6日目(15)―ジジババ栄えて、国滅ぶ

 ――20時45分


 NHK、民放地上波の全チャンネルがを流し始めた。

 寸分違すんぶんたがわずということで言えば、日本のテレビ放送史上初のことだろう。


 その画面左半分に団総理、右半分にドクロの目出し帽の龍馬が映っている。

 団総理は、官邸内の会見用スピーチデスクの前に立っていた。直前の放送で龍馬は、総理の映像は指定した某動画サイトに生放送でストリーミングせよと指示していた。


 一方、龍馬の配信映像は例によってハーバースクエアから百武に飛ばされ、百武はその龍馬の映像と総理の配信映像を並べリアルタイムで一画面にミックスし、県立南北高校生徒会の配信映像として配信していた。


 NHK、民放全チャンネルが放送しているのも、まさに百武が配信している映像だった。これも直前の放送で龍馬が指示したもので、放送各社にはオンエアするのは構わないが、スーパーなどの一切の改変を禁じていた。


 このような放送の仕方を選択したのは、いざという時、放送中止などの主導権を龍馬たち側が握るためのもので、よくネット配信をしていた東海林の発案によるものだった。


 龍馬のヘッドセットに百武の声が聞こえた。

「こちら05。すべて準備OKです。これから、総理の声を01のヘッドセットに返します」


 龍馬はわずかだけうなずくと、語り始めた。

「それでは、団総理。準備が整ったようなので対話を始めたい」

 すぐさま、団が返す。

「その前に確認したい。対話が終わったら人質全員を開放する。改めて、それを約束してほしい」

「もちろんだ」

「必ず約束してくれ」

「しつこい! 我々は約束を守る。あなた方、政府と一緒にするな!!」

 団は、苦々しい顔をした。

「……わかった。で、諸君らは、そもそも私となんの話がしたいんだ?」


「――我々は、10代の声なき声を届けるために立った。我々は、率直に言って、この国の未来を憂いている」


「ふっ、憂国の士を気取るのか? テロリストの分際で」

「我々の代弁者は国会にいない! 正当な手続きを踏んでいたら間に合わないから、あえて今、事を起こしたんだ。団総理を含めたお偉い先生方が目先の選挙や政争ばかりでなく、少しは10年先、20年先に目を向けてくれていたら、そもそも我々が立つ必要はなかった!」


「言ってる意味がわからんな。選挙こそ、民主主義の基本だ。すでに選挙権は18歳まで拡大している。10代の声を届けたいならば、18歳になるのを待って投票場に行くか、地元の議員にでも話すべきではないのか? それが議会制民主主義というものだよ」

「それじゃ、遅すぎると言っている!」

「なにが遅いというんだ?」

「再来年の2020年、東京オリンピックの年には、女性の半分は50歳以上になる。その4年後、2024年には、国民の3割が65歳以上になる。これは統計的に決定事項だ。高齢化社会は遠い未来の話じゃない。すでに始まっている話なんだ!」

「そんなことはわかっている! だから、政府は――」

「――わかってない! この急速な高齢化に、日本の政治も制度もまったく対応できていない! さらに言えば、実際は、あなた方政治家も官僚だって薄々それが大問題だと気づいているのに問題を先送りし、その核心にはあえて触れようとしていない。それが問題だと言ってるんだ!」

「……話が見えん。諸君らが言う、その問題とはなんだ?」


「――あえて言いましょう。ジジババ栄えて、国滅ぶ」

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