4章 11話 フラグ

 「ルリアンさん、ビギナークラス優勝、おめでとうございます!」


 「あ、ありがとうございます」


 会場のメインステージの上で、きずなさんがかしこまりながら賞品のボックスやら限定カードやらを貰って、インタビューを受けていた。


 「うっ。うっ。おじょうざま……よがっだでございまず……」


 そしてそのステージの観覧席の最前列で、絢子さんが主人の姿を見てまたしても涙をボタボタ流していた。意外と涙もろい人だ。俺ももう少し見ていたかったが、集合時間まであまり時間も無い。


 「絢子さん。俺、そろそろ対戦席の方に行くよ」


 「わがっだでございまず……がんばっででございまず……」


 「鼻水拭きなよ」


 応援してくれるのは素直に嬉しいが。しかしこの人、泣きながらも顔は無表情なんだな。

 苦笑しながら、きずなさんの雄姿を見つつステージから離れて対戦席の方に向かおうとした。その時、電話が鳴った。相手はと言えば。


 「おっす翔太」


 「よっぴー?」


 余りにも聞きなれた声。物販コーナーにグッズを買いに行ったきり帰ってきていない、よっぴーだった。


 「きずなさん、勝ったぞ」


 「みたいだなー。アナウンスで知ったよ。すごいなーあの人。あとで絶対に『おめでとう』を言いに行く」


 「……?」


 妙な言い方だ。今すぐ言いに行けない事情でもあるんだろうか。


 「お前、どうした? 今どこにいる?」


 「会場の外。人に聞かれるとまずいからなー」


 会場の中にしては電話口から聞こえてくる音が静かだと思った。

 しかし、もうすぐ試合が始まるこのタイミングで、なんで外に出ているんだ?


 「実はさ、物販の列に並んでいる時に、後ろにいた綺麗なお姉さんに話しかけられたんだよ」


 唐突に逆ナン自慢をされて、思わずそのまま電話を切ってやろうかと思ったが、なんせ相手はよっぴーだ。綺麗なお姉さんというのが引っかかる。


 「最初は普通に何クラスなんですか? とか、どんなデッキ使ってるんですか? とかそういう話をしてたんだけど、前回のプロ昇格戦の話になって……俺が準優勝者のジェットと知り合いだってわかったら、今日のお前のデッキ内容とか、何が何枚入っているかとかすげー細かく聞かれたりしたんだよ」


 思わず息を飲む。


 「……まさか、喋ってないよな?」


 「……お前なー。俺が友達のデッキ内容をペラペラ喋ると思うか?」


 「どっちだろう。わからん」


 こいつならどっちのパターンもありえる。


 「……話さないって。俺にハニートラップを仕掛けるなんて、10年遅いよ」


 確かに。こいつがロリコンの変態で助かった。こんな奴を口説かないといけなかった女の人に素直に同情した。逆に言えば、10代前半の少女に話しかけられていたら危なかったかもしれない。


 「それで、その女の人は?」


 「物販で物買い終わったら消えてた」


 なんだそれ。あからさまに怪しいな。単に俺のデッキに興味ある……ってだけではなさそうだよな。


 「正直、なんでそんな事する必要があるのかさっぱりわからないけど……一応、気を付けとけよー」


 「わかったよ。……サンキューな」


 「おう。……じゃあ、そろそろ集合時間だぞー」


 「お前もな」


 そう言って電話を切った。しかし、俺の情報を集めてどうする気だ? 同じゴールドクラスの参加者か? 目的は気になるが……現状何もされていないし、害は無い。今は目の前の対戦に集中することにしよう。


 「シルバークラス、ゴールドクラスの参加者のみなさんは、対戦席に集まってください」


 そうこうしているうちに、アナウンスがあり、自分の対戦席が発表される。トーナメント形式で、1回負けたら即敗退のルールだから、最初は弱い人と当たりたいなーと思ってはいるのだが、なんせプロも参加するクラスだ。弱い人がいるわけが無い。とは言え、やはり最初のうちはプロと対戦するのは避けたい。できるだけ体力は温存したいからだ。

 だがまぁ、今回のゴールドクラスの参加者は約200人。

 その中で、プロは全員でも10数人。後の方ならともかく、序盤のうちに当たる可能性なんて、そうそう……。


 「あれ? ジェット君だ! やっほほー!」


 俺の目の前に座ったのは、プロカードゲーマー、ナギサさんだった。

 ……うん、自分でもフラグを立てすぎたと反省している。

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