第34話 彼女の祖父


 そんなわけで、異世界対策課の課長さんとアンリさんに車に乗せられて、マリアさん達の暮らすあの町―つまり頼子が事故にあった町―にやってきたわけだけど。

 見覚えのある公園の駐車場で、車から降りた時には、私とヒロはヨロッヨロになってた。もー、精神的にっ。

「ッ、死ぬ、かと、思ったッ!」

 思わず呻いちゃうよ。もうね、荒いってもんじゃなかった。

 いや、危険ってわけじゃ……………運転はね、完璧で超上手いんだけど。いかんせんスピードがッ!

 課長さん涼しい顔して、とんでもないスピード狂ですね!?

「大丈夫ー?」

 アンリさんが心配そうに聞いてきた。

「ア、アンリさんは、平気そうですね?」

「慣れてるからねー」

 慣れてる…………あれに?

 そういえばアンリさんもスピード狂だったよーな? 感覚が違うんでしょーか。

 遠い目をしてしまった私に、しかし課長さんは容赦がない。

「あまり時間はない。急ぐぞ」

 休むなってことですねー。でも、このまま行くんですか? 徒歩圏内なの?

 なーんて思ってたら。

「もぉぉぉぉっ! せっかちなんだから〜〜〜〜」

 予想外の人の声が聞こえた。

 え? マリアさん? でもって、課長さんは明らかに顔をしかめたよね? 何で?

 そんな私達のところへマリアさんが走ってくる。

 にしてもマリアさん、割烹着につっかけって 、まるで台所から急いで走ってきたみたいな格好ですね?

「アンリったらぁ、シャルちゃん達がこっちに来るなら連絡ちょうだいって言ったのにぃ」

 咎めるマリアさんにアンリさんは口を尖らせる。

「そんなの、そこの人に言ってよ! 連絡できる状況じゃなかったの、察して!」

 あー、確かにけっこう急というか。まぁ突然ではあったよね。

 でも、何でマリアさんが駆けつけてくるんだろ? 心配してくれたのかなぁ?

 するとマリアさんはにっこりと微笑んで、何故か課長さんを見た。

「もちろん一緒だったのは知ってます。だから来たの。

 でないと、私達のところなんてスルーする気でしょ? ね、お父さん?」

「………………マリア」

 は………い………………? マリアさん、今、何て言いました? お父さん? え? 夫ってこと? あれっ? じゃあカズタカさんは?

「すみません、お父さん。僕が不甲斐ないばかりに」

 うわっ、カズタカさんも来てたんだ!? んでもって、何を言っているのか理解不能デスヨ?

「和孝、いや、お前のせいではない。というかだな」

 ものすっごい苦い顔をする課長さん。

 んんっ? おとうさん?? カズタカさんのお父さん、ってこと?

 この綺麗ーっな顔の課長さんが????

「すみませんがっ!! この人は、東雲家の一体何なんですかっ!?」

 固まっちゃった私に代わって、ヒロが叫んでくれた。ありがとう、ヒロ!

 それにマリアさんがけろっと何でもないような顔をして答える。

「何って、私の父親よ? 私がハーフだって、話してあったと思ったけど?」

 は? はいぃぃぃぃぃぃぃっ!?

 いや、これはハーフとかって以前の話ですよね!?

「いやー、いつ見てもお若いですよね、お義父さん」

 カズタカさん? お義父さん、ですか? いや、若く見えるにしても限度がありますよねっ!?

「ほんと困るよね、この若作り! 実際にお祖父ちゃんなのに、ジジイ呼びすると周りに非難されるんだもん」

「だから、課長と呼べと」

 ア、アンリさん、アンリさん、アンリさんっ! お祖父ちゃんって!!

 マジですかー! もう目ぇ、まん丸にするしかないんですが!!

 そんな私に若干弱ったような、今までとはまるで違った顔でため息を吐き、課長さんが言った。

「名乗り遅れたことは謝ろう。すまん。私は東雲遥斗。お前の祖父だ、小娘」

 え? え? あ! そゆことになるのか!!

「あ、いえ、こちらこそ、お世話になってます?」

 ……………いやいやいやいや! 何か変。絶対に変!!!!

 でも、どこからツッコンだらいいのーっ!?

「混乱するだろうから、全てが片付いた後で教えようと思っていたんだが」

「えぇー! シャルちゃんとヒロ君なら大丈夫よぉ。お父さんは慎重になりすぎ」

「お前達が楽観的すぎるんだ。いつまでも守ってやれるわけじゃないんだぞ」

「すみません、お義父さん。僕がもっとしっかりすべきでした」

「だから、和孝の所為ではないと言っているだろうに」

 あ、ハイ、良いお祖父ちゃんなんですね。それはなんとなく分かりましたよ。

 もう、どうしたらいいのか分からず、唖然としっぱなしの私にアンリさんが囁いた。

「ごめんね? こんな変な家族で」

「いえいえいえ! お世話になりっぱなしだし!! びっくりですけど、理由がありそうですしっ!?」

「だがそれを説明している暇はない」

 きっぱりとお祖父ちゃん、ってすごい違和感があるっ!!

 遥斗さんでいこう! 遥斗さんが言った。説明ナッシングですかー。

 でも遥斗さん、さっき後回しにしようとしてたって言ってたしなぁ。複雑なんだろーな、うん。

 絶対そうだろうなぁぁぁぁぁぁっ!!

「ともかく、一刻も早く結界を破る。アンリは現場。マリアは待機。和孝は後から来る者の補佐。頼むぞ」

 てきぱきと指示を出す遥斗さんは、最後に私達を見た。

「では小娘、行くぞ」

「は、はい!」

「――――小僧も、だ」

「ッ、ハイッ!」

 鋭い遥斗さんの瞳に、ふとクソ神様の言葉が頭に浮かんだ。


 ――あと、もう少し。


 試練は、きっとこれからだ。







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