第29話 彼女の馴れ初め


 スーパー銭湯を堪能して帰ってきた私達は、今はアンリさんのお部屋におります。

 いやー、きょんをヒロの部屋に泊めてもよかったんだけど、話し合いの結果、女子三人でのお泊まり会となったってわけ。

 ヒロが分かりやすくほっとしてた。やっぱり若い子には気ぃ使うもんねー。

 アンリさんはアンリさんで「いつでもシャルちゃんがこっちで暮らせるようにしてたから大丈夫〜」って、お布団とか本当に用意してくれてあるし! 感謝しきりだよっ!

 シャリエールの現代人生は、東雲家の多大なるご支援により成り立っております!

 リビングに敷かれたお布団で持ち込んだ枕を抱いて、きょんの隣に座り込む。

 アンリさんが温かい紅茶を淹れてくれて、きょんもずいぶんリラックスしてるみたい。って、ところにですよ。

「さー、じゃあコイバナでもしよっかー」

 だから、アンリさん! 垣根飛び越し過ぎですからー!!

「何故ですか、お姉様!!」

「女子が集まった時のお約束でしょ」

「いやいやいや、メンバーを考えましょー」

「え、しようよ。したいよ。お姉さん、聞きたいのー」

「……………ちなみに、アンリさんに恋人は?」

「いると思うの、シャルちゃん?」

「あ、ハイ、いませんよね」

 分かっちゃうところがっ! 申し訳ないっ!!

 だって四六時中、私達と一緒にいるんだもん。それも半分仕事のよーなもの。プライベートに使える時間なんかないですよねー。

「分かってるなら聞かないの!

 でもってね!! 私が聞きたいのはー、もちろんシャルちゃんと弘一君の仲なのよ? ぶっちゃけ、二人って恋人なの?」

 うーあー、やっぱりかぁ。それ、聞きたがってるのは察してたー。

 ああー、はぐらかしておきたかったのにぃ。

 興味津々なアンリさんだけど、予想外にも隣からのきょんの視線が! 熱い!!

「う、あ、その〜〜〜〜、友達以上恋人未満? な、関係デスヨ」

「え。本当? 同棲してるのに?」

 だよね、そう思うよね! でも事実!!

 恋人じゃないのよ、シャリエールとヒロは!!

 と、そこにきょんがおずおずというように口を挟んだ。

「あの、聞いていいですか?」

「う? うん。えと何かな?」

「シャリエールさんはお姉ちゃんの生まれ変わり、なんですよね?

 だったら、その、お姉ちゃんとヒロ兄の馴れ初めとか、知ってます?」

 え? きょんがそれを聞いてくるなんて意外というか。そもそも生まれ変わりなんて信じてないかと思ってたからさ。

 でも、きょんの目は真剣だ。

「ええとー、高校生の時の同級生で、ってきょんちゃんはさすがにそれは分かってるよね! でー、頼子はパソコン部でヒロは文芸部だったんだけど」

「あ、はい、知ってます。お姉ちゃん、パソコン部でしたけど、だいたいパソコンで怪しげなイラスト描いてて」

「って、ストーーップ! きょんちゃん、それ以上は言わないっ!!」

「…………ああ! そゆことね!」

 ぐっはぁぁぁぁぁっ! アンリさんにバレた! ってゆーか、怪しげって、ドコで見たのきょん!

 それは、アレだよ!? 残らず処分してぇぇぇぇっ!!!! なシロモノよっ!?

「あ、もしかして、それで弘一君と知り合いだった、とか?」

「ご、ご明察です」

 まー、あれだよ、ヒロ達の部誌にイラストつけたりとかね、してたのさ。って、これはヒロの黒歴史でもあるわー。

「ほうほう、それで? どうして付き合うことになったの?」

「あの、どっちが先に好きになったんでしょう? お姉ちゃん、詳しく教えてくれなかったし、気になっちゃって」

 んあぁぁぁっ! 二人共!! そんな期待の眼差し向けないでっ!

 いや、頼子の過去ですけどね!?

 うーあー、アンリさんが超面白がってるぅ。でもって、きょんが予想外に食い付いてきてるー!

「たぶん、好きになったのは、頼子の方がさき、かな?」

「そうなの!?」

「そう、だったんですかぁ」

 あああああああ、ド恥ずかしいっ!

 前世の恋を語らなくちゃいけないとか、何このシチュエーション!?

「え、え、どこ? 弘一君のどこに惚れたの?」

「告白したのも、お姉ちゃんからなんですか!?」

 えぇい、もう! 前世のことだしね!? ヤケだーーー!

「その〜〜、一年生の時の学園祭でね、初めてヒロと長く一緒にいたわけですよ」

「あー、部活の関係でね。成る程。一緒に作業したりすると距離近くなるよね〜」

「で、お昼をヒロが買い出しに行ってくれて」

「そーゆーとこ、ヒロ兄らしいですね。でっ?」

「何かタイミング悪くて、私が一番最後にお弁当もらいに行ったんだけど、どうも割り箸が人数分なかったみたいで」

「それはお姉ちゃんらしいです」

「分かる! でもって、言いにくいよね〜、そういう時って」

「んで、困ってたら、ヒロがおもむろに自分が使ってた箸を」

「「箸をっ!?」」

「真っ二つに折って、渡してくれたの」

 ああ、今でも思い出せる………………ベキッてへし折った箸を「ん。折った方、口つけるなよ。危ないから」って手渡してきたヒロを。

「ソコっ!? そこなの、惚れたポイントっ!?」

「ご、豪快というか、ヒロ兄………」

 私もね、どうかと思うよ? でもキュンときちゃったんだもん!!

「そこに惚れましたー。

 そっからは片思いで。二年生の冬休み前に告白して、そしたらオーケーしてくれて。そこから付き合うことになったんだよね」

「え? あの〜、でもあの時の冬休みって、お姉ちゃんイベント参加してて忙しくしてたような?」

「あー、うん。告白してすぐだったけど、誘ったら来てくれるって言うから手伝ってもらっちゃった」

「安定のオタップル!! むしろ弘一君に聞きたいっ! どこがオーケーだったのか!!」

「ごもっともー」

 いやー、冬のイベントに付き合ってって意味で受け取られちゃったらどーしようかとヒヤヒヤしたけど! ちゃんと恋人だって認識してくれてて安心したなー。

「ああ、もう! なんかお姉ちゃんとヒロ兄らし過ぎて、納得です!」

 うん、きょんが納得してくれてよかったよー。

 でも、それも全部『頼子の思い出』だからねー。

「そうしてみると、本当に家族みたいだったんだねぇ、弘一君と頼子ちゃんは」

「ですねー。一緒にいるのが居心地よくって。ヒロが大学にいってからも、なんだかんだでしょっちゅうヒロの部屋に入り浸ってたんですよねー」

「私も、たぶんお母さん達も、お姉ちゃんとヒロ兄は結婚するんだって、そう思ってましたもん」

 それがね、まさか、こんなことになるとは。

「うーん、でもさー、今一緒にいるのはシャルちゃんなわけじゃない? 自分が恋人だって思っちゃってもいいんじゃないの?」

 おっと、アンリさん、そこを言っちゃいますか。

 思わず苦笑いしてしまう。

「ヒロの恋人は頼子です。ヒロは今でも頼子のことが好きなんだと思います」

 シャリエールは、ヒロの恋人じゃない。ヒロが好きなのは、あくまで頼子だ。

「複雑だね」

 アンリさんが眉間にシワをよせ、きょんなんか悲しそうに顔を歪ませてしまう。

「でも!! それって、幸せなことだって、そう思うんです」

 ヒロは本当に本当に頼子のことを大切に想っている。それが分かるから。

 これは幸せなことなんだ、きっと。

 と、アンリさんがガバッと私を抱き締めた。

「シャルちゃん! 絶対に、絶対に、私が守るからね!!」

 おおぅ、気持ち良い感触が顔面にっ! って、あれ? 後ろからも、そっと寄り添う温かさが。え? きょん??

「お姉ちゃんのこととシャリエールさんのこと、まだちゃんと受け入れられてませんけど……………それでも、協力するって、言いましたからね?」

 どうしよ、なんか、泣きそう。

 って、泣いていいのかー。だって、この二人に挟まれてるんだもん。

「ありがとー」

 涙声で呟いた私を、二人は優しく包んでくれて。

 あー、やっぱり、ザマァなんかしなくてよかったなー、なんて思ってしまった転生悪役令嬢でした。







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