6日目(17)―論戦の行方

 ――龍馬は、世代の話をふっかけた。


 短気で気性の荒い団に対し、まるで個人攻撃を仕掛けているかのように世代の話をし、あえて団がキレるよう仕向けたのだ。


 論戦では、キレたら負け。

 これも政治家として論戦を重ねた龍馬の経験則のひとつだった。それが中継されていればなおさらだ。その前にどんなにいいことを言っていたとしても、キレてしまったら視聴者もマスコミもその印象にすべて持って行かれる。正論も、説得力も、無に帰す。


 さらに論戦後には、必ずキレたシーンのみが面白がられ、マスコミでも、SNSでも編集され流布する。そうなってしまったら、取り消そうにも手遅れだ。内容が刺激的であればあるほど、イメージはひとり歩きし、勝手に拡散していくものだ。それらを理解した上で、龍馬は団をにけしかけたのだ。


 元々、団自身、細かな政策論争は苦手なタイプの政治家だった。ゆえに、若手時代はアドリブでボロを出す失態を繰り返した。そのため、総理になってからの答弁や演説は、菱川が間に立ち、秘書官やスピーチライターに周到にペーパーを用意させていた。その意味では、団にとって久しぶりのガチンコ討論だった。しかも、相手は未来の総理。相手が悪く、無理もない失態だった。


 だが、国民注視のこの場での失態は、団に手痛いものとなった。

 特に、中継を見る若い世代の多くは、この瞬間から総理よりむしろ犯人側に共感を寄せていくことになる。それは、各種SNSでのコメントも同様であった。まさに、潮目が変わりつつあった……。


 対する、菱川の対応は早かった。

 瞬時に険しい表情で執務室に戻ると、すぐさま電話をかけた。


「あぁ、そうだ! そういうことだ! いいから、早くやれっ!!」


 また、らしからぬ荒い言葉で指示を出し、一方的に電話を切った。

 菱川のが、この電話により発動されたのだった。


「――総理、もうしばしの辛抱です」


 菱川は、不敵な笑みを浮かべ、テレビ画面につぶやいた。

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