プロローグ(3)―史上最年少の総理の誕生


 総理専用車は、駅直結の渋谷スクランブルスクエアに音もなく停止した。


 降車した龍馬はSPと超小型警備ドローンに囲まれ、すぐさまに乗り移る。演説カーは、平成からの遺物としてしぶとく残ったが少し前に完全に姿を消した。


 今やスタンダードとなったのは、背景にサイネージや巨大スピーカーを背負い、さながらアーティストのライブのように派手な演出が可能な特別仕様の演説トレーラーだ。


 それもわずか、ここ5年ほどの話である。この演説トレーラーをはじめ、完全にショーアップされた政治をメインストリームにし、本当の意味で政治の「劇場化」を成し遂げたのが榊龍馬であった。


 龍馬は、政治を舞台に変え、演説をショーに変えた。


 龍馬が作った新党「PARTY」は、最初こそ色物扱いを受けたが、徐々に都市部を中心にかつて無党派層と呼ばれた老人らから幅広い支持を集めた。


 特に高齢女性たちは、龍馬の好青年風のルックスに真っ先に魅了された。龍馬も戦略的に自分の容姿を利用した。「イケメン過ぎる政治家」「政界の微笑み王子」「国民の孫」など、意図してメディアPRを仕掛け、文字通りまず「顔」を売った。


 政策については、極端に高齢者に偏重へんちょうした保守的公約を掲げ、これまた高齢者の心を鷲づかみにした。さらに、議会の論戦においては、シンプルさとわかりやすさを徹底的に重視した。短く小学生でもわかるやさしい言葉でキーワードを語り、最後に「敵」をはっきりさせた。


 最大の仮想敵とされたのは、長らく与党を務めていた民自党だった。民自党の多くの議員もまた高齢化していたため、若く清廉せいれんなイメージの龍馬に対し、残念ながら老い、ダーティーに映った。


 龍馬は、ここでもビジュアルの「ギャップ」をたくみに利用した。老いて薄汚れた政治の世界に、突如現れた若きヒーローというイメージを、動画SNSを中心に拡散させていった。


 SNSで話題になると、龍馬と民自党議員がマッチアップした国会中継は、テレビの国会中継としては異例なほどの高視聴率を叩き出すようになった。視聴者の多くの老人たちは、そこに時代劇のようにわかりやすい勧善懲悪かんぜんちょうあくを見たのだ。


 加えて、古き良き地方の農村を支持基盤とし、長らく与党であり続けた民自党も、人口減少と高齢化により地方が崩壊していく過程で、まさにそのそのものを失い、急速に力を失いつつあった。こうした地方崩壊、それに伴う一層の都市化の流れも、龍馬と都市型政党「PARTY」の躍進を加速させた。


 ついには、先月行われた衆議院選挙で、民自党は自身の存続をかけ「PARTY」との合流を電撃的に発表。選挙後、「PARTY」は文句なしの与党第一党となり、龍馬はまもなく総理として首班指名を受けた。


 ――史上最年少、若干36歳の内閣総理大臣の誕生


 メディアも国民も、若きリーダーに熱狂した。

 支持率は、じつに9割を超えた。

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