4章 16話 戦いの舞台

 「……まったく。ようやるわ。《雷鳴の魔術師》でスペル2枚当てるのを期待して攻めてくるなんて。……当たらんかったらどうするつもりやったんや?」


 「……その時は、その時です。また考えますよ」


 不利な状況を返すためには、ああいう博打も必要になってくる。

 あのままじりじりと戦っていても、負けるだけだ。だったら、勝負に出た方がいい。

 それに、一応山札に残っているスペルの枚数もある程度は把握していた。決して無謀な賭けでは無かったはずだ。

 ヒナタさんは、ぷっと吹き出すと、会場中に響き渡るぐらいの大声で笑った。

 そして、


「絶対来るんやで。俺達の……プロの舞台に」

 

 固く、握手を交わした。熱い激励と共に。

 ぱちぱちと、見ていた人たちから拍手が送られた。

 きずなさんと絢子さんも、目をキラキラさせて大きな音で拍手をくれた。可愛い人達だな、まったく。


 「してやられたみたいやな、ヒナタ」


 「うげっ。オーナー」


 そこに、恰幅のいい男の人が手を叩きながらすっと現れた。


 「ベスト4おめでとう、ジェット君。氷華のオーナー、笹倉や」


 「あ、ありがとうございます」


 氷華のオーナー? ってあれじゃないの? 有名なアイスメーカーの『氷雪製菓』の社長じゃなかったっけ? 確か息子さんがカードゲームが好きだという理由だけでプロリーグに参入した凄い人だ。にこにこして、人のよさそうな人だ。同じ社長でも人を馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべている真田さんとは大違いだな。


 「ヒナタがよう話に出しとるから、気になっとったんや。うちのヒナタを倒すなんて、やるやないか!」


 バンバン背中を叩かれてちょっと痛い。


 「ジェット君はここまでランク10を5人も倒したんですよ。……次もそうみたいやけどな」


 ヒナタさんがチラッと、奥の方で行われていた対戦の卓を見る。ちょうど向こうの試合も終わったようだ。ヒナタさんのチームメイト。氷華の紅一点、咲良さんという人だ。彼女が、東雲さんを破って準決勝に上がって来た。次の俺の対戦相手だ。

 そして、もう一方の卓は、マッキーとレンさん。マッキーのブロックにはランク10はほとんどいなかったが、レンさんは違ったようだ。

 スクリーンに映るベスト4の面子の名前を見て、笹倉さんはにやりと笑った。


 「君以外全員ランク10やな」


 「……もう、ここまで来たらランク10だろうが100だろうが何でも来いって感じですよ」


 ベスト4まで来て低ランクのプレイヤーに当たるわけが無い。誰が来ようが、勝つしかないんだ。相手のランクなんか関係無い。


 「ははは! おもろい子やな! でも、うちの咲良は強いで?」


 そう言って、またしてもバシバシ俺の背中を叩いて、ヒナタさんと一緒に対戦席から去って行った。

 ふう。ようやく落ち着ける。そう思ったら、入れ違いに二人がやってきた。


 「翔太君! すごいよ! あんな勝ち方するなんて! あと2勝で優勝だよ!」


 きずなさんは子供みたいにぴょんぴょん跳ねている。おかげで胸が揺れていて、周りの男の人がチラチラ見ているからやめて欲しい。


 「……すごいでございます」


 絢子さんは、顔はちっともそんな風には見えないが、目をうるうるさせていた。もうちょっと周りに分かりやすく喜んでもいいのに。どうせ揺れないんだからこっちは跳ねていいんだぞ。


 「……? なぜか不愉快でございます」


 「気のせいです」


 改めて、きずなさんの方を見る。先ほどの試合に勝てたのは、間違いなくこの人のおかげだ。この人の戦いを見て、俺はあのカードを入れようと思ったのだから。


 「……きずなさんのおかげですよ。きずなさんが、俺にくれた物のおかげです」


 きずなさんは何のことかわからかったようで首を傾げていたが、突然ポン、と手を叩くと。


 「……あ、ラムネね! もう1個食べる?」


 それ、元々俺があげた奴でしょうが。食べるけど。


 きずなさんにあーんしてラムネを食べさせてもらったおかげで、ヘトヘトだった俺の身体もメンタルも、少し回復した。周りの刺すような視線がちょっと痛かったが。


 「ジェットさん、準決勝からはステージ上で行いますので、こちらにどうぞ」


 スタッフに、ステージ袖に案内される。

 他の3人も一緒だ。俺の姿を認めると、レンさんは微笑み、マッキーは軽く手を振ってくれた。だが、俺の対戦相手の咲良さんはじっと目を瞑っていた。集中しているんだろう。

 そして、しばらくしてステージの上に通される

 俺達が登壇すると、物凄い拍手の音が会場内に響き渡る。

 ……こんなにたくさんいたんだな。一段高い場所に上がると、観客の多さにぶるっと震えてしまう。なんだか居心地が悪い。

 だが、他の3人は慣れているのだろう。堂々としたものだ。

 ……俺、まだこういうの2回目だからなー。

 

 「ゴールドクラス、ベスト4に残った4人です! 『真田丸』のマッキー選手! 『氷華』の咲良選手! 『ブレイブソウル』のレン選手! そしてジェット選手!」


 ウォー! と歓声が上がる。

 しかし、俺だけプロじゃないから、なんとなく収まりが悪いな。

 ゴールドクラスは、準決勝からはステージ上で1試合ずつ行われ、試合内容はスクリーンに映される。ただし、出場選手は控室で待っていないといけないので、その様子を見る事ができない。だから、マッキーとレンさんの試合内容を、俺は見る事はできないのだ。


 「最初の試合は、咲良選手とジェット選手です! お二人とも、対戦席に!」


 スタッフに案内され、カメラが設置されたテーブルに着く。

 咲良さんは、きずなさんよりも少し年上ぐらい、レンさんやヒナタさんと同じぐらいの年齢だろうか。落ち着いた雰囲気の、凛とした女性だ。同じプロでも落ち着きないのナギサさんとは違うな。

 彼女は。席に着くと礼儀正しくお辞儀をする。


 「ジェットさんですね。よろしくお願いします。……私にはあなたを倒さないといけない理由があります。申し訳ありませんが、全力でいきます」


 最後の方は、小声でそう言ってきた。

 倒さないといけない理由?

 ……まさか、プロにまで賞金首の話が送られていたのか?

 ヒナタさんはそんな話をしなかったから、ひょっとしたら『プロの溜り場』にいたメンツ以外に送られているのかもしれないな。だとすれば、残っている賞金稼ぎはこの人だけだ。

 もう、周りを気にする必要は無い。ヒナタさんにも言われたしな。

 

 「……俺だって、負けるわけにはいかないんで。死ぬ気で行きます」


 残りは、二戦だ。終わりは近い。

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