2章 7話 デッキを作ろう

 「7コスト《覇王 スカーレットキング》で攻撃! 勝利したから1ドローして、さらに手札から《隻眼の大将軍》を出すわ!」


 「むむ。《天下無双 ブラックナイト》で両方倒してやるでございます」


 よっぴーがわざわざ持ってきてくれた俺のカード達(段ボール3箱)を使って、きずなさんと絢子さんのデッキを組みなおした結果、二人のデッキは格段に強くなった。

 二人とも楽しそうに対戦をしているのを見て、俺も微笑ましい気持ちになる。何でもかんでも教えてしまうとつまらないだろうと思って俺は自分からは積極的に口を出さなかったが、アドバイスを求められたら何でも答えた。

 ちなみにきずなさんが最初にデッキを組んで俺に見せてきた時のことだが、


 「翔太君翔太君。自分でデッキを組んでみたんだけどどうかな?」


 見てみると、デッキ50枚中、40枚が7コストと8コストのユニットカード。残り10枚が全て手札を増やすドロースペルという極端なデッキだった。


 「……なんという紙束」


 余りの出来に思わず本音が漏れてしまった。

 このゲームの最高コストが8コスト。マナは基本的に1ターンに1枚しか置くことができないので、7ターン目以降しかユニットを出す事ができないという事になる。


 「え?」


 「あ、いえ……ちょっとバランスが悪いので、もうちょっと低コストとか、バトルスペルも入れましょうか」


 「ええー? コストが重いカードをいっぱい入れた方が強いんじゃないの? それに、手札がいっぱいある方がいいと思ったんだけど……」


 「ふむ」


 ここまで極端なデッキを組んだ事は無いが、俺だってカードゲームを始めた頃は似たような事を考えていた。

 『違う』と一言で言うのは簡単だが。

 考えた末、俺は段ボールの中から一つのデッキケースを取り出した。

 よっぴーに預けたカード達の中には、大会では使わなかったが、練習用に作ったデッキも入っていたのだ。


 「きずなさん。ちょっとそのデッキで、このデッキと対戦してみましょうか。先攻は譲るんで」


 「うん? わかったわ」


 基本的に大抵のゲームは先攻が有利なので、俺はきずなさんに先攻を譲った。


 「よろしくお願いします」


 「よろしくお願いします……えっと……マナを置いてターンエンド」


 「1コスト《セーナ》を出して、『速攻』でプレイヤーを攻撃します。ウォールを1枚破壊します」

 

 「うーんと……何もできないからターンエンド」

 

 「1コスト《ガーベラ》と1コスト《ノースプリセンス》を出します。両方『速攻』なので、3体とも攻撃して、ウォールを3枚破壊」


 「ううう」


 あっという間に8枚あるウォールが4枚に減ってしまい、きずなさんは青くなってしまった。使っている色は赤なのに。


 「えっと……《人材発掘》で2ドローします。……ターンエンド」


 「3コスト《ラストエンペラー》を出して、このターン中全員のウォール破壊枚数を2枚にします」


 「ええ!?」


 俺の盤面にいるユニットは3体。きずなさんの残りウォールは4枚。1体で2枚のウォールを破壊するので、俺のユニットが全員攻撃すれば勝ちだ。


 「うう……ありがとうございました」


 「ありがとうございました。……これは、低コストのユニットを主体としたウィニーと呼ばれるデッキタイプです。相手の準備ができる前に速攻で相手のウォールを破壊してしまうっていうデッキですね」


 本当は相手のユニットを除去するカードも入っているのだが、そもそもきずなさんのデッキ相手ならそんなものを使う必要も無い。


 「きずなさんのように高コストだけを入れていると、序盤に押し切られてしまうんです。こういうデッキタイプは、後半にまで持ちこたえる事ができれば普通のデッキの方が有利になるので、そこまで持ちこたえさせるためにも、低コストのユニットは必要なんですよ」


 高コスト主体のデッキでも、それをサポートしたり、序盤に耐えるための低コストユニットは必要だ。


 「それに、手札がいくらあっても、使う事ができなければ意味が無いんです。手札を盤面に還元しなければいけないんです」


 手札が例え10枚あろうと、相手の盤面のユニットが10体で自分の盤面のユニットが0体なら敗北は必至だ。


 「このゲームはマナを10枚までしか置けないので、7コストや8コストのカードがたくさんあったとしても、1ターンに使うことのできる手札は1枚だけです。それだったら、5コストを2枚とか、6コストと4コストとか、コストバランスを良くした方が、戦いやすいんですよ」


 きずなさんは、俺の説明を難しい顔で黙って聞いていた。

 あ、まずい。

 あんまり初心者に最初から理論を詰め込むべきでは無かったかもしれない。

 彼女は、自分で考えてデッキを作った。だが、俺はそれを全て否定した。

 自分の考えを頭ごなしに否定されるのは気持ちのいい物では無い。

 短気な人なら、それだけでやる気を失くしてカードゲームをやめてしまうかもしれない。

 世の中には、カードゲームじゃなくても楽しめる娯楽はいくらでもある。特に最近はスマホさえあれば 無料で遊べるゲームなど星の数ほどある。

 そうじゃなくてもきずなさんは飽きっぽいと聞いているしな。

 俺がそんな心配をしていると、


 「翔太君って、教えるの上手なんだね」


 一瞬嫌味なのかと思ってドキッとしたが、きずなさんは笑って、


 「うん。わかった! じゃあ、もうちょっと他のコストのユニットも入れてみるね! カード探してこよっと!」


 そう言って段ボールの中のストレージからカードを物色し始めた。


 ……良かった。ただの気まぐれかと思っていたのだが、思ったよりもずっと、きずなさんはカードゲームをやる気があるようだ。

 ちなみによっぴーも絢子さんもその場にいたのだが、


 「絢子ちゃん、デッキを作るなら俺が教えてあげるよ!」


 「近寄るなでございます。ド変態」


 「おお! いい! 素晴らしい! もっと罵ってくださいお願いします!」


 「ひぃぃぃぃ!」


 完全にMに目覚めていて、彼女は逃げ回っていた。

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