シア1-5

「ねぇ、シアちゃん─『えーじはすわってて』─わ、分かったよ」


 俺は今バスチェアに座らされている。


「じゃあ、いくよ」


 次の瞬間、小さな両手が俺の背中に、円を描くように撫でてきた。


「ひゃ」

「えーじ?」

「だ、大丈夫だ」


 び、びっくりした。思わず、変な声を出してしまった。

 それに、小さい手で俺の体を洗ってくれるなんて。くそ。誰かに自慢してー。


「えーじのせなか、おおきい。てであらうのたいへん」

「それは、なんと言うか─『だから、てであらうのやめる』─えっ?」


 先ほどの手の感触が背中から消え、次は少し布の感触に変わった。だが、明らかにタオルではない。まぁ、持ってきてないし。じゃあ一体───


 振り向こうとすると─「えーじ動かないで」─と注意されてしまった。

 一体何で洗っているんだ。くそ、こうなったら鏡から──


 なっ!


「シ、シアちゃん?一体何をして・・・」 

「なにって、えーじのからだあらってる。───で」


 そう。ついさっき鏡で確認したところ、シアちゃんは俺の背中を体で洗っていたのだ。


「な、何でそんな事を?」


 俺は混乱していた。こんな可愛い女の子に体で洗ってもらえる事は嬉しいが、それと同時に凄い背徳感を感じる。


「えっと、えーじによろこんでもらいたくて」

「俺に?」

「うん。ほんにこうすれば、おとこのひとはよろこぶって」


 誰だよ、そんな本書いたの!

 ホント、ありがとうございます!!


 いや、そうじゃない。


「シアちゃんが俺の為にしてくれるのは嬉しいよ」

「じゃあ─『でも、シアちゃんにはもっと自分を大切にしてほしい!』─......」


「......えーじのいってることよく、わからないよ。シアはえーじをよろこばせようしてるのに、それをひていして。......じゃあ、シアはどうやってえーじをよろこばせればいいの!」


 シアちゃんから吐き出た思いは室内全体に響き渡った。


「えーじ、さきあがるね」


 そう言って、シアちゃんは風呂場を後にした。

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