3章 2話 初めての勝利、初めての大会

 「《隻眼の大将軍》を出します! そちらの3コスト以下を全て手札に戻します! 《隻眼の大将軍》が速攻でプレイヤーに攻撃します!」


 「あっ……ありがとうございました」


 「ありがとうございました!」


 ついに、やったか。

 自分の対戦が終わった俺は、きずなさんの対戦をじっと見守っていたのだが、その決着がついた。


 「翔太君! やった! 勝ったよ!」


 「ええ! やりましたね!」


 そう、きずなさんが勝ったのだ。

 喜びのあまり、俺達は手を取り合い、くるくる回って踊りだした。

 きずなさんが初めて公認大会に出てから、約1か月。

 彼女は家にいる時は何度も絢子さんや俺と対戦し、何度もデッキを調整した結果、少しずつ強くなっていった。

 そして今日、彼女は公認大会で初めて勝利する事ができたのだった。

 たかが公認大会の1勝だと周りは思うかもしれないが、きずなさんにとっては本当に大事な、自分の力で勝ち取った1勝だ。

 つい先日の夜のピアノ事件の事があったから心配していたのだが、こうしてぴょんぴょん跳ねて喜んでいる顔を見る限りは、とりあえず大丈夫そうだった。

 彼女はひとしきり喜んだ後、嬉しそうな顔をしてスコアシートを提出しに行った。

 その間に騒ぎすぎた事を対戦相手の人に謝っておいたが、相手の人もこの一か月何度かきずなさんと対戦していた事もあって、「気にしなくていい」と笑っていた。いい人ばかりで助かる。

 公認大会が終わって、いつもの4人、俺ときずなさん、絢子さん、そしてよっぴーは揃って店を出た。


 「きずなさん、だいぶうまくなったよな」


 「そうだろうそうだろう」


 「なんでお前が得意気なんだよー」


 「きずなさんは俺が育てたからな」


 「育てられてるってか、養われてるの、お前だけどなー」


 「やかましい」


 それを聞いた絢子さんは呆れた目をしていて、きずなさんはクスクス笑っていた。

 実際、きずなさんの成長は目覚ましい。付きっ切りで教えている俺としては、得意になっても仕方ないというものだろう。


 「きずなさん、この調子だと来月の1DAYトーナメント、ビギナークラスで優勝できるんじゃないか?」


 自然な流れでよっぴーがそんな事を言ったのだが。

 それはまずい。その単語に、思わず頭を抱えてしまう。

 絢子さんは、ギロリとこちらを睨んでいるし、


 「え? 1DAYトーナメント?」


 きずなさんはこちらを振り返り、これでもかというくらい目を輝かせていた。

 さすがのよっぴーも俺達3人の様子から、


 「……あ、まずかった?」


 まずいことを言ってしまったと察したらしい。

 そう。つい最近、来月末に公式で1DAYトーナメントが開催されると発表があったのだ。

 普段の公認大会とは違い、ビギナークラス(ランク0)、ブロンズクラス(ランク1~3)、シルバークラス(ランク4~6)、ゴールドクラス(ランク7~10)というように、ランク毎に分かれて対戦する。勝ち数に応じてランクが上がっていくシステムだ。

 ちなみに俺はランク7なのでゴールドクラス。よっぴーはランク6なのでシルバークラスだ。

 公式大会に出た事が無いきずなさんと絢子さんはもちろんランク0。

 普段は自分よりも強い人と戦う事が多い二人だが、この大会なら同じレベルの相手と戦えるし、二人の今の実力なら優勝する事も夢では無いだろう。

 大会で優勝すれば賞品も出るし、ランクもどんどん上がっていく。

 きずなさんが知れば間違いなく「出たい」と言い出すと思ったのだが、絢子さんに、その話は絶対にきずなさんにはするなと止められていたのだ。

 曰く、


 「そんな人の多い所にお嬢様を連れて行って、何かあったらどうするのでございますか」


 だそうだ。

 確かに、会場には数千人単位で人が集まる。実は普段から絢子さん以外にもOTONOの人間がお嬢様であるきずなさんをこっそり護衛しているらしいのだが、そんなに人が多い所で護衛をするのはさすがに困難とのことだ。

 だから俺も、本当はきずなさんに大会に出て欲しいと思いつつも黙っていたのだが、その事をよっぴーに伝えるのを忘れていた。


 「まったく、余計な事を言ってくださいましたね。この変態は……」


 その言葉に、よっぴーは奮然として言い返す。


 「絢子ちゃん! もっとキツイ言葉をお願いします!」


 「ひいいいいいいい!」


 いつもの二人のやり取りは放っておくとして。


 「1DAYトーナメント……ビギナークラス……」


 きずなさんは、大会の事を想像しているのだろうか。ますます目を輝かせて、にへらとちょっとだらしなく笑っている。

 その顔を見て、絢子さんはよっぴーを蹴り飛ばしながらも、慌てて止めに入った。


 「だ、だめでございますよお嬢様。そんな人の多い所に行って何かあったらどうするのでございますか。お父上様とお母上様に顔向けができないでございます」


 しかしきずなさんは、 潤んだ瞳で絢子さんを見つめた。


 「ジュン。……お願い」


 絢子さんはその目を見て、うっと言葉を詰まらせた。

 そして、しばらく考えてため息をつくと、


 「……仕方ないでございますね。ただし、あまり人の多い所には一人で行かないように……」


 「やったぁ! ねぇねぇ翔太君! デッキどうしようか? 今のままでいいかな?」


 余りにもちょろい絢子さんは放っておいて、俺にデッキの相談をしにくるのだった。

 やれやれ。

 でも、きずなさんが大会で優勝する所はぜひとも見てみたい。

 それに、俺自身も1DAYトーナメントで勝ち進み、ランクを上げればプロへの道が近くなる。なんとしてもいい成績を収めたいところだ。

 そんな時、スマホがブルっと震えた。見てみると、TwitterでDMが送られて来ていたのだ。開いてみると、


 『ようジェット君。久しぶりやな。急やねんけど、明日空いてへんか? 連れていきたいとこがあんねん』


 なんとプロゲーマーであるヒナタさんこと、志藤陽光さんだった。

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