4章 14話 迷い

 「《雷神 ソーフェイ》で攻撃!」


 《ソーフェイ》は低コストのユニットじゃブロックできない。ならば、仕方ない。


 「……《リュウジン》でブロック」


 「3マナ残して、ターンエンド!」


 相変わらず強いな、この人。奥歯を噛みしめる。俺の《シルバーレオン》と《ライオンハート》のコンボを警戒して、ユニットのパワーを上げるスペルを使うマナを残したままターンを渡してきた。

 爆発的な破壊力を誇るコンボだが、それまでは防戦一方になる事が多い。相手側は盤面有利ゆえにマナに余裕ができる事もある。相手は、コンボを成立させた上で、それを上回るパワーで《シルバーレオン》を倒すつもりなんだ。デッキもプレイングもバランスが良くて、隙が無い。


 でも……隙が無いなら、こじ開けるのみ!


 「スペル……1コスト《マナ枯渇》! そちらのマナを3枚タップさせます!」


 「……うん!?」


 ちくわさんが驚いた声を上げた。

 《マナ枯渇》は、自分のターン中に相手が残しているマナを無理矢理タップさせるカードだ。正直、あんまり有用なカードじゃ無いし、マイナー中のマイナーカードなのだが、俺のデッキのような、相手の盤面を更地にする一発コンボがあるデッキにはタイミングを選べば有用に働くのだ。

 このカードを使えば、もしカウンタースペルを持っていても《ライオンハート》に対してカウンターする事もできなくなるから、相手は完全に反撃する手段を失うのだ。


 「《シルバーレオン》、そして《ライオンハート》! 《ソーフェイ》に攻撃! 続けて、《青龍の武神》に攻撃!」

 

 相手は、悔しそうにユニットを捨札に置いていく。スペルを持っていたのだろうが、使う事ができなければ意味が無いんだ。

 ……まぁ、これは俺一人で考えたわけじゃなくて、変態デッキ使いのプロ、東雲さんのアイディアだ。彼はカードプールの把握量が尋常じゃなくて、カウンタースペルの対抗策を考えていた時に、こんなマイナーカードをぱっと出してきた。

 

 「……《青龍の武神》を出して、ターン終了」


 相手は再び高コストユニットを出してきたが、無駄だ。


 「《再起の魔術師》を出して、《ライオンハート》を回収! もう一度使用!」


 さらにスペル回収のカードを入れて、コンボを成立させやすくしたのだ。これで、相手が盤面を立て直してももう1度殲滅する事ができる。そのまま、押し切って勝利した。


 「ありがとうございました!」


 プロと調整した事で、ランク10にも負けないデッキに仕上がった。プレイングも磨いた。

 序盤耐えるのはしんどいが、それでも勝てる!

 ちくわさんは俺の生き生きした挨拶に苦笑していた。


 「ありがとうございました。《マナ枯渇》か……してやられたよ。……でも、そんなカード使って大丈夫だったのかい?」


 「え?」


 わけがわからず、聞き返す。彼は急に真面目な顔になった。


「君のデッキは、序盤を凌いで終盤にコンボで決めるデッキだ。わかってしまえば、対策を取る事はそれほど難しいわけじゃない。君を倒したいという人が大量にいる状況だ。君の対戦は、しっかり見られているだろう。下手に入っているカードを見せると、それだけ対策を取られてしまうんじゃないかい?」


 「……!」


 周りを見てみると、確かに他の試合よりも、俺の対戦に注目している気がする。先ほどの女の人のように、メモを取っているのかもしれないし、それをトーナメント参加者に伝えているのかもしれない。

 確かに、《マナ枯渇》が来るとわかっていれば、余分にマナを立たせればいい。スペルを回収するなら、捨札メタのカードを使えばいい。もっと言えば、序盤に俺が防ぎきれないぐらいの攻勢をかければいい。俺のデッキは、決して万能なデッキでは無い。対応方法が無いわけじゃないのだ。


 「……ご忠告、ありがとうございます」


 一応、お礼は言っておいた。

 続く3回戦。相手はランク10のナザールさん。確か俺と同い年の人だ。俺とは対戦した事が無いが、毎回環境で一番強いデッキを使う人だ。

 この人も、きっとちくわさんが言っていたように俺を倒すと賞金を得られる人なんだろう。俺を見る目がえらくギラギラしている。対戦が始まったが、


 「……っ」


 やり辛い。ちくわさんが言った事が気にかかり、このカードを使う所を周りに見せていいのか、判断できない。おかげでプレイに時間がかかってしまった。その結果、試合は制限時間ギリギリまで延び、泥試合になった末、俺が僅差で勝利した。


 「……チッ。遅延しやがって」


 そんな捨て台詞を吐かれたが、言い返す事ができなかった。 

 休憩時間もほぼ無く、4回戦。ランク10、そしてプロの一人、天童さん。東雲さんのチームメイトだ。


 「よ、よ、よ、よろしく、お願いしましゅ」


 「よ、よろしく、お願いします」


 なんでこの人プロなのにこんなにきょどってるんだ。チーム零って変な人しかいないのかよ。

 どうにも挙動不審だが、プロだけあって、プレイは滅茶苦茶上手い。

 デッキは東雲さんとは真反対で、オーソドックスなデッキだ。色は赤。

 きずなさんが使う色だけあって一番対戦慣れしているにも関わらず、またしても泥試合になってしまった。


 「……ありがとう、ございました」


 時間切れ5分前。俺がギリギリの所で《ライオンハート》コンボを決めて勝利した。


 「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 そのまま立ち上がって、席から離れようとする。別に目的があったわけじゃない。だが、少しでもこの戦場の空気から離れたかったんだ。

 ふらふらと、足がもつれそうになる。


 「翔太君!」


 きずなさんと絢子さんが駆け寄ってきて、倒れそうになる俺を支えてくれた。


 「……ありがとうございます、二人とも」


 「……大丈夫でございますか?」


 「大丈夫、だ……」


 本当は、全然大丈夫じゃない。

 勝てば勝つほど、負けられないというプレッシャーが重く重くのしかかる。

さらに、周りにデッキを観察されているが故に、プレイにも迷いが出る。

 時間が無くてろくに休憩もできないし、しかも相手はランク10ばかり。

 集中力も、体力も限界に近い。今にも倒れそうだ。だが、まだあと3回も勝たないといけない。3回勝てば、プロになれるんだ。


 「な、何か食べる? 買ってこようか?」


 きずなさんが、気を遣ってそんな事言ってくれた。

 もう夕方だからな。朝食は食べたが、それ以外はラムネぐらいしか口にしていない。


 「……いえ、食欲無いんで」


 だが、今何か口にしても、そのまま吐いてしまいそうだ。


 「……行ってきます」


 「が、頑張ってね! もうちょっとだよ!」


 きずなさんの声を聞き、折れそうになる心をなんとか奮い立たせて、のろのろと対戦席に向かう。5戦目の相手は。


 「もうベスト8やな。大したもんやで」


 ランク10。プロチーム氷華のメンバーであり、俺の練習相手の一人、ヒナタさんだった。

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