プロローグ(4)―国民に開かれた就任演説

 これから行われるのは、龍馬就任後初の街頭演説だ。


 龍馬は、総理としての第一声の場にあえて国会ではなく、ここ渋谷を選んだ。そしてこの演説を「国民に開かれた就任演説」と銘打ち、意図的にマスコミと国民をあおった。


 龍馬の作戦は功を奏し、渋谷スクランブルスクエアは数多の国内外のマスコミ、数万人規模の高齢者中心の支持者でごった返した。もはや、それは異様とも言える過熱ぶりだった。


「総理! ご準備よろしければ、トレーラーのウィングパネル開けまーす!」

 トレーラーのバックヤードで、舞台監督がヘッドセットに叫ぶ。

街頭演説にプロの舞台監督を据えるのも、龍馬流だ。他の演出スタッフも、すべてライブや舞台で長年経験を積んだ手練ばかりだ。さらに、専属のヘアメイクとスタイリストが、龍馬の髪や服の最終チェックを行い、トレーラーの外にはけていく。すべてが、プロの仕業だった。 


 トレーラー内の舞台中央に一人残された龍馬は、今一度、目を閉じると深呼吸した。そして、ゆっくり目を見開くと右手を上げサムズアップした。

 同時に、トレーラーのウィングパネルが徐々に開き始める。


 大きな歓声が上がる。

 それに呼応し、龍馬の演説登壇ソングが爆音で流れ始める。


 これは、有名アーティストが龍馬のために作曲したものだ。支持者はそのビートに合わせ一斉に手拍子を始める。まるでアーティストのライブのようなこの光景だが、もはや龍馬支持者たちにとっては当然のであった。


 龍馬の背後に展開されたトレーラーの内壁は、そのまま巨大なサイネージに変わる。そこには「PARTY RYOMA SAKAKI」という文字とともに「10」から始まる派手なカウントダウンが、色鮮やかなLEDで映し出されていく。そして、その手前、荷台中央の床がリフトアップされ、徐々に龍馬の姿が露わになっていく。


 歓声とフラッシュの放列が、激しくなる。 


 カウントダウンが「0」になると同時に、龍馬はその姿を完全に聴衆の眼前に現し、サイネージにも龍馬のバストアップが映し出される。瞬間、渋谷スクランブルスクエアは、最高潮に達した。主に「龍馬LOVE♡」のうちわを振り回す、老婆たちの黄色い声援で……。

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