2章 3話 コミュニケーションブレイクダンス
カードゲームはコミュニケーションが大事だ。
理由は簡単で、カードゲームの対戦は一人ではできないからだ。
相手の思考を読み、それに対応してプレイングを変えたりと、相手を理解する力が必要になってくる。
そして、近年流行りのデジタルカードゲームならともかく、アナログカードゲームは目の前に対戦相手が必要だ。
人と人が面と向かって関わる以上、トラブルが起きる事もあるが、人として最低限のマナーを守っていれば、そうそう揉め事が起きる事は無いのだが。
「プロ昇格試験の決勝で負けた、ジェットだよな?」
「……そうだけど」
初めて会う人にこうも露骨に見下される事など、生まれて初めてだった。
相手はおそらく俺よりも年下だ。制服を着ていて、おそらくまだ中学生ぐらいだ。
参加票を見ると、プレイヤーネームは『黒衣の剣聖』。
中二病かー……。たしかに制服は黒いけど、剣聖って。剣道でもやっているんだろうか。
「あんた最後、《星詠み人》で7って言ってれば勝ってたのに、外すとか超ダセェ。あんたみたいな雑魚、プロになれるわけねーよ」
「……初対面の、しかも年上の人に、随分な口の効き方だね」
「はっ。雑魚にはいいんだよ」
弱い相手は見下していい、と思っているらしい。
仕方ない。社会の厳しさという物を教えてやろう。俺、ニートでヒモだけど。
お互いにデッキをシャッフルし、交換して渡して再びシャッフルし、持ち主に返す。
そしてじゃんけんで先攻・後攻を決め、ウォールを8枚設置する。
今回は勝てたので先攻だ。
「準備はできましたか? それでは、1回戦始めてください」
『よろしくお願いします』と、周りで一斉に声が上がった。
俺も、周りに合わせて挨拶をする。
「よろしくお願いします」
「ふん」
だが、相手は無視してきた。
腹立たしいが、まぁ今はいい。
俺のデッキはこの前の大会と同じで緑色のデッキ。そして、相手のデッキは黒色だ。
「《星詠み人》を出して、宣言は6で」
「7じゃなくていいのか?」
相手がバカにするかのように茶々を入れてきたが、無視を決め込む。
「《雷の魔法使い ジャスタン》を手札に加えます」
「今回は当たってよかったな」
いちいちうるさい奴だ。対戦中に煽ってくるとか、マナーが悪すぎる。
「…………」
しかも相手は効果の宣言もせず、無言でカードを出したり捻ったりするだけで、カードの並べ方や扱いも雑だ。
俺は全てのカードの効果を記憶しているからわかるのだが、初心者やカードを知らない人が見たら、何のカードのどの効果で何をしているかなど、全然わからないだろう。
身内でやる分にはいいが、知らない人とプレイをする時にこの態度は、いただけない。
この場で注意しようか迷ったが、今俺が注意したところで聞く耳を持つとは思えない。
まずは、勝ってからだ。
「捨てて、出す」
手札を捨ててその分山札からドローする《白の竜王》と、手札を捨てた時に効果が発動する《神の賢将》のコンボだ。
相手の捨てたカードや、マナに置いてあるカードを見て、俺は確信する
「マッキーのコピーデッキか」
俺に勝ってプロ昇格試験大会に優勝し、プロになる事が確定しているプレイヤー、マッキー。このデッキは、先日戦った彼のデッキそのものに見えた。
まぁ、プロリーグもこの時期はオフシーズンだしな。最新の大会で優勝したデッキレシピはコピーして使われていても違和感が無い。
だが、相手は不機嫌な顔を隠そうともせず、
「ちげーよ。マッキーのレシピを俺が改良してやったんだよ。俺はこのデッキで、クラスで最強になったんだぜ」
改良ねぇ。他人のレシピを自分が使いやすい形に変えるのは決して悪い事ではないが。
「マッキーのデッキに勝てなかったあんたが、俺のデッキに勝てるわけないだろ」
相手は《白神コンボ》で盤面を整えていき、気づけば低コストから高コストまで、6体ものユニットが並んでいるし、ウォールもまだ潤沢にある。
こちらの手札はまだあるが、盤面には既に攻撃した後の《雷の魔防使い ジャスタン》というユニット1体のみ。ウォールもあと2枚まで削られた。
「とっととサレンダーしたら? もうゲームは決まっただろ? 雑魚ジェット」
あまりに言い様に、横に座っているプレイヤー達もチラチラこちらの卓を見ている。
そうだな。とっとと終わらせてしまうか。
ただし、勝つのは俺だが。
「《雷の魔法使い ジャスタン》のデュアルアタック! 効果で、全体に2000ダメージ!」
これで《白神コンボ》の2体を含む、相手の低コストは一掃した。
相手はシステムコンボが崩されて一瞬顔を歪めたが、まだ盤面には《ブラックナイト》や《ダークヴァイオレンス》などの高コストユニットがいる。
「7コスト《白銀獅子 シルバーレオン》を出して、スペル《ライオンハート》を使います!」
「はぁ!?」
相手は思わず声を上げる。
《ライオンハート》は《シルバーレオン》専用スペルで、パワーを上げつつ相手のユニットを一方的に倒す事ができるようになるカードだ。あまりメジャーなカードでは無いが、俺はこのカードをこよなく愛していて、昔からよく使っていた。
そしてこいつは、相手のユニットを倒した時に手札を1枚捨てればもう一度攻撃できる。
「《ブラックナイト》に攻撃! 手札を捨てて、続けて《ダークヴァイオレンス》に攻撃!」
1体ずつ高コストを倒していくたびに、相手の顔が真っ青になっていった。
「なんだよこれ……」
気づけば、相手の盤面は全て無くなっていた。
ウォールはまだあるが、相手の手札は0枚。俺はこのターンに大量に消費したが、まだ3枚残っているし、盤面には2体のユニットがいる。
カードゲームとは、リソースが大事なゲームだ。物凄く簡単に言えば、手札が多くて、盤面のユニットが多ければそれだけで有利と言ってもいい。
「俺のデッキ、最強なんだぞ!? あんたに勝ったデッキを俺が組み直したんだぞ!?」
別にマッキーのデッキには、意外な戦術やコンボが組み込まれているわけではない。
《白神コンボ》を軸に、捨札からユニットを出したり、敵ユニットにダメージを与えたりと選択の幅が広く、様々な状況に対応できるデッキだ。
だからこそ、使うプレイヤーのプレイングがうまくないと勝つことはできない。
要するに、だ
「腕の無い奴が使っても、勝てないんだよ」
それから数ターン経過し、相手はドローしたカードをそのまま盤面に出す事を繰り返して時間を稼いだが、こちらが先にウォールを削り切り、勝利した。
「……ありがとうございました」
俺がそう言って挨拶したが、相手はまだ青い顔をしながら言い訳をし始めた。
「た、たまたま引きが悪かっただけだよ! 後攻だったし、それに、あんたの引きが良すぎたんだよ!」
「……君程度の実力で、負けたのを引きのせいにするのは10年早い」
序盤から《白神コンボ》を決める事もできていたし、引きは十分だっただろうが。
俺が勝てたのは、相手が下手くそだったからだ。
マッキーは、俺の動きを全てわかっているかのように、俺の盤面を一気に吹き飛ばすコンボを警戒して、手札をできるだけ使わないように、被害を最小限に抑えるようにしながら、こちらのウォールを削ってきた。
同じタイプのデッキでも、全然プレイングが違う。
この少年は、マッキーには遥かに及ばない。
「きちんとあいさつできるようになってから、出直してこい」
俺はそう言い残して、スコアシートに結果を記入してレジの店員に持っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます