エピローグ ―2038年、もうひとつの渋谷

 すべてが、輝いて見えた。

 街も、人も、この街を包む空気も。

「若返ったな……渋谷」

 榊龍馬は、先の未来と様変わりした街を眺め、つぶやいた。


 ――2038年、渋谷


 そこには高齢者も多いが、ベビーカーを押す母親や若い夫婦の姿も多い。

 当然、核兵器なんて物騒なものが降ってくる気配も、ない。


 出生率が下げ止まったのは、2023年頃の話だった。

 龍馬たちが2018年にあの行動を起こした後、世代間格差や日本独自の採用慣行の見直し議論が、国会だけでなく、マスコミ、ネットでも盛んに行われるようになったことがきっかけだった。


 年間予算の振り分けも、子育て支援、教育に思い切った予算が振り分けられるようになった。一方、社会保障制度改革にも、ようやく政府が本腰を入れ、ついに2028年にはベーシックインカム制が導入された。


 当初は、年金制度より取り分が減ることになった高齢世代の猛反発があったものの、龍馬のあの最後の演説に影響を受けた若い世代の政治家たちが多く政界入りし、法案成立と実施の原動力となった。


 また、新卒一括採用も新卒後3年間は新卒とする制度に改められ、この国の若者の就職も随分、柔軟に変化した。さらに大学までの教育費も無償化された。なんと、龍馬たちが要求した政策は、ほぼ概ね10年以内に実現してしまったのだった……。



「――パパー!」

 

 そう一生懸命叫び、こちらに駆けてくる愛娘まなむすめに龍馬は目を細めた。

 その後には、愛する妻の姿もある。碧だ。

 龍馬と碧が結婚したのは5年前だ。

 この未来では、ふたりが別れることはなかった。


「またかわいくなったな? のぞみちゃん」

 そう龍馬を小突くのは桐生だった。希とは龍馬の娘の名前だ。

 桐生はあれ以来、この未来では仕事関係の間柄ではなく普通に親友となった。


「本当だな、あれは碧に似て美人になるぞ。でもまあ、うちの子には敵わないだろうけどね!」

 桐生とは反対側の龍馬の隣には、東海林が立っていた。

 さらにその横には、なんとお腹が大きくなった百武が立っていた。


 東海林と百武はあれからしばらく後、付き合う間柄になり、長い交際期間を経て2年前についに結婚した。そして、百武のお腹の中には、今、東海林との第一子が宿っている。


「希ちゃーん! 碧さーん!」

 百武は、そう叫ぶと碧と希に笑顔で手を振った。

 もうそこに、あの頃のようにどこか儚げで、不安そうな面持ちは、ない。

 東海林の影響か、本当に幸せそうで自然な笑顔が溢れていた。 


 まもなく全員が合流すると、5人は希を囲むようにして微笑んだ。


「今日、パパたち、どーそうかいするの?」


 希が聞くと、龍馬は答えた。

「あぁ、そうだよ。県立南北高校生徒会20年目の記念同窓会だ」

 加えて、希にだけ聞こえるように、こう耳打ちした。


「――内緒なんだけどね。じつは、パパたちは未来を変えたヒーローなんだ」


 すると、希は顔をくしゃくしゃにして笑った。



〈終〉

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ジェネレーション・ストラグル 〜世代間闘争〜 0o0【MITSUO】 @0o0_P

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