怒らない理由

「えーじって、怒った事ある?」

「どうしたの?急に」

「だって、怒った所見た事ないし」

「成る程ね。勿論、怒った事はあるよ。けどちょっとした事じゃ怒らないようにしてるんだ」

「どうして?」

「変わったから、かな」



 ◼◼◼


 あれは俺が会社なた入って2年目の時の話だ。


「ちゃんと教えただろ!何で出来ないんだ!「す、すみません」


 1年目の時に俺は先輩から厳しくされてきた。

 その所為で自然と俺も後輩に厳しく接する様になった。


 そしてある日新しい子が会社に入ってきた。俺が教えていた子と交代して。

 つまり辞めていったのだ。


 必然的に新しい子は俺が教える形になっていた。


九条遥菜くじょうはるなです。よろしくお願いします!」

「御山英二だ。早速だけどこの資料打ち込んでくれる?」

「はい、分かりました」


 スタートは順調だった。

 けれど後輩が色々な仕事をするに連れてミスが増えていった。


 勿論、ミスは後輩のものだがちゃんとカバー出来なかった俺の責任でもある。


 そう分かっているのだが、どうしても後輩にあたってしまう。


 それでも後輩が辞める事はなかった。


「なぁ、俺の事何とも思わないのか?」

「どうしてですか?」

「いや、だってかなり厳しいしてる。これで大抵のやつは辞めていった。それなのに..」

「私、先輩に感謝してるんです」

「は? 感謝?」

「はい。実は私虐められてきたんです。小、中、高皆から無視し続けられました。勿論、前の会社でも。けれど先輩は違いました。失敗してもちゃんと叱ってくれて、上手くいけば誉めてくれて。だから私は先輩が嫌とは思っていません」


 言われなくなったら終わり。

 中学の部活の時に言われた事だった。


 言ってもらえるだけ有難い。言われなくなった時は本当に見捨てられる時だってり


 この子は小さい頃から誰にも何も言われずに生きてきた。

 そして俺が‘‘言ってもらえる存在’’になった。


「そうか。..何だか変わってるな九条って」

「そうかもしれません。けれど私はこれでいいと思っています」


 それから俺は怒るのをやめた。勿論ダメな事などには口出しするが、八つ当たりや教える事にかけて怒るのはやらない事にした。


 怒って、俺にも相手にも何も得はないりそれなら怒らないで解決する方法を使えばいい。


 そのおかげで沢山の後輩から慕われる様になった。


 ◼◼◼

「その人はえーじの事、好きだったんだね」

「えっと、話聞いてた? シアちゃん」

「聞いてた」

「じゃあ..」

「シア、遊んでくる」


 そういってシアちゃんは外へ遊びに行った。


 全く、俺の話した時間はなんだったんだ。

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