3日目(3)―モーニングコーヒー
龍馬はまだ少し痛む頭をさすりながら、やかんをコンロにかけた。
昨日のことはひと通り思い出せたが、まだどこか頭がすっきりせず濃いめのコーヒーを飲みたいと思ったのだ。やかんが沸騰し始めると、その音に気づいたのか、台所とつづきの龍馬も先程まで寝ていた居間でムクムクと巨漢が上体だけ起こした。
「……ん? 龍馬、起きてたのか?」
龍馬は昨晩、自分のことをなんと呼べばいいと言う桐生に「龍馬」と呼んでくれと返した。実際、未来でも仲間内では「龍馬」と呼ばれていた。碧にも東海林にも同様に、今後はそう呼んでくれと告げた。「総理くん」などと呼ばれるのも、なんだかこそばゆかったからだ。不思議なもので、呼び方を変えるだけで龍馬と3人との距離はぐっと近づいた気がした。
「あぁ、さっき起こされたとこだ。誰かさんの強烈のキックを食らってな」
「……キック? なんの話だ?」
「いや、いいんだ。桐生もコーヒー――」
「――おっ、飲む飲むー!」
いつの間に起きたのか、東海林も割って入ってきた。
おどおどしていた東海林にも、昨晩から変化があった。ひょっとするとヤンキーに思い切り殴られ、若干、おかしくなったか、あるいは気分的に吹っ切れたのかもしれない。龍馬たちにも物怖じせず、未来のカリスマ配信者然とした軽快な物言いで話す彼の「地」が
「あぁ……俺も頼む」
東海林につづき、桐生も大あくびをしながら龍馬にコーヒーを頼んだ。
まもなく湯が沸くと、龍馬は3つのコーヒーカップを並べインスタントコーヒーの粉を入れ、ゆっくりと湯を注いだ。コーヒーのいい香りが、台所と居間に漂った。龍馬の住む家には、あまり朝日が差さない。だから、このインスタントコーヒーの香りがほとんど徹夜明けの3人の意識に朝が来たことを認識させることになった。
そして、まだ薄暗く広くもない居間で、昨日とか一昨日に出会ったばかりの男子高校生3人は肩を並べ、眠気眼でコーヒーをすすった。
背格好も、雰囲気も、性格も、まったくバラバラの3人だった。
そんな凸凹感しかない3人がなぜか空間を共にし、同じ方向を見つめ、同じものを飲んでいる。その様は、どこか3人自身にも滑稽なものに思えた。
互いにそんなおかしな空気が伝染したのか、3人は自然と誰からともなく小さく笑い始めた。
「不思議だな……なぜ俺は昨日会ったばかりのお前らとこんな狭苦しい部屋で仲良く肩並べてモーニングコーヒーなんて飲んでいるんだ?」
「まったくだ……まあ、未来の縁かな」
龍馬が言うと、
「おっ、いいね〜、未来の縁。希望がある!」
東海林がニコニコしながら応えた。
「今は、希望しかないけどな」
そう龍馬が返すと、
「だから、俺らがその希望を新しい未来に変えるんだろ?」
桐生がさらりとカッコいいことを言って締めた。
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