんかーーーーッ! 私、悪役令嬢なんでーーーーーーッ!!
ってお兄さん、足早っ。ヤバッ! これ追いつかれる!!
早くも息がっ! 苦しーーーって時に。
「シャル! こっちだ!!」
聞き覚えのある声がして。そちらを見れば、公園の入り口でヒロが私を呼んでいた。
「ヒロっ!? 何で?」
「今は説明してる暇がないッ! とりあえずこっちに!!」
言われるままに私は公園に駆け込んだ。その私を追ってお兄さんも公園へ。
ヒロがお兄さんから隠すように前に立ってくれたから、私はヒロの背中にくっついて息を整えた。
「大丈夫か? アイツに何かされたか?」
私を庇って立っているから顔は見えないけど、心配そうなヒロの言葉に心から頷く。
「大丈夫。何にもされてない」
「本当だな?」
「うん。本当の本当」
「なら良い」
安心したようなヒロの声に思わずその背中に手を伸ばすけど、私は我慢してそれを引っ込めた。
ここで甘えたらダメだ。ヒロが身動きとりづらくなっちゃうしね。
それに、うん、本当に大丈夫。ヒロが来てくれたから、もう大丈夫。
勇者だろうと負けないぞー。私、ヒロインじゃないし! 勇者を助ける義理はない!!
庇ってくれる人の背中に、俄然強気になれる悪役令嬢なのでありました。
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