3章 4話 カードゲーマーの性格

 「《ストライダーシユウ》と《リトルキング》の効果で、《リュウジン》に4500ダメージ! さらにスペル《フレイムシュート》で《星詠み人》を倒してターンエンドよ!」


 ナギサさんのデッキは、彼女がプロリーグでもよく使っている青デッキだった。しかもあまり攻撃はしてこず、盤面をガチガチに固めて、こちらのユニットに効果でダメージを与えてロックしてくる。

 戦闘では無く、カード効果でダメージを飛ばす事に特化したバーンデッキ。

 このデッキには、見覚えがあった。


 「このデッキ……この前、ヒナタさんが使っていた……?」


 「ん? ああ。あれはナギサのデッキのコピーやで。プロになったら一つのデッキに拘らんと、色々使わなあかんからなぁ」


 横で見ていたヒナタさんが肯定する。

 あの時のヒナタさんは、公認大会とは言え他人のデッキで軽々と優勝していたわけだ。改めてプロのすごさを思い知る。

 それを聞き、ナギサさんはニヤリと笑った。


 「あんたがコピッたの、あたしが1か月前に使ってたやつでしょ? 言っとくけど、このデッキはあれからさらに強くなってるからね!」


 そう言いながら、手札からスペルを使用する。


 「スペル《ウォール再生》で山札2枚をウォールに加える! さらに《蒼の軍師》の効果でウォールが増えた分だけドローする!」


 「……!」


 この前と一緒だと思っていたが、確かに違う。これはただのバーンデッキじゃない。さらにウォール回復カードとそのシナジーカードを入れた、ガチガチの防御デッキだ。

 ロックデッキという物は、盤面が整うまではある程度無防備になってしまうが、そこをウォール回復で補いつつ、盤面が揃ったら相手の心が折れるまでユニットを焼き続ける、防御重視のハメデッキ。


 「やりづれぇ……」


  ヒナタさんも、うんうん頷いている。 


 「ナギサの性格の悪さがよう出てるやろ?」


 その失礼な言葉に、ナギサさんはケタケタと面白そうに声を上げて笑う。


 「あはは! でもほら、カードゲームは性格が悪い方が強いって言うじゃない?」


 性格が悪い方が強い? 一体どういう意味だ?

 ……まぁいい。

 俺のデッキは、こういう相手の完璧な盤面を崩すための必殺コンボがあるのだ。

 手札さえあれば、ちょっとぐらいの不利なら簡単に覆す事ができる。


 「《シルバーレオン》を出して、スペル《ライオンハート》!」


 《シルバーレオン》は速攻を持っているし、《ライオンハート》を使えば、手札の枚数分だけ相手のユニットをガードされずに一方的に倒す事ができる。手札消費は激しいが、そのためにここまで手札を温存してきたのだ。このコンボなら相手のロックなんて関係無い。この手のデッキは一度崩してしまえば立て直すのに時間がかかるし、後は大量のウォールが残るだけ。

 面倒だが、勝てない相手では無いはずだ!


 「《シルバーレオン》で《リトルキング》に攻撃……!」


 「待ちなさい。《ライオンハート》にカウンターよ。《停止命令》。このターン、《シルバーレオン》は攻撃できないわ」


 「……か、カウンタースペル!?」


 さすがに驚きを隠せなかった。カウンタースペルはメインフェイズに使う事ができるスペルに対して、カウンターで使う事のできるカードだ。強力なメインスペルがあまり流行っていないこの環境で、カウンタースペルを入れている人なんて、ほとんどいない。だから、油断していた。


 「君みたいな素直な子ほど、こういうのに引っかかるのよね。あたしのデッキの弱点は、あたしが一番知っている……だから、その対策カードを入れておくのは当然でしょ?」


 「……あっ!」


 「相手の嫌な事をやり続けるのが、勝利の秘訣よん。素直ないい子ちゃんじゃ、あたしには勝てないわ」


 「……!!」


 その言葉に俺は心を折られてしまった。必殺のコンボも封じられ、そのまま反撃する事もできず押し切られて、負けてしまった。


 「わーいあたしの勝っち―!」


 「……ありがとう、ございました……」


 ガクッと項垂れてしまう。もう少しいい勝負ができるかと思ったのだが、実際の所、完敗だ。


 「まぁ、しゃーないしゃーない。こんな性格の悪い奴、プロにしかおらんから大丈夫や。気にせんでええで」


 そう慰められたが、つまり、俺の目指すところ……プロにはいるって事じゃないか。プロになる前に、来月の1DAYトーナメントでそういう人と当たる可能性もある。


 「まぁ、気にせず次行こ次。次は俺と……」


 「……オレが、やる」


 さっきまで横でレンさんと対戦していた東雲さんが、いつの間にか対戦を終え、対戦相手に名乗りを上げた。


 「お、おう……どうぞ」


 ヒナタさんもナギサさんもレンさんも、そんな東雲さんの様子に驚いていた。


 「あんたから対戦申し込むなんて珍しいわね」


 「……ちょっと確かめたい……よろ」


 「……よろしくお願いします」


 確かめたい? なんだろう。俺のデッキに何か彼の興味を引く所があったのだろうか。

 まぁ、今はいい。それより、目の前の対戦だ。

 ナギサさんに負けてちょっとへこんでいるが、まだ1敗しただけだ。しかも、相手はプロ。ちょっとぐらい負けてしまっても仕方ない。そう思って、気持ちを切り替えよう。

 東雲さんと言えば、奇想天外なデッキを作る事で有名な人だ。プロリーグ中も相手のユニットをずっと奪い続けるデッキや、使ったマナをアンタップして何回も使うムーブなど、実況や解説が困惑するようなデッキを使ってきた。ただし決して勝率は高いとは言えない。そんな変わったプレイヤーだ。

 だからこそ東雲さんの動きには警戒していたのだが、序盤は普通の赤デッキだった。


 「《青赤連合》をマナに置いて、《同盟の絆》をプレイ。3ドローして1枚切る」


 だが、途中でマナに置かれた色と、捨てたカードを見て仰天する。


 「二色!?……いや、さ、三色!?」


 『レジェンドヒーローTCG』は色拘束が他のゲームよりきついので、単色推奨のゲームだ。このゲームはユニットをマナゾーンに置く事でコストを支払う事ができるようになるが、2色発生させる混色用マナはユニットとしては使えず、マナゾーン専用カードになっている。それなのに、赤のユニットを中心に、緑と青のスペルまで入れている。

 このゲームは、赤が青に強く、青が緑に強く、緑が赤に強い。黒は構築次第で変わる。

 だから、3色のカードを入れればどのデッキにも戦える。

 理屈はわかるのだが……そんな、わけのわからない構築なんて……。


 「んー……まぁ、東雲やしなぁ」


 「東雲だからねぇ~」


 「東雲は……仕方ないよ」


 わけのわからないデッキを作ることで有名な東雲さんだが、どうやらプロの間でもこんな扱いらしい。


 「対緑特効のバトルスペル、《緑破壊兵器》。パワー2000アップ」


 結局、東雲さんは俺の緑デッキに対して有効な青のカードをうまく使い、何もできずに心を折られ、途中で投了した。

 一つだけ言える。この人もだいぶ性格が悪い。

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