6日目(13)―炎上と祭と最終手段
――19時50分
ネットでは、先程の龍馬の生放送を受け、警察、政府の対応への非難がさらに渦巻いていた。それは、炎上と言えた。
その声は、大別すると以下の2つの意見に集約された。
〈なぜ、警察は犯人である確証のない生徒の病気の母を無理矢理、説得に連れ出したのか?〉
〈なぜ、政府は未だに犯人の要求に対する姿勢をはっきりさせていないのか?〉
政府は、テロに屈すべきでないという意見がある一方、犯人はなにも法外な金や政治的意図を無理強いしているわけでなく、要は話し合わせてくれと言っているだけなんだから団総理は応じてやればいいじゃないか? という論調がもはや多数派になりつつあった。
また、いじめを
一方、タイムリミットまで10分を切った官邸内には、重い空気が満ちていた。
警察や政府への批判的な国民の声は、当然、団や菱川の耳にも入っていた。菱川は、自らが無理強いした母親による説得がこのような結果を招いたことを後悔していた。官房長官に就任以来、最大の痛恨の極みだった。
現在、総理執務室には、その菱川と団のみが座っていた。
これまでも、政府の重要な決断をする際は、いつもこうしてふたりで執務室にこもり、最終的な判断を行ってきた。
しかし、今回に限ってはなかなか結論が出なかった。先程から団も菱川も黙り込み、重苦しい沈黙だけがしばらく続いていた。菱川は険しい表情をし、団は腕組みしたきり目を閉じていた。自分の失態もあり、菱川にはうかつなことは言えなかった。そのため、室内はただ団の決断を待つのみとなっていた。
どれだけ沈黙が続いただろうか、ようやく団が目を開けた。
「あと何分?」
団は、残り時間を菱川に尋ねた。
「8分です」
菱川が時計を確認し、久々に発した声はかすれた。
「……そうか。うん、じゃあ、記者会見の用意して」
「では……」
「あぁ、犯人との対話に応じてやる」
「……しかし!」
「他に手があるか? SATの動きは読まれ、犯人だと思った生徒は人質で、国民すら我々に批判的だ! この上、対話にも応じず犯人が暴走し犠牲者でも出たら!! ……内閣がもたんかもしれん」
「……わかり、ました」
菱川は悔しさを噛み殺しうなずいた。
しかし、『いざという時は……』という言葉は飲み込んだ。
同時に菱川は冷徹に、もしもの時の最終手段も準備せねばと考えていた。官邸での緊急会見の手配を部下たちに指示すると、自分はひとり執務室に戻った。そして、すぐさま、ある人物に電話を入れた。
――その人物とは、警察庁長官の門脇だった。
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