第12話 彼女の邂逅


 夕ご飯をいただいて、お風呂までもらって。布団の布かれた部屋へと案内される。

「おやすみ、ヒロ」

「………………ああ、おやすみ」

 別の部屋が用意されているというヒロに声をかけて襖を閉める。そして布団の上にぽすんと座り込んだ。

 疲れた。精神的に大ダメージだ。

 でも、ここで畳み掛けてくるのがヤツなんだよね。

 ふーっと息を吐いて気合いを入れると、私はすくっと立ち上がった。

 たぶんだけど、マリアさん達は邪魔をしないはず。気を付けなくちゃいけないのはむしろヒロだ。

 音をたてないように襖を開けて、そろそろと玄関まで行き、靴をさっと履く。

 さあ、行くぞ!

 玄関を素早く開けて音をたてないように閉める! よし、かなり静かに外に出ることに成功!!

 で、これからだよ。

 私は玉砂利の道を進み、お寺の外れ、昼間にちらっと見た楠木の前までやってきた。

 見た時も大きな木だとは思ったけど、こうして前にくるとその大きさ、その存在感の強さに気付く。

 しめ縄が太い幹にぐるりと回されていて、この木が特別だってことも分かるよ。

 この木の存在を知っていたから、マリアさんにあんな質問をできたってのがある。彼女が魔力を持っていた理由を推測できたから。

 もっとも、その推測は外れちゃったみたいだけど。

 でもこの木が、この場所が特別だっていう推測は、当たってたみたいだ。

 だから、深呼吸を一つして。

「聞こえてるんでしょ? ――――神サマ」

 私は呼び掛けた。

 しん、と静まり返った闇夜のなかに。

「直接、神を確認しようってところがまた、君らしいねー。その心意気、応えたくなっちゃうよ」

 あのふざけたような声が響く。

 やっぱりか!!

 楠木の前に現れたソイツを私は睨んだ。

「マリアさんやカズタカさんは、貴方の差し金なの?」

 するとヤツは実にもったいつけて言う。

「どうかなー? そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」

 どっちだ!! そう叫びたいのを我慢して、質問を重ねた。

「ヒロにまで何かするつもり?」

「どーだろーね? でも基本的には自然を愛する、心優しーい神なんだよ?

 あれ? 信じないって顔するの、何で?」

 当たり前だ、このクソ神め!!

「ヒロは巻き込まないで」

「巻き込んでいるのは君だよ?」

 鋭い指摘に思わず唇を噛む。

「うーん、でも直接コンタクトをとってくるその勇気に免じて、ほんの少しだけ君にヒントをあげよう。

 言ったよね? 君の前世、頼子の死は自然の流れだった、って。でも転生したのは、たまたまの偶然じゃあないんだよ。

 君は、正真正銘、神に見定められた魂だ。では、君の魂は何故、神の目に止まることになったと思う?」

 私の魂が神サマに目をつけられた理由? そんなの、たまたまじゃないの?

 頼子の死は自然なことだったならば。まさか。

「頼子が死んだ後、通常だったら起こりえないことが起きた?」

 だから、神と名乗るこの存在が動いた?

「ふふっ、君は本当は賢い子だよね。ちゃんと、してはいけないことと、すべきことを分かっている」

 不意にその存在が揺らいだ。

「あー、やっぱりそう長くは顕現していられないかー。狭間とはいえ、管理者が黙っちゃいないだろうし」

 そしてヤツはひらひらと手を振った。

「今日はここまで。じゃー、この世界では頑張るんだよ? 神の愛し子」

 そして瞬く間にそれは掻き消えてしまった。

 あとはただ、楠木の梢が揺れる音がするばかり。

 私はきつく手を握った。

 やっぱり頼子はあの日、確かに死んだんだ。だけど、その死はまるごと―痕跡さえも―ないことになっている。

 ただ、頼子だけが見つからない。どうやっても。

 そんなことができる力を、私は一つだけ知っている。

「―――――魔法、だ」

 頼子が死んだ後、あの場所で何かが起こった。だから頼子は見つからず、頼子の魂は転生した。

 そして私はその頼子の魂を継いだ悪役令嬢。

 私のすべきことって何?

 闇夜のなか、私はただ楠木を見つめていた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る