ジェネレーション・ストラグル 〜世代間闘争〜

0o0【MITSUO】

プロローグ ―2038年、史上最年少の総理誕生

プロローグ(1)―2038年、朽ちた渋谷

 ※この物語は、フィクションだが統計データなど「事実」を基にしている。


 すべてが、ちて見えた。

 街も、人も、この街を包む空気も。

「老いたな……渋谷も」

 榊龍馬さかきりょうまは、車窓から変わり果てた街を眺め、つぶやいた。


 ――2038年、渋谷

 

 かつて「若者の街」と呼ばれた繁栄の面影は、すでにない。

 シャッターが閉じて久しい薄汚うすよごれた飲食店。いたくずれそうな無人の雑居ビル。そして、窓ガラスがことごとく割れた廃墟マンション。駅から500メートルも離れると、そんな景色が当たり前になる。


 道路もあちこちでほころびが目立つが、長く補修されぬまま放置されている。近くで遠くで、ひっきりなしに救急車やパトカーのサイレンが鳴り響く。今の渋谷がかもす空気は、繁華街というよりスラムのそれが近い。


 老いたのは、建物や道路だけではない。むしろ、人間の老いと荒廃は深刻だ。駅の周辺に目立つのは、歳の割に肌を露出し派手な化粧を施した、オーバー60、いや70のかつてのギャルたち。さらには時代遅れもはなはだしいダボついたデニムに、ナイキのクラシック過ぎるスニーカーを履いたよわい70近いかつてのチーマーたちが跋扈ばっこしている。中には、そんな男女間でナンパも繰り広げられている。


 平均寿命は、医療の進歩もあり女性は90歳、男性でも85歳を超えた。それに伴い、高齢者による痴情のもつれ、隣人トラブルが増加。高齢者のモラル低下や犯罪増加は、社会問題化している。特に、が多く集うここ渋谷では「老後はつつましく」は、完全に過去の美徳だ。


 一方で、意味不明な言葉をつぶやき、悪臭を放つ服もいとわず徘徊している老人も1人や2人ではない。さながら、ウォーキングデッドの世界だ。正確な統計はないが、全国で認知症患者が800万人を突破したという話もある。中には突然、壁に怒鳴りだしたり、行き交う人に誰彼構わず奇声を発したりする者もいる。が、それを見る多くの老人たちは、慣れたもので我関せずを貫いている。ある意味、他人に冷たい東京カルチャーだけは健在だ。


 老いてしまったこの街を、制服姿の女子高生が肩身狭そうに足早に歩くのが印象的だ。体感で言えば、老人5、中年3に対して若者の割合はかろうじて2と言った感じ。さらに10代に限定するなら、1いるか、いないかだ。


 この街にかつてのような若者の居場所は、ない。

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