4章 15話 彼女から貰った物
5回連続、対戦相手がランク10のプレイヤーだ。もちろん勝ち上がれば勝ち上がるほど上位のプレイヤーと当たる可能性は高くなるが、こうもずっと格上と当たり続けているとそろそろ頭がおかしくなってきそうだ。
「なんや、疲れとるみたいやな。大丈夫か?」
「……ええ、まぁ。ちょっと対戦相手が強い人ばっかなんで、げんなりしてるだけです」
「そのことか。実は俺も気になっとってん」
なぜかヒナタさんは難しい顔をしていた。
「俺らのブロック……もっと言うと、ジェット君のブロックにプロとかランク10がめっちゃ固まってるんや」
そう言われて、改めてネットに上がっている対戦表を確認してみる。確かに一目瞭然だ。俺もプレイヤー全員の名前覚えているわけでは無いが、ランク10の人の名前は何度も見た事があるのでわかる。明らかに偏っている。俺が勝ち進んでいくと、高い確率で強い人と当たるようになっていたんだ。
「それだけやない。反対のブロックを見てみーや」
反対側のブロックには、マッキー以外には、数人のランク10のメンバーがいるだけだった。まぁ、俺達のブロックに集まっているのだから、当然だが。
「なんか、きな臭いと思わん?」
「……とは言っても、さすがに偶然じゃないんですか?」
こういうのは運だから、絶対にありえないとは言いづらい。
「……この大会、どこの会社が出資してるか知っとるか?」
出資? スポンサーって事か。どういう意味だ?
ヒナタさんがクイクイと指さす方向を見る。『SANAGAMES』。あの会社のロゴが書かれたノボリが置かれている。そう、真田さんが社長を務める会社だ。
「え、じゃあ……」
「ジェット君を勝たせないためなんか、マッキーを勝たせたいんか。それともその両方か……マッチングが操作されとるんちゃうかなーって思たんやけど」
「そんな……」
まさか。……いや、でもそれなら納得できることがある。
真田さんが、俺を勝たせたくないためにマッチングをいじり、俺に賞金をかけた。
……いや、『俺を』じゃない。……『俺達を』かもしれない。
「第5回戦、開始してください」
アナウンスがあり、周りが一斉に対戦を始める。
「すまんな、試合前に変な話して……。やるか、ジェット君!」
……確かに気になるが、今は目の前の試合に集中しよう。
なんせ相手はプロ。そして、俺の事を知り尽くしているプレイヤーだ。
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしく!」
ここ数週間、ヒナタさんとは何度も対戦した。ある時は『プロの溜り場』で、ある時はネットを通じて。この人はプロらしくいくつもデッキを作っていて、それぞれのデッキについても、対策などを教えてくれた。でも、どれが彼の本命デッキなのかはわからない。
果たして、彼がこの大会に持ち込んだデッキは……。
「2コスト《星詠み人》……宣言は7や!」
色は、緑。またしても緑ミラーだ。《星詠み人》の効果で山札を4枚めくった。捲れたカードは、《リュウジン》、《雷神ソーフェイ》、《ライオンハート》、そして、
「7コストの《白銀獅子 シルバーレオン》を手札に加えるで!」
それを見て、俺は顎が落っこちるかと思った。
まさか、このデッキは……!?
見えたカードには、全て馴染みがある。むしろありすぎる。そしてなにより、《ライオンハート》が決定的だ。
驚いている俺を見て、ヒナタさんはにやりと笑った。
「……そうや。ジェット君。君が作ったデッキや。もちろん、俺用にアレンジはしとるけどな!」
まさかの、マイナーデッキである《ライオンハート》デッキ同士の戦い。俺自身も、ほとんど経験した事の無いミラーマッチだった。
さすがに、こんな事想定していなかった。
ヒナタさんにはデッキの全容を見せた事もあるし、コピーするのは容易だっただろうが……。
「おらっ! 《リュウジン》で攻撃や!」
「通します。ウォールに2点ダメージ」
「よし。《再起の魔術師》を出して、《ライオンハート》を回収するで!」
「ぐっ!」
これで、《シルバーレオン》と《ライオンハート》が相手の手札にある事は確定だ。
序盤は同じデッキだけあってほとんど同じ動きで、お互いに手札を貯め込んでいたが、ミラーの宿命で、先攻のヒナタさんの方がどうしても先に行動できる。
こちらが慌てて盤面を崩しにかかれば、そのカウンターで逆に盤面を殲滅するつもりなんだろう。かと言って、このままダラダラと戦っていたら一方的に攻められて負けるだけ。
……どうしたものか。
チラッと周りを見る。フィーチャーマッチでは無いとは言え、ベスト8だけあって俺達の戦いは多くの人に観戦されている。逆転の一手が、無いわけでは無い。だが、このカードを見られていいものか、使っていいものか。迷っていた。
ヒナタさんはそんな俺をからかうような口調で、
「どうしたジェット君。いつもはもっとキビキビプレイしとったやろ。大会やからって緊張しとんのか?」
「い、いえ……」
俺の視線に気づいたのか、
「……周りを気にしとんか?」
「……あんまり、見られたくないと思っただけです」
そう言うと、ヒナタさんは急に真面目な顔になった。
「ジェット君。何言うとんや。強いプレイヤーが注目されてデッキ見られるなんて、普通やん」
「え?」
「見られるの嫌やからって、使うカード変えたり、出し惜しみしたりするんか? そんな事考えてて、俺に勝てると思っとんのか? ……舐められたもんやな」
「ち、違います! ただ、俺は……」
恥ずかしくて、申し訳なくて、思わず顔を伏せてしまう。
……でも確かに、この人の言うとりだ。この戦いに勝てなければ、次の試合なんて無い。負ければ即敗退。それがトーナメントのルールだ。
「心配せんでも、君の組んだデッキは強いよ」
その言葉に、驚いて顔を上げる。俺の心を見透かしているヒナタさんは、にやりと、獰猛に、そしてふてぶてしく笑っていた。
「この俺が、大会で使ってみたいと思ったんやで? 君が組んだそのデッキは、ちょっと種が割れたぐらいで負けるような弱いデッキやない。それに君の実力は、そんなもんやないやろ! ……俺に勝ちたかったら、上に行きたかったら、プロになりたかったら……全力でねじ伏せてみろや!」
熱い。ヒナタさんの言葉に、思わず目頭が熱くなる。
そうだ。ヒナタさんは、俺の事を、俺の実力を認めてくれている。だから、俺と同じデッキで大会に出ようと思ったんだ。かつては、俺に足りない物があると言って、プロになれないと言っていたのに。
涙をぬぐう。
……よし、腹をくくった。 この作戦は、本当は相当な賭けだ。
それでも、今はこれをやるしかない!
「《シルバーレオン》を出して、《ライオンハート》を使用! 《リュウジン》に攻撃!」
そのまま、手札を消費して、ヒナタさんの盤面を全滅させる。
「ターンエンド!」
「ドロー! そして、《シルバーレオン》を出して、《ライオンハート》! そちらの《シルバーレオン》に攻撃!」
ヒナタさんの手札は、残り4枚。このまま、俺のユニット4体を全て破壊するつもりだ。俺の手札は2枚。この攻撃を通すと、ウォールも盤面も負けている俺が圧倒的に不利だ。
このままだと、負けは必至。そうなったら、きずなさんの頑張りも、俺の頑張りも無駄になる。
チラッと、対戦相手の向こう側を見る。
きずなさんは、ずっと変わらず俺を信じて見つめてくれている。
彼女には、いつも何かを貰ってばかりだ。
住む場所も、食べ物も。温かさも。優しさも。
そして……。
俺は、手札から1枚のカードを出す。
「クイック召喚! 《シルバーレオン》を捨札に送って、《雷鳴の魔術師》を出します! 山札の上から3枚を捨て札に送って、その中にあるスペルの数×2000ダメージ!」
「な、なんやと!?」
俺のデッキのカードを全て知っているはずのヒナタさんが驚いて叫ぶ。
そりゃそうだ。なぜなら、このカードは1回戦が始まる直前に入れたカードだからだ。
なんせ、効果がギャンブルすぎる。同じく山札をめくる効果の《星詠み人》は低コストだし外れてもデッキ圧縮ができたと割り切ることができるが、こちらは当たればでかいが外れればただリソースを失うだけ。
「めくります」
相手の《シルバーレオン》のパワーは《ライオンハート》で強化されて6000。《雷鳴の魔術師》のパワーが2500なので、2枚スペルが捲れれば相打ちになる。
俺もヒナタさんも、そして周りの観客も俺の山札に注目する。
捲れたカードは、《青龍の武神》、《マナ枯渇》、《ライオンハート》。
スペルは……2枚!
「《シルバーレオン》に、4000ダメージ!」
「……な!?」
相打ちになり、本来ならば全滅するはずだった俺の盤面には、3体のユニットが残った。
きずなさんは、絶望的な状況でも諦めなかった。諦めたくなった。だから、そのための1枚をデッキに入れていた。
俺も、彼女みたいになりたい。絶対に諦めたくない。そう思ったから、このカードを入れようと思ったんだ。
俺はその心を、彼女から貰ったんだ。
「……ターンエンドや」
ヒナタさんはくやしそうに、でもちょっと嬉しそうにターンを渡してきた。
そのまま押し切り、2ターン後に俺はヒナタさんを倒し、準決勝に進出した。
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