6日目(4)―共闘を
――13時00分
生徒たちは昼食を終え、元の席に戻ると会議開始を待っていた。
まもなく、前方壇上に実行委員長の近藤が立つと微笑みながら言った。
「いきなりメシを食わされて、眠気がピークのところ申し訳ないが……」
生徒たちの笑いがもれる。
「これより、第34回全国生徒会会議を開会する!」
生徒たちの盛大な拍手が響いた。
「……ではさっそく、今年度の全国生徒会会議の議題ですが、事前に――」
「――すみません!」
よく通る声が、会場後方から響いた。
声の主は、もちろん龍馬だ。
満を持して、龍馬が動きだしたのだった。
「ん!? 誰だ? 今のは……榊くん、か?」
近藤は、表情に疑問符を浮かべ、龍馬の方を見た。
会場の生徒たちも、一斉に
龍馬は、すぐさま起立すると答えた。
「急にすみません! 実行委員長、そして参加生徒のみなさん。ただ、この会議でどうしても扱っていただきたい緊急の議題があるんです」
「緊急の……議題?」
「はい」
「しかし……先に決まっていた議題が――」
「――ひとりの生徒の命に関わる問題なんです!」
「い、命?」
近藤も思わず聞き返す。
「はい、じつはもう亡くなってしまった命ですが……だた、その尊厳に関わる問題です。加えて、もうひとつの議題は、ここにいるみなさん全員の未来に関わる問題です」
会場がざわめいた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 君のその緊急の議題というのはふたつもあるのか?」
「はい、その通りです。本会議の初回から変わらない理念は『よりよい学校、よりよい未来を、生徒たち自らの手で作り上げていくこと』だと聞いています。ふたつ議題は、まさにその
「しかしな、榊くん。それなら事前に――」
「――時間がなかったんです。しかし、僕の話を聞いていただければ、きっとどちらの議題もその緊急性と重要性をご理解いただけると思います! ですから、委員長そしてみなさん! 30分、30分だけ、僕にお時間をいただけないでしょうか? お願いします!!」
言い終えると、なんと龍馬はその場に土下座した。
「この通りです!」
会場のざわめきは、さらに大きくなった。
「ちょ、ちょっと榊くん! 顔を上げて」
大人しく冷静だと思っていた龍馬のあまりの
そして、答えに窮している近藤に対し、前方に座っていた生徒らが言った。
「でも、議題については事前に実行委員で散々議論を重ねたじゃない!」
「急にそんなこと言われも、ちょっとちがうっていうか……」
おそらく実行委員の生徒だろう。
だが、一方で龍馬と共に昼ごはんを食べた面々からは、
「堅いこと言うなよ! いいんじゃないの? たった30分でしょ?」
「話だけ聞いてやろうよ、実行委員長!」
「俺ら、昼メシ一緒に食った仲じゃん?」
すると会場からまた笑いが漏れた。
近藤も思わず破顔すると、腹を決めたのか顔を上げて言った。
「たしかに、事前に実行委員で協議した議題を最初に取り上げるのが筋だろう。しかし、生徒一人ひとりの声に耳を傾けるのも我々生徒会の重要な役割だと思う。今回、縁あってここに集った生徒会の仲間のひとりが、どうしても30分だけ話を聞いてほしいと言っている。しかも、土下座までしてだ。それに、その議題は我々の未来にも関わる緊急の議題だとも言っている……。とにかく、30分だけ、彼の話を聞いてみなようと思わないか? 俺は、そう思った。みんなは、どう思う?」
すると、なんと会場のほとんどの生徒たちが拍手し、賛同の意を示した。
龍馬は、近藤に対する第一印象が間違っていなかったと改めて思った。
――彼となら、あるいは同志になれるかもしれない。
龍馬は、起立すると改めて深く一礼した。
そして、前方へと歩いて行き壇上の近藤の横に並び立った。
「委員長そしてみなさん、お時間頂き本当にありがとうございます」
続いて、龍馬はこう切り出した。
「まずは、このビデオをご覧ください」
前方スクリーンに、先程登壇し挨拶したふたりが大写しになった……。
――13時45分
501会議室の扉の前では、県立南北高校の制服にスカルの目出し帽、さらにスタンガンとグレネードで完全武装した3人がやきもきしながら待っていた。そして、耳をぴたりとドアに付け、漏れ聞こえる声に全神経を集中していた。
当初の計画では、13時30分までは龍馬が生徒たちに共闘を訴えることになっていた。ただし失敗した場合、龍馬が扉を出たのを合図に武装した3人が会場を急襲、生徒たちを力で制圧するというシナリオだった。
しかし、予定の30分を過ぎても龍馬は出てこず、そのままさらに15分が過ぎようとしていた。心配した3人は、いざという時のため、完全武装でドアの前にスタンバイしていたのだ。
すると、何度目かの生徒たちのどよめきのあと、
「「「そうだ――!」」」
「「「おかしいぞ――!」」」
「「「ざけんな――!」」」
などの物騒な声が一斉に上がった。
3人は、焦った。
まさか、龍馬の身に何か!?
気づくと、碧が真っ先に扉を開け中に飛び込んでいた。そして、スタンガンの火花を散らすと大声で叫んだ!
「――動くなっ!」
一斉に龍馬も含めた44名の生徒全員が、碧、そして遅れて入ってきた東海林と桐生に視線を集中させ、沈黙する。
ひとり、龍馬だけが頭を抱えた。
その後もしばし沈黙が続き、碧が思わず、
「えっと……なんか……間違えた?」
とボソっと言った。
すると、生徒たちが一斉に吹き出した。
「すまない、みんな! さっき話してた心強い仲間というのがこの3人だ」
龍馬がそう言うと、今度はみなが一斉に拍手した。
「今のフライングで、みんな若干不安を覚えたかもしれないが、本当に心強い奴らなんでご心配なく! な?」
「な? じゃないわよ! どういうこと?」
碧が龍馬に小声で迫った。
龍馬は、晴れやかな表情でこう返した。
「見ての通りさ。ここにいるみんなは、もう俺たちの仲間だ!」
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