4章 20話 決勝戦
『レジェンドヒーローTCG 1DAYトーナメント IN SPRING』、ついにゴールドクラスの決勝戦です! プロ、アマチュア入り乱れて戦ったこの大会、なんと、前回のプロ昇格試験大会と同じ組み合わせ! さぁ、登場していただきましょう! 前回の勝者、来期から新設プロチーム『真田丸』のメンバーになるマッキー選手! そして前回の雪辱を果たすことができるのか、ジェット選手!」
拍手と歓声が浴びながら、俺達二人がステージに上がる。ステージ上ではイルミネーションが輝き、スポットライトに照らされている。
派手な演出だなー。お金どれくらい掛かってるんだろう。ああ、でもスポンサーが『SANAGAMES』なんだっけ。そりゃ派手にもなるかー。
ステージの上に立ちながら、まるで他人事のようにそんな事を思っていた。
本来なら緊張してガチガチになっていてもおかしくは無いんだが、さっきまでのなんやかんやのせいで、緊張感が迷子になっていた。
「ジェット選手。前回負けた相手との対戦ですが、今の率直なお気持ちをお聞かせ願えますか?」
「あー……がんばります」
司会の女の人に軽くインタビューをされたが、気の抜けた答えしか言えなかった。
「……はい、緊張されているようですが。続いてマッキー選手。今のお気持ちは?」
だが、俺の簡素なコメントを都合よく解釈してくれた。正直助かる。
「ええ。彼には、今回も絶対に負けません」
「はい、力強いコメント、ありがとうございます!」
どういうわけかマッキーは前回よりもさらに闘志を燃やしている気がする。不思議だなぁ。
そんな調子だったが、席に着き、デッキをシャッフルして先攻後攻を決め、ウォールをセットして対戦準備が整う頃には、いつもの調子を取り戻していた。
条件反射というやつかもしれない。何千、何万回と繰り返してきたことだから、体が戦いの準備を始めたら、勝手に心も付いてきたんだろう。
ここまで……決勝まで来たのはまだ2回目だ。前回も、あと一歩まで来ることはできた。でも、この男に阻まれた。俺は勝てるだろうか? この少年に。最強のライバルに。
いや、そんな弱気じゃいけないな。
ぶんぶん首を振る。そして、バチンッ! と両頬を叩く。よし、これで弱気な心は去った。
きずなさんに貰った諦めない心を胸に。絢子さんに貰ったおまじないを心に。
俺は……絶対に、勝ってやる!
「決勝戦……開始してください!」
「「よろしくお願いします!」」
戦いの火蓋は、切って落とされた。
「俺は……《スペルクイーン》を出して、エンド!」
「《神の賢将》を出します!」
「《夢占い師》で、手札のカードを1枚捨てて、2ドローする!」
「《白の竜王》を出して、3枚手札を捨てます! 《神の賢将》の効果で、捨札から《ゴールドエレファント》を復活させます! 終了時に、3ドロー!」
お互い、理想的と言っていい立ち上がりだ。俺はコンボを揃えるためにユニットを出しながらも手札はできるだけ温存し、マッキーは『白神コンボ』を揃えて盤面を整えて来た。
「《リュウジン》を出してターン終了!」
ここまではお互いに盤面にユニットを並べるだけだったが、先に動いたのはマッキーだった。
「《神の賢将》の効果で、《イエローシーフ》を復活させて、手札を1枚捨ててください! さらに《魔王 ダークヴァイオレンス》を出します! 自身と《イエローシーフ》に『速攻』を付与! ウォールに攻撃!」
終了時に自身のウォールを破壊するというデメリットはあるが、《ダークヴァイオレンス》の効果で一気に攻勢をかけてきた。以前とは違い、俺のデッキ内容がばれているからな。長期戦にするよりも、短期決戦を仕掛けてきた方がいいと考えたんだろう。
ならば!
「クイック召喚! 《夢占い師》を捨札に置いて、《雷鳴の魔術師》!」
ヒナタさんとの対戦で切り札となった《雷鳴の魔術師》を、早くも使う。
真田さんにはデッキレシピを把握されたが、マッキーはそれを見ていない。今までフリープレイでこのカードを使った事が無いし、ヒナタさんとの対戦を見ていないマッキーには、このカードは予想外のはずだ!
だが、マッキーは顔色を変えない。真剣な顔で、ただただ俺の山札の上を見ているだけだ。
「(俺なら、このカードを使うかもしれないと思っていたってことか?)」
プロですら驚いたというのに、まったく恐ろしい相手だ。俺も顔色を変えず、山札を捲る。
「スペルは……2枚! 《ダークヴァイオレンスと》と《神の賢将》に、それぞれ2000ダメージ!」
「……死亡します」
よし! ここで2枚は運がいいぞ! こちらも切り札を1枚切ってしまったとは言え、コンボパーツと主力ユニットの1枚を倒すことができた。《イエローシーフ》の攻撃は通さざるを得ないのでウォールの枚数はお互い痛みわけに終わったが、こちらの方が有利だ。
「《リュウジン》でアタック!」
「《ゴールドエレファント》でブロック!」
「《雷神 ソーフェイ》を出して、終了!」
《ソーフェイ》は低コストユニットじゃブロックできない。このままだと一方的にウォールを破壊できるが、さすがにそううまくはいかなかった。
「《天下無双 ブラックナイト》を出します。手札を1枚捨てて、『速攻』を得て《リュウジン》にアタック!」
「《スペルクイーン》でブロック! 死亡時に《ライオンハート》を捨札から回収する!」
「デュアルアタック! もう一度、《リュウジン》にアタック!」
「……死亡だ」
俺の高コストと、ブロッカーが取られてしまう。返しでアタックしたいところだが、《ソーフェイ》より《ブラックナイトの方がパワーが高いから、攻撃し辛いんだよな……。ここは温存するか。返しに《ライオンハート》コンボで全滅して、一気にウォールを削ってやる!
「《夢占い師》をもう一度出して、終了だ」
「1コストスペル《妨害の罠》。手札の《シルバーレオン》を捨ててください」
「くっ」
しまった。こちらの手札に《ライオンハート》コンボが揃っているのを知っていたかのように的確に、俺の相棒を落としてきた。スペルを回収する術はあるが、ユニットを回収する方法は緑には無い。《ライオンハート》だけあっても無用の長物だからな。さすが、わかってやがる。
「《篭絡の計》! 《ブラックナイト》の攻撃を、《ソーフェイ》でブロックしてください!」
ちくしょう。こちらにバトルでユニットのパワーをアップさせるスペルがあまり入っていないのを知っているから、マナを起こしておいてもブラフにならないんだよな。
ここで大型ユニットを取られてしまい、さらに低コスト達も一気にウォールを攻撃してくる。《シルバーレオン》が手札に無いから、返しの心配をしなくていいからな……これでマッキーの方が、盤面が圧倒的に有利になってしまった。
このままだと、数ターン以内に負けてしまうぞ。
ちくしょう。ああ、ちくしょう。
……ああ、楽しいな、ちくしょう!!
思わず笑い出しそうになる。
ピリピリと張り詰めるような空気。一進一退の攻防。お互いの思考と思考、戦略と戦略のぶつかり合い。
こんなの、楽しくないわけがない! これだからカードゲームは辞められない!
よく見るとマッキーも、顔は変わらずだが唇の端が少し上がっている。
こいつも俺と同じ、カードゲーマーだ。俺と同じ気持ちなんだろう。そして、目だけで語っている。
「(この盤面、返せますか?)」
そんな、挑発的な目だ。……上等だぁぁぁぁ!!!
「(来い、来い、来い!!)」
右手に魂を込めて、俺は呼び寄せる!
「ドロー!」
手に持った瞬間に分かったぜ。いくぜ相棒!
「《シルバーレオン》を出して、《ライオンハート》を使用! 《ブラックナイト》に攻撃!」
会場がどよめている。そりゃ、さっき手札を公開した時は無かったからな。完全なトップ引き。トップ解決だ。
でも、それでも。マッキーは動揺しない。俺がトップから最適解を持ってきても。
お互いに手札をほとんど使い果たし、盤面を空にされても。まるで分かっていたかのように自然だ。
「ブラックナイトを出して、手札を捨ててウォールに攻撃! 2点ダメージ!」
「っ!」
《シルバーレオン》を放置してウォールを詰めてきやがった!
二体のパワーは同じ。だが自身のウォールを犠牲にすればさらにパワーを上げて《シルバーレオン》を倒す事ができるのに、そうしなかった。
つまり、返しのターンに俺が《ライオンハート》を引けないと読んだということか! 舐めやがって!
「ドロー!」
さすがに2ターン連続トップ解決は無かった。ちくしょうめ。
「《シルバーレオン》で《ブラックナイト》に攻撃して、相打ち! 《青龍の武神》を出して、終了」
「《ダークヴァイオレンス》を出して、終わります」
ここから先は、戦略なんて無い。お互いに腰まで沼に浸かった状態でインファイトするかのような、泥試合だ。お互いに手札もほぼ無い。トップから引いたカードで勝負だ。
お互いに攻撃し、ブロックし、通し……10分以上、そんなドロドロの戦いをし、気づけば、お互いにウォールは0。俺もマッキーも、一歩も引かない。殴ったら、殴り返す。お互いに、勝ちを譲る気なんてない。勝利を諦めるつもりなんて……微塵も無い!
「《ブラックナイト》で、手札1枚を捨てて、攻撃!」
「ブロック!」
ここで3枚目の《ブラックナイト》だ。放置しておけば、確実にジリ貧になる。頼む、ここで逆転のカードを……! 気合を込めて引いたカードは……《星詠み人》。宣言した数字と同じコストのカードが山札の上4枚の中にあれば、1枚手札に加えられるカード。
はたと気づいて、驚いた。この状況……前とまったく同じだ。
マナに置いたカードと、捨札に置かれたカードを確認する。
残り山札は10枚。5と宣言すれば、高確率で延命できる。でも、7と宣言すれば、非常に低い確率だが、1枚だけ眠っている《シルバーレオン》を引いて勝利する事ができる。
どっちだ。5か。7か。
あの時は、安全策をとって5を選んだ。あの時の選択は、確率による計算の結果だ。決して間違っていたわけではない。でも。勝ちに行く選択肢では無かった。
…………。
「……迷うまでも無いな!」
俺はもう絶対に、勝利を諦めない。
きずなさん。絢子さん。二人から貰った物が、俺に勇気をくれる。
これは……この気持ちだけは、絶対に、誰にも破壊されたりしない!
たとえどんな低確率だろうと……負けたりしねぇぇぇぇぇ!!!
「《星詠み人》を出して、宣言は……7だ!」
山札を、慎重に4枚落とす。果たして、その中に……。
…………。
「わああああああああああああああああああああああああ!!」
観客から、歓声が上がる。
マッキーは、そのカードを見て、黙ってうなずく。
「初めて戦った時、ジェットさんは一人で戦っていました。でも、今日対戦したジェットさんの後ろには、ずっとあの2人の影が見えていた気がします。まるで、3対1の戦いでした。……強いはずですよ」
そう言って、立ち上がって、手を差し出してきた。
「……おめでとうございます。ジェットさん」
「……ああ。ありがとう。マッキー」
まだ中学生のマッキーの小さな手を握る。こいつは、まだまだ成長途中だからな。きっと、俺達の誰よりも早いスピードで成長する。次会った時、一気に俺を追い越しているかもしれない。でも。
「……次は、プロの舞台で」
「……ええ。プロの舞台で」
俺達は、また再戦の約束をした。3度目も、負けないつもりだけどな。
「……優勝は、ジェット選手! 並居るプロ達をなぎ倒し、ランク7のジェット選手が、マッキー選手にリベンジ成功! 見事優勝に輝きました!!」
盛大なファンファーレをバックに、スポットライトを浴び、大きな拍手を受け、ステージの中央に立ち、右腕を掲げる。ついに……やった!
感極まって、今にも泣きそうだ。それもこれも、全部きずなさんが俺を救ってくれたおかげだ。彼女が俺を拾ってくれて、一緒に頑張ってくれたおかげだ。
ああ、今すぐきずなさんに会いたい。そして、思いっきり感謝の言葉を伝えたい。
「翔太くうううん!!!」
ガバッ!!
「ちょ、きずなさん!?」
そんな事を考えていたら、観客席から俺達の試合を見ていたきずなさんの方から、ステージに上がって飛び掛かって来た。
「良かったね……! ほんとに、よがったねぇぇぇっぇうぇえええええん!!!」
「え、ええ。全部、きずなさんのおかげです。……あの、でもここではちょっとまずいって言うか」
「びええええええええええん!!!!」
あ、これダメだ聞こえてないやつだ。
「はいお嬢様。ハンカチでございます」
ステージ上でボロボロ大泣きするきずなさんに、彼女を追って同じくステージ上に上がって来た絢子さんがスッとハンカチを差し出す。さすがメイドだ。お嬢様がいる所にはどこにでも現れるんだなぁ。
……じゃないよ! いくらなんでもステージまで上がってくるヤツがいるか!
「あの、お二人は一体どのようなご関係なのですか?」
突然飛びついてきたお姉さんと謎のメイドさんに会場中の注目が集まる。ここは俺がビシッとフォローしないといけない場面だ。そうじゃないと、色々まずい気がする。
「えっと、二人は家族で……」
「婚約者(仮)です」
「2度もキスした仲でございます」
だが、二人ともそんな俺のフォローを完全に無にする爆弾を放り投げた。会場が重苦しい空気に包まれた。なんか、人口密度の割に会場がいきなり寒くなった気がするなぁ。
「えーはい、リア充爆発しろって感じの優勝したジェット選手、おめでとござましたー」
司会者が、ひどく投げやりに締めた。
ぱちぱち……。なぜか観客からの拍手がまばらになった。
「続いてマッキー選手。今のお気持ちは?」
「……みなさんのご期待に沿えず申し訳ございません。3度目は、僕が勝ちます」
うぉおおおおおお!ぱちぱちぱちぱちぱち!!!!
「はい、本当に、本当に残念でした! 次回は勝って欲しいものですね!」
いやぁ、プロは人気だなぁ。やっぱり俺なんてモブとは違うなぁ。あはははははは。
「……ぐすん」
せっかく優勝したというのに、会場の空気が俺に冷たすぎて凍傷になりそうだ。そんな俺を慰めようと、よしよし、と二人が頭を撫でてくれたが、あんたらのせいだからな。
俺のプロ入りを賭けた、初めての1DAYトーナメント。結果は、きずなさんも俺も優勝し、目標達成。
その結果、きずなさんはランク0から2に。俺はランク7から9にランクアップしたのだった。
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