1日目(9)―真実と策謀

「えっと……僕、ですよね?」


 わかってないがらも、龍馬は一応確認した。

 女性は涙を拭いつつ、なんとか笑顔を作り話し始めた。


「そう、君。あのね、私、3年C組の御影石陽斗みかげいし はるとの姉で、たえと言います」


「……はい」

「君さ、うちの弟が自殺したっていう話……さすがに知ってるよね?」

「えぇ……まぁ」


「なんでもいいの! 陽斗に関する情報、なにか知らないかな? どんな人と付き合ってたかとか、校内でどんな風に過ごしてたとか……なにか知らない?」


「いや、僕は2年なんで、先輩たちのことはあまり……」

 龍馬がそう答えると、妙はとても悲しそうな顔を浮かべた。

 その表情は、龍馬を何ともいたたまれない気持ちにさせた。

 そして、頭ではこんなこと言ってる暇はないと認識しつつも、気づくと次のように言葉を続けていた。


「ただ、ただ……先輩たちに話を聞くくらいなら――」


「――本当に?」

「まぁ……なんとか」

 龍馬はすぐに後悔したのだが、言ってしまったものは仕方がない。

 それに、そう話しただけで妙の顔がパッと明るくなったからなおさらだった。結局、龍馬はなにか陽斗に関する情報を得たら連絡すると約束し、妙と連絡先を交換した。

 妙は何度も龍馬にお辞儀じぎをし、去っていった。


 思わぬ足止めを食らったが、龍馬も後を追うように始業前ぎりぎりで校門を出た。歩みを早めながら、先程、同じく連絡先を交換したばかりの碧のスマホに電話を入れる。すでに一限は始まっている時間だったが、碧は予想通りワンコールで電話に出た。


「やっぱ、授業はサボるんだな?」


「そうね、ある意味、学校公認だし。無駄なことはしない合理主義者なの、私。ところで、まさかもう『彼』に会えたわけ?」


「いや、まだだ。今、向かっている」

「そう。私は作戦の中身をより具体的に詰めるから、ちゃんと『彼』を仲間にしてきてね」

「もちろんだ。でな、それとは関係ない話なんだが、3年で自殺した御影石先輩って、碧、知ってるか?」

「ええ、第二化学準備室ラボもっている私の耳にも話くらいは入ってきたわ」

「そっか……だよな。その程度じゃ碧には期待できないか……」

「はぁ、なによ?」

 龍馬は、先程、校門であった話をかいつまんで碧に話した。

「――あんたも大概、おせっかいね? 6日で未来変えなきゃいけないくせに」

「あぁ、自分でも思う……」


「でも……ひょっとして、この話使えるかも」


「使える?」

「もし、その御影石先輩が、いじめで自殺したんならね」

「どういうことだ?」

「ううん、あなたは『彼』の方に集中して。この件は、私の方で当たるから任せてもらっていいわ」

「本当か? 助かる。さすが碧だ」

「だから、私を誰だと思ってるの?」


「人類史にその名を刻む、たぐいまれなる天才科学者だよ」


 龍馬がさらっと言うと、碧もさすがに少しバツが悪そうな様子で応えた。

「ま、まあ……そういうことよ……」

 龍馬との通話を切ると、碧はすぐさま誰かに電話をかけた。


「授業中なのに、よく出られたわね……あ、そうなの? ふーん。じゃ、手短に。あなた、私の言うこと、なんでも聞くって言ったわよね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る