2章 10話 とってもエレガンス!
「エレガンスメイドさん、YOJIさんこちらの卓です」
「はいでございます」
変な名前の人がいると思ったら絢子さんだった。スーパーロリはダメでエレガンスはオッケーらしい。この人の基準がわからん。
彼女の対戦相手のYOJIさんとは何度か対戦しているが、結構年上の方で、落ち着いていて若造の俺にも礼儀正しい良い人なので安心だ。
「ルリアンさん、志藤さんこちらの卓です」
「は、はひ」
「ほーい」
名前を呼ばれたきずなさんはあからさまに緊張していて、椅子に何度も足をぶつけながらも席に着いた。
対戦相手の志藤さんという人は初めて見たが、帽子とサングラスをしている怪しい見た目の人だ。大丈夫だろうか。ちょっと心配だ。
「翔太そわそわしすぎだぞ。お前は二人の親か」
「だって……」
よっぴーは呆れていたが、こういうのは最初が肝心だ。
「……せっかく始めたんなら、長く続けて欲しいじゃん」
始めたはいいけど公認大会で嫌な相手と当たったからやめた……なんてのはよく聞く話だ。カードゲームで対戦する楽しみを知った後ならやめる可能性も減るかもしれないだろうが、彼女たちはまだまだ始めたばかり。
特にきずなさんは、俺のためにカードゲームを始めてくれたのだ。どうせなら、もっともっと楽しんで欲しい。心からそう思っている。
そうこうしているうちに俺達も名前を呼ばれて、対戦相手と共に席に着いた。
「それでは試合を始めてください」
『よろしくお願いいたします』と、みんないっせいに挨拶をして対戦が開始した。
俺の試合は早々に終わった。
相手の手札が事故って序盤にユニットが出てこず、その間に俺がウォールを削り切って勝利したのだ。
終わってスコアシートを提出するついでに、絢子さんときずなさんの卓の様子を見に行った。
絢子さんは、得意のハンデスを決めて相手の手札を順調に枯らせていっている。
その分絢子さんの手札を使っているが、彼女のデッキは手札が少ないと強くなる、いわゆるハンドレスデッキだ。このまま行けばもしかしたら勝てるかもしれない。
安心して、次はきずなさんの方を見に行く。
こちらは逆に、見るからにきずなさんが不利な状況だ。
きずなさんの盤面にはユニットが1体もおらず、逆に相手の盤面は大量に並んでいる。
しかも、相手の色は青。しかも戦闘ではなくカード効果によってダメージを飛ばす事に特化した、バーンデッキだ。おまけにほとんどロックが完成されており、これじゃあきずなさんがどのユニットを出したとしても、次のターンまで生き残る事はできないレベルだ。
というか……強い。
対戦相手……確か志藤さんだったか。まったく聞いた事の無い名前だから大したプレイヤーでは無いだろうと思っていたが、とんでもない。
扱いの難しい上に赤には不利なはずの青色のデッキできずなさんを一方的に封殺している。
「……なぁ、もう投了せえへん? これ以上続けてもしゃーないやろ?」
志藤さんは、そんな事を言いだした。
確かに、俺ならもう投了しているだろう。
通常のユニットは、場に出したターンは攻撃する事ができない。どのユニットを出したとしても次のターンまで生き残らない状況なら、まともに攻撃することもできないのだ。
きずなさんも、悔しそうに唇を噛みしめている。
「オレも、あんまり初心者を虐めるみたいなことしたないんや。今回は運が悪かったと思って諦め……」
「……まだ、まだっ!」
彼女は諦めていなかった。まだ、戦う意志を捨てていなかった。
しかし、後ろから見ていても、手札はあまりいいとは言えない。このままだと、到底逆転なんか不可能だ。
「ドロー!」
一縷の望みをかけ、山札をドローした。可能性があるとしたら、ここしかない。
引いたカードを手札に加え、少ない手札を見て、彼女は考える。
考える。考える。考える。考える。考える。
考える。考える。考える。考える。考える。
そして、動く。
「《覇王 スカーレットキング》出します! さらに、スペル《速攻戦法》を使って《スカーレットキング》に『速攻』を付与します!」
《スカーレットキング》は攻撃勝利時にドローとコストを支払わずに手札からユニットを1体出す事ができる、非常に強力なユニットカードだ。
一方、《速攻戦法》は昔からあるカードだが、コストがやや重く、ほとんど有効活用されずに埋もれていたカードだ。
組み合わせるにはコストが少し重いが、決まった時は強力なコンボだ。
上級者は、《速攻戦法》なんて重くて使いにくいカードは使わないし、使われる事をほとんど想定しない。初心者だからこそ、できる動きだ。
「《スカーレットキング》で攻撃!」
「……《ブルーパイレーツ》でブロック」
「《スカーレットキング》の効果で1ドロー! さらに《隻眼の大将軍》を出します! さらに攻撃!」
――強い!
彼女の引き運に思わず舌を巻く。トップからさらに強力なユニット、《隻眼の大将軍》を引いてきてそのまま場に出したのだ。
《隻眼の大将軍》は場に出た時に3コスト以下の敵ユニットを一気に手札に戻すことができる。さらに攻撃して1体倒すことができた。これで、相手の盤面は6体から2体に減り、一気に盤面を取り戻した。
「……!」
志藤さんは目を見張っていた。
「ターンエンドです」
きずなさんのウォールは残り少ないが、これならまだ持つかもしれない。
俺もそう思ったし、彼女もきっと同じ事を考えただろう。
だが。
「スペル《フレイムシュート》を2枚使うで。《スカーレットキング》と《隻眼の大将軍》に1回ずつ使って、それぞれ2000ダメージや」
ともにパワー4000なので、残りは2000。
だが、おかしい。普通なら1体に4000ダメージを与えて倒すはずだ。嫌な予感がする。
「《ストライダーシュウ》を出すわ。効果で、タップ状態の敵に全体に2000ダメージ。倒したユニットの数分、ウォールを破壊させてもらうで」
「……あっ」
これで、残っていたウォールも、ユニットも一気に持っていかれる。
そのまま一気に攻撃されて、きずなさんは敗北した。
「……ありがとうございました」
「ありがとうございました。……キミ、ガッツあるな」
「え? あ、はい……ありがとうございます」
俺は、対戦が終わったきずなさんの傍に行き、声をかけた。
「おしかったですよ。きずなさん」
「……ありがとう」
彼女はかなり悔しそうだった。初めての大会だから、負けるのも仕方ないのだが、この人、相当な負けず嫌いのようだ。
「なんや。ジェット君の彼女やったんか。可愛いから連絡先聞こうとおもてたのに」
志藤さんがからかうようにそんな事を言ってきた。俺は彼女と言われて慌てて否定する。同棲はしているが、少なくとも、そんないい関係ではないからな。
「い、いや。彼女じゃないですけど……あの。あなたは?」
志藤さんはにやりと笑って、サングラスを外した。年はきずなさんより少し上ぐらいだろうか。裏表の無さそうな、カラッとした笑顔を浮かべていた。
その顔には、見覚えがあった。ただし、どこかで会ったとか、そういう事ではない。
「会うのは初めてやな、ジェット君。プロチーム『氷華』のヒナタや。本名は志藤陽光ゆうねん」
彼は俺が初めて出会った、プロゲーマーだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます