2章 4話 薄い本は18歳になってから

 「本日の優勝者はジェットさんです。おめでとうございます!」


 中二病の生意気なイキリキッズこと、黒衣の剣聖を倒した後は特に何事も無く4連勝し、そのまま公認大会で優勝した。

 ちなみに黒衣の剣聖君は俺に負けた後、ふてくされた顔をしてドロップの申告もせずどこかに消えて行った。


 「やるじゃん。よっ! さすジェット! ところで優勝PR使わないだろ? ちょうだいー」


 「お前、今日の公認で俺をぶちのめすんじゃなかったか?」


 呆れながらも、俺は優勝PRをよっぴーにあげた。コイツは俺と決勝で当たる前に他の人に負けていたので大会中に当たる事は無かったのだった。


 「いやー今日はデッキの回りが悪かったわー。……そういやお前が送ってきた大量のカード、どうするよ。うちに取りに来るかー?」


 今手持ちのカードはデッキだけで、他のカードと入れ替える事もできない。

 それに、デッキが一つだけだと家にいる時に一人回しをする事もできないから、受け取っておきたい。

 とは言え、よっぴーの家に送ったカードはダンボール3つ分ぐらいあるから、簡単にとりに行く事もできない。


 「悪いけど送ってくんね? 住所は……」


 そう言いかけた所で、今住んでいる場所、すなわちきずなさんの家の住所を知らない事に気づいた。どうしたものかと思ったが。


 「翔太さん。見つけたでございます」


 喋りながらカードショップを出たところに、絢子さんとばったり再会した。


 「絢子さん。ちょうどよかった。きずなさんの家の住所を……」


 「翔太。この中学生っぽい美少女メイドさんはどなたごふぉぉ!?」


 絢子さんに住所を聞こうとした所で、よっぴーが余計な事を言って彼女の見えないレベルの超速の蹴りに吹っ飛ばされた。

 一瞬、スカートの中身が見えた気がしたが、何色かまでは確認できなかった。ちくしょう。


 「誰が中学生でございますか」


 顔はいつもの通り無表情だったが、声が露骨に不機嫌そうだった。まぁ、年齢を間違えられたなら仕方ない。


 「そうだぞ。絢子さんはこう見えて小学生なんだごふぁ!?」


 なぜか俺も彼女の蹴りを食らい、吹っ飛ばされてよっぴーと仲良く道路に倒れた。


 「翔太……見えたー?」


 「……白だった」


 俺達は横になりながらぐっと親指を立てた。


 「小学生でもございません。絢子はピチピチの18歳でございます」


 ピチピチって最近聞かないよなー……。

 ってえ?


 「ええ!? 絢子さん同い年!?」


 余りのことに、思わず起き上がって叫んでしまった。


 「そうでございますが、何か問題でも?」


 見えねぇぇぇ! と心から言いたかったのだが、絢子さんのギロッと光る眼を見て、もうちょっとで口から出そうになった言葉を何とか飲み込んだ。


 「い、いえ! 合法なので俺的にはむしろアリです! 連絡先交換しません?」


 だがなぜかよっぴーはむしろ喜んで彼女をナンパし始めて、絢子さんに虫を見るような目で見られていた。


 「翔太さん。この不審者は何者でございますか」


 「吉田春斗。通称よっぴー。一応俺の友人です。あとロリコンです」


 「くたばりやがれでございます」


 相も変わらずの無表情だったのだが、目だけでも十分に伝わるほどの嫌悪感を示していて、ペッと地面に唾を吐いた。


 「ああっ!!」


 それを見たよっぴーは四つん這いになって地面に張り付いた。

 そして、絢子さんの顔を見上げると、


 「これ、舐めていいですか?」


 まっすぐに目をキラキラさせて尋ねた。

 あまりの事に絢子さんはフラフラとして俺に寄りかかり、俺の服の袖をつかむと、


 「……翔太さん。絢子は、今まで空手の全国大会優勝者や、熊や虎と対峙したことがありますが……かつてこれほどまでに恐怖を抱いたことはないのでございます。警察を呼ぶべきでございましょうか」


 マジでブルブルと震えていた。俺も思わず頭を抱える。


 「……すみません。ホントすみません。悪い奴じゃないんですけど……壊滅的なまでに変態なもんで」


 高校時代はこいつに色々世話になったが、逆にこいつが警察に捕まらないように世話をする方が大変だった。一応まだ警察沙汰にはなった事は無いが。なまじ見た目が長身なイケメンだから何も知らないで寄ってくる女の子はいたが、真実を知った女子からは毛虫のように扱われていた。


 「友達は選んだ方がいいでございますよ……?」


 「……俺もそう思います」


 とはいえ、本当に悪い奴ではないのだ。二人ではぁ、と大きなため息をついた。


 「……よっぴー。絢子さんがトラウマを背負いそうだから、とりあえず帰るわ。住所は後でメールする」


 まだ地面に張り付いたままのよっぴーは頷いた。


 「絢子ちゃんの連絡先もついでに教えて」


 「それは無理」


 まだフラフラしている絢子さんを連れて、よっぴーに別れを告げた。


 「……そういえば翔太さん。ちょっと来て欲しい所があるのでございます」


 「いいですけど、どこに?」


 「とらのあなでございます」


 「え? さっき行ったんじゃなかったんですか?」


 「欲しかった本を買おうとしたら、年齢制限がどうとか言われて止められたのでございます。絢子は18歳だと言っても信用してもらえなかったのでございます。まったく腹立たしいでございます。だから、代わりに買ってきてくださいませ」


 「…………」


 このロリメイド、俺に18禁本を買わせるつもりらしい。

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